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【反・神説】背徳の獣  作者: 緋宮 咲梗
section,Ⅳ:煉獄入界編
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episode,Ⅴ:金と銀の二つの鍵

【登場人物】

釘鎹聖綴(くぎかすがいさとと)(12歳)……身長142cm。赤ん坊の頃、自動車事故により両親を失った唯一の生き残りでキリスト教児童保護施設から脱走し無意識にスラム街に辿り着き、仲良くなったヴェルハルトと犯罪に手を染めながらも人生を謳歌していく。しかし、突然の暴走車にはねられ