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【反・神説】背徳の獣  作者: 緋宮 咲梗
section,Ⅴ:煉獄登山編
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episode,Ⅱ:星瞬く煉獄の夜空

【登場人物】

釘鎹聖綴(くぎかすがいさとと)(12歳)……身長142cm。赤ん坊の頃、自動車事故により両親を失った唯一の生き残りでキリスト教児童保護施設から脱走し無意識にスラム街に辿り着き、仲良くなったヴェルハルトと犯罪に手を染めながらも人生を謳歌していく。しかし、突然の暴走車にはねられ呆気なく死亡する。


(ひいらぎ)ヴェルハルト(14歳)……身長166cm。日本人の母とフィンランド人の父を持つハーフだが父親を病で失って以来、五人姉弟の真ん中だが居場所を失い家出をしてスラム街で生きていたが聖綴を拾ってその兄貴分となる。聖綴を失ってからは一匹狼として生きる。父の影響でキリスト教信者だが神を信じてはいない。碧眼に長い金髪を後ろ一つに結んだヘアスタイル。


*ナムウドッグ=チリプス・ナタスレグアトサエブ(年齢不詳)……身長198cm。釘鎹聖綴(くぎかすがいさとと)という少年の人生を生きた核なる存在。美麗と醜悪が混ざった外見をしている。自分の存在に疑問を抱く。


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 その煉獄の第二環道に留まっている霊魂達、いつの日か必ず神の後光を仰ぐ事が出来る身の上なのだ。

 それ故に、そこの霊魂達が目蓋を針金で縫い合わされているのは、現世で犯した嫉妬の罪の浄化を促進させる為に与えられた、罰なのだ。

 その罪業自体では地獄に堕ちる事はない。

 それ故に、この煉獄で両目を縫い合わされて涙を流している者達は、信心深い霊魂達なのだ。

 この中にサピアという女がいる。

 偶然、釘鎹聖綴(くぎかすがいさとと)(ひいらぎ)ヴェルハルトが立ち止まった気配に気付いたらしく、彼女は知恵の女という意味の名を付けられたにも関わらず、愚かであった事を懺悔(ざんげ)して誰にとなく告白を始めた。


「他の皆様方と御一緒に、私どもを助けてくださいます方に涙して祈りつつ、現世の罪をここで浄められているのでございます。ここで悪質だった生涯を。私は賢明なる女なる意味のサピアと名付けられたにも関わらず、賢明でありませんでした。他人の苦痛は、私の幸運よりも更にもっと喜ばしいものでした。迂闊(うかつ)にも私は、ある日の事人の不幸を見て喜び勇み、天を仰ぎ見神に向かって叫びました。『こうなればもうお前など恐れはしないぞ!』と……」


