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【反・神説】背徳の獣  作者: 緋宮 咲梗
section,Ⅴ:煉獄登山編
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episode,Ⅲ:善悪なる憤怒

【登場人物】

釘鎹聖綴(くぎかすがいさとと)(12歳)……身長142cm。赤ん坊の頃、自動車事故により両親を失った唯一の生き残りでキリスト教児童保護施設から脱走し無意識にスラム街に辿り着き、仲良くなったヴェルハルトと犯罪に手を染めながらも人生を謳歌していく。しかし、突然の暴走車にはねられ呆気なく死亡する。


(ひいらぎ)ヴェルハルト(14歳)……身長166cm。日本人の母とフィンランド人の父を持つハーフだが父親を病で失って以来、五人姉弟の真ん中だが居場所を失い家出をしてスラム街で生きていたが聖綴を拾ってその兄貴分となる。聖綴を失ってからは一匹狼として生きる。父の影響でキリスト教信者だが神を信じてはいない。碧眼に長い金髪を後ろ一つに結んだヘアスタイル。


*ナムウドッグ=チリプス・ナタスレグアトサエブ(年齢不詳)……身長198cm。釘鎹聖綴(くぎかすがいさとと)という少年の人生を生きた核なる存在。美麗と醜悪が混ざった外見をしている。自分の存在に疑問を抱く。


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 これに釘鎹聖綴(くぎかすがいさとと)は、ゆっくりと(ひいらぎ)ヴェルハルトを横たえると、その隣にちょこんと座る。

 確かに、ヴェルハルトの言う通り空腹は感じない。

 聖綴に至っては、睡魔さえも感じない。

 夜になると強烈な睡魔に襲われるのは、人間の肉体を持つヴェルハルトだからか、そして食事の代わりに眠る事でここでは体力を回復しているのか。

 聖綴は本体がナムウドッグ=チリプス・ナタスレグナトサエブだから睡眠を摂らずとも、平気でいられるのか。

 その時ふと、地獄での事を思い出す。

 地獄では、ヴェルハルトは睡魔が訪れなかった。

 単純に、亡霊達に肉体を奪われない自己防衛からかも知れないが、もしかすると逆に睡眠を与えない、唯一肉体を持つヴェルハルトへ地獄からの、一種の"罰"だったとしたら?

 聖綴も肉体は持っているが、その肉体は幾重もの視えない"霊的エネルギー"に包まれ、保護されているのもあり──あくまでもナムウドッグによるもの──睡眠の領域から逃れられている。

 そして地獄を見て解放された事により、再度"睡眠"が体力回復手段として戻ったと考えれば、納得がいく。

 などと、聖綴はヴェルハルトに膝枕をしながら考えていると。


「やぁやぁ、これはこれは」


 この突然の呼びかけに、聖綴は振り返る。


「お久し振り……って程でもないでしょうが、ここまで来られたのですね。お二人共」


 それは噂をすれば吟遊詩人のソルデルロだった。


「そっちこそ」


 聖綴が言いやる。


「ええ。素晴らしい賛美歌に励まされましたからね」


 言うとソルデルロは聖綴の隣に座り込んだ。

 そして彼の足元の様子に気付いて微笑んだ。


「おや。彼は眠ってしまいましたか。これは正解です。夜は肉体ある身、寝るのが一倍良い。夜は上へ、登れませんからね」


「登れない……?」


 聖綴が疑問に似た言葉を返す。


「ええ、そうですよ。知りませんでしたか? 煉獄山を登れるのは昼間だけ──日の出から日の入りまでです。それ以上、無理に登ろうとすれば、この煉獄の夜の闇に迷わされ、気が付くと登っているつもりが下りてしまっていてまた最初からやり直し、ってパターンに陥るのです」


 ソルデルロは言うと、ニッコリと笑った。


「よく、そんな事知ってるね」


「そりゃあ、聖書に綴られていますからね」


「聖書、か……。俺は最後まで、詳しく読んだ事ないや。俺がいた児童養護施設はクリスチャンだったから、いろいろ教えられたけど、どうしてかその時間が嫌でいつも逃げ出してサボってた」


 聖綴は言うと、膝枕をしているヴェルハルトの美しい金髪を、優しく撫でた。

 ヴェルハルトは静かに寝息を立てている。


「それもいいでしょう。子供ですしね、聖書も説教臭く感じるでしょう」


 言うとソルデルロはハハッと笑った。

 そしてハッとすると周囲を見回す。

 そして聖綴の耳元へ口を寄せると、囁いた。


「今のは二人だけの話って事で」


 これに聖綴がクスクスと愉快そうに肩を竦めて、小さく笑った。

 すると遠くから何やら喚き声が聞こえてきた。

 その声は、段々と近くなっていく。

 それは次の様に、怒りを込めて発せられていた。


「君等生きている人々は何かと言うとすぐ原因を天のせいにする、まるで天球が萬事(ばんじ)を必然的により動かしているかのような口吻(こうふん)だ! 仮にそうだとすれば、君等人間の中には自由意志は滅んだ事になり、善行が至福を悪行が呵責を受けるのは正義にも取る事となる。天球は君等の行為に始動は与えるが、萬事がそれで動くのではない。仮にそうだとしても善悪を知る光や自由意志が君等には与えられている。そしてこの意志は初期の戦いでは天球の影響を受けて苦闘するが、もし意志の力が十分に養成されてされているならば、全て克てる筈だ! 君等は自発的に、より大きな力、より良き性質が君等の中に自由に服する事が出来る。その性質が君等の中にもう天球が左右出来ない様な智力を創り出す! だから! 現在の世界が正道を踏み外しているとするなら、原因は君等の中にある! 君等の中に求めるべきだ‼ 上に立つ人の行いが世界を邪悪なものにしてしまった原因である。例え本性が君等の性質が腐敗堕落したせいではない‼」


 この怒声の中でも、ヴェルハルトは聖綴の膝枕でスヤスヤ眠って起きる気配もない。

 

「何かあの人、メッチャ怒ってるけど、この環道では問題ではないの?」


 聖綴はソルデルロへ尋ねた。


「大丈夫。なぜならば、あの者は悪い怒りを持たないから」


 ソルデルロは答える。


「世の中には悪い怒りと良い怒りも存在し、あの彼が痛烈に批判しているのは、"理性に調節された良い憤怒"になるのです」


 即ち、彼は激怒して教会を断罪する事によって、"憤怒の浄化"を行っているのだ。

 第三環道で浄罪に励む霊魂達は、激しい憤りと正義感を持って現世の悪を、糾弾しているのだろう。

 天地の創造に際して神が惜しみなく賜うた最大の贈り物は、神が最も重く見、そして神の力に最も似つかわしくない所の自由の意志だった。

 一人知性のある生物だけが皆全て、この自由意志を昔も今も、授かっているのだ。

 そんな中で、闇に輝く星々の輝きが薄れてきて、次第に空も白み始めてきた時だった。


「ん……んんー……」


 身動ぎ、小さく呻いたかと思うとヴェルハルトが漸く目を覚ました。


「おはようヴェル。良く眠れた?」


「ん、眠れた」


 寝起きの顔でぼんやりさせながら呟く様に答えると、大きく伸びをするのだった。



ここまで読んでくださったあなたに健やかなる眠りを捧ぐ。

大変ありがとうございます‼

良ければ、「いいね!」もしくは「☆」をよろしくお願いします。

「いいね!」は読者様がどこまで読んだのかの目印にもなって励みになりますのでどうかよろしくです♪

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