episode,Ⅳ:アモーレ
【登場人物】
*釘鎹聖綴(12歳)……身長142cm。赤ん坊の頃、自動車事故により両親を失った唯一の生き残りでキリスト教児童保護施設から脱走し無意識にスラム街に辿り着き、仲良くなったヴェルハルトと犯罪に手を染めながらも人生を謳歌していく。しかし、突然の暴走車にはねられ呆気なく死亡する。
*柊ヴェルハルト(14歳)……身長166cm。日本人の母とフィンランド人の父を持つハーフだが父親を病で失って以来、五人姉弟の真ん中だが居場所を失い家出をしてスラム街で生きていたが聖綴を拾ってその兄貴分となる。聖綴を失ってからは一匹狼として生きる。父の影響でキリスト教信者だが神を信じてはいない。碧眼に長い金髪を後ろ一つに結んだヘアスタイル。
*ナムウドッグ=チリプス・ナタスレグアトサエブ(年齢不詳)……身長198cm。釘鎹聖綴という少年の人生を生きた核なる存在。美麗と醜悪が混ざった外見をしている。自分の存在に疑問を抱く。
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地獄は、その入り口の門に刻まれている様に堕落した人間達が、永遠の苦脳を受け続ける為の憂いの国だ。
一方煉獄は、遅かれ早かれ極楽の境遇を手に入れる事が保証されている霊魂達が罪の浄化に専念する場所だ。
しかし、その煉獄の霊魂達は如何に恵まれていようとも、彼等に科せられた浄化の為の修行自体は、地獄の責め苦と大差ない。
例えば、高慢の罪を浄める為に巨石を背負って歩き続ける霊魂達や、嫉妬羨望の罪を浄化する為に両目蓋を針金で縫い合わせて涙を流し続ける霊魂達など、地獄の責め苦にも劣らない拷問を受けている。
しかし煉獄では、夜だけは安らぎを与えられ休息する事が許されているようだ。
第四環道の門はまだ閉ざされたままだ。
その間に、一緒にいた吟遊詩人ソルデルロが聖綴とヴェルハルトへ、述べた。
「創造主も被造物も、愛を失った事はなかった。その愛とは、自然の愛と魂の愛の事です。そしてきっと君達は心のどこかしらで知っている。気付く気付かないは本人次第です。自然の愛には如何なる時も過ちは存在しない。しかし、もう一方の魂の愛は悪い目的──動機が不純であったり、活動力が強すぎる或いは弱すぎたりする原因によって、間違う可能性があるのです」
即ち、"神が万物を愛する愛"や"万物が神を愛する愛"等の神が介入する愛には"過ちは存在しない"のだが、"魂の愛"は悪い目的で動機が不純な愛や、強すぎる愛、弱すぎる愛は間違いを犯す事があると言う事だ。
その愛が神に関わっている限りは、またそれ自身中庸をもって人間にまつわる善に向かう限り愛は、悪の原因へ向かう事はない。
しかし愛が悪の方へ捻じ曲がるか、または熱意のあり過ぎた状態か、あるべきではない程に劣った関心で熱意に欠けて愛が善の方へ早急に向かう時は、愛はその被造物=人間に対して創造主=神に敵対させるとの事だった。
人間には三つの愛を持っている。
第一の愛は、原初の善である神に関わった愛で、それは無条件に善なるものだ。
第二の愛は、神とは無縁のものであっても、自分自身の身の程を弁えている善を成す時の愛で、それは正しいものとされる。
第三の愛は、罪を犯す愛だ。
そして罪を犯す過程には更に三過程あり一つは、最初から悪へ捻じ曲がる罪で恐らく、その罪は地獄へ堕とされる事で、後々述べる煉獄の第五環道から第七環道で過酷な浄罪を科せられる。
第三目の過程は、過小な熱意──即ち熱意が欠けていたので罪を犯した人間の事で、運が良ければ死後煉獄の第四環道で怠惰の罪を浄化させられるか、運が悪ければ地獄の前庭で地獄からも拒否されて永遠にさ迷う事になる。
愛が我々人間達のあらゆる徳の種であり、且つ罰に値するあらゆる行為の種である事が分かる筈であろう。
善行であれ悪行であれ人間に行為を起こさせる根源の事を愛と呼ぶのだそうだ。
神の愛だけを愛と呼ぶのなら邪悪な愛などという考え方は起こらない筈だ。
邪悪なものを生み出す=種から善良なものを生み出す愛まで多種多様な愛が存在するが、その中で最も崇高なものを生み出す愛が"神の愛"と言う。
「魂の愛ねぇ……」
ヴェルハルトが意味深に呟く。
「俺は愛がない」
聖綴はポツリと述べた。
これに、ソルデルロはニッコリとお微笑んだ。
「いいや、ありますよ」
「ある? 俺に? どうしてさ」
聖綴が眉宇を寄せて、ソルデルロへと顔を向ける。
「だから君は、存在している。それが証拠です。愛ゆえに、君は誕生したのです。それに、愛を全ての概念として述べるならば、君達二人の友情も確かな愛。そうでなくては肉体を持つ生きた状態であるにも関わらず、この世にまでヴェルハルトが君と共に地獄をも通ってこの煉獄にまで、付き合ったりはしませんよ」
「成る程……」
聖綴は呟いて、ヴェルハルトの碧眼を見つめた。
「お前は俺にとって、命に賭けてかけがえのない大事な──弟みたいなもんだからな。唯一の家族に、血の流れなんて関係ねぇ。寧ろ俺のマジの家族の方が、よっぽど薄情だ」
ヴェルハルトは言うと、聖綴の頭をわしゃわしゃと撫でた。
「俺の本性がナムウドッグでも?」
「当然だろ。だから俺は、お前の中のナムウドッグを呼び出したんだからよ。今やナムウドッグを含めて大切な存在だ」
「ヴェル……ごめんね、死んじゃって」
「お前は悪くねぇよ。悪ぃのはお前を車で轢き殺したドライバーだ」
叶うものならそいつをこの手でフルボッコにしてやりたいと、言う発言をグッと我慢するヴェルハルト。
ここが煉獄だったので、言葉を控えたのだ。
ソルデルロが再度、口を開く。
「世の中には自分の隣人を踏み台にして優越を狙う者がいる。そしてただこの為に等すら相手が立派な地位から転落する事を願っている。また他人が出世すれば、権力や寵愛や栄誉や名声を自分が失いはしないかと恐れる者がいる。その為に、余りにも隣人や他人の出世を悲しむ余りに、その失脚を願うのです。危害を受けると激怒する様に見える者がいる。余りにも復讐する事を切望する様になるので、その様な人は他人に悪事を加える事をしなければならなくなるのです」
即ち、"傲慢の罪""嫉妬の罪""憤怒の罪"を指しているのだ。
そうしてすっかり夜が明けたところで、ソルデルロとはまた別れて、聖綴とヴェルハルトは第四環道怠惰の罪の浄化エリアへと足を踏み入れた。
ここまで読んでくださったあなたに改めて感謝の愛を。
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