 するとそれを聞いた聖綴が、彼女に囁きかけた。


「その気持ち……俺の中のナムウドッグなる人物も、同じ気持ちだろうよ」


 それを聞いてサピアは、ヒッと小さく悲鳴を上げて顔を深々と下げ伏した。

 これに聖綴は小さくクスッと笑うと、立ち上がる。

 聖綴とヴェルハルトはサピアと別れて、第二環道を奥の方へと進む。

 聖綴とヴェルハルトの旅も第二環道の出口に差し掛かった。

 太陽は西から、顔面に直射してきたので手の平を(かざ)して、その眩しさから塞ぐ事が出来た。

 ところが、下からの反射の光には防ぎようがなく、つい顔を横に逸らした。

 その眩惑させた光の正体は、天の家族──"お使い"が人の上に登るよう誘いに来たのだ。

 直にこうしたものを見るのが苦痛ではなくなり、生得の感覚で感じ得る限りの歓びとなるだろう。

 "お使い"とは、つまり聖なる天使の事で、放たれる光輝は避ける事が出来なかった。

 聖なる光は煉獄の岩すらをも、跳ね返ったのだ。


「チッ……」


 これに小さく舌打ちしたのは、本性がナムウドッグである聖綴だった。

 煩わしい。

 そう内心密かに思った。

 一方でヴェルハルトも喚いていた。


「まっぶっ‼ 前見えねぇし‼ 人の迷惑も考えろ‼」


 だがその祝福された御使いは気にせず嬉しそうな声で、聖綴とヴェルハルトへ対してこう言った。


「今までのものよりも緩やかな向こうの階段へ向かって、ここから入れ」


 地獄界の階段は下へ降りれば降りる程険しくなっていたが、煉獄の階段は上へ登れば登る程緩やかになっていくらしい。

 聖綴達が煉獄の次の場所である第三環道へ向かう時。

 また恒例の賛美歌が歌われた。

 その賛美歌とは、マタイによる福音書の八つの幸福について説かれた山上の説法の中の一節だ。

 "憐れみある同情をする人は幸いなるかな"なる歌は、第二環道で嫉妬の罪業を浄化した霊魂達を次の環道へ送り出す門出の歌としては、最適なものだった。

 その歌に加え、今度は"喜べ、勝利を収めている汝よ"という歌声が続いた。

 この詩句は、『イエスによる山上の説法』の八福を締め括る言葉である『喜べ、そして喜びの声を上げよ。あなた達の報酬は、天国の中で豊かなものになるのだから』というイエスの言葉を集約したものだと言われている。

 煉獄門で守衛天使によって、(ペッカート)を象徴する七つの"P"の文字が額に刻まれた。

 そして第一環道で、傲慢の罪業を浄化し終えた時、守護天使が現れ、額に翼で触れて一つの"P"を消した。 

 そして今、この第二環道で嫉妬の罪業を浄化した時、やはり守護天使が現れたので額の"P"字を消す儀式が行われる筈だ。

 しかしその行為は成されず天使はこう告げた。


「さぁ、もう二つ目の傷は消えたから、他の五つも早く消える様努めるがいい。苦しんで初めて塞がる傷だ」


 こうして賛美歌と守護天使に見送られて、第三環道へ向けて登り始めた。


「なぁ聖綴。二つ目の"ペッカート"、マジで消えてる?」


 ヴェルハルトに尋ねられ、歩を進めながら前髪を掻き上げて見せる彼の額を、聖綴は覗き込んだ。


「うん! バッチリ消えてる!」


 笑顔の聖綴の言葉に、ヴェルハルトは安堵して前髪を下ろした。

 そして目の届く限り注意を払いつつ、二人は夕暮れの道を進んだ。

 正面には、沈みゆく太陽が明るく(きら)めいていた。

 



 やがて次第に夜の帳が降り初め、段々と周囲は暗くなり空のあちらこちらには星々が次第により広い空の領域に出現してきた。

 ここは煉獄第三環道の憤怒の浄化場所だ。

 その時だった。

 ヴェルハルトの両足が震え始めたのは。


「どうかしたの? ヴェル」


「いや……それが変なんだ。どんどん足の力が抜けていきやがる」


「足の力が……?」


 するとついに、ヴェルハルトはその場にへたり込んでしまった。


「クソ……! 足に力が、入らねぇ……‼」


 ヴェルハルトは言って、立ち上がろうともがくも無駄でしかなく、その場に立ち崩れるしか出来ずにいた。


「大丈夫だよヴェル。このままここで、座っていよう?」


 聖綴からの労りの言葉に、ヴェルハルトは口元を引き攣らせた。


「すまねぇな聖綴……お前を──お前の中のナムウドッグの自分探しの旅を手伝うつもりで付いて来たってぇのに、こんなんで手を煩わしちまってよ……」


「うぅん。別にいいんだ。構わないよ。だってこの中で肉体を持っている人間としては、ヴェルだけなんだもの。ヴェルに何らかの影響を及ぼしても、不思議じゃないさ。それ覚悟で俺は、君をこの世界に連れて来たんだから。もしかして……何も食べてないからかな?」


 聖綴はへたり込んでいるヴェルハルトへ寄り添いながら、そう述べると。


「いや、不思議と腹は減らねぇんだ。ただ──異常なまでに、眠、い……」


 ヴェルハルトはここまで言うと、すっかり眠り込んでしまった。



ここまで読んでくださったあなたに安らかなる子守唄を捧げたい。

大変ありがとうございます‼

良ければ、「いいね!」もしくは「☆」をよろしくお願いします。

「いいね!」は読者様がどこまで読んだのかの目印にもなって励みになりますのでどうかよろしくです♪

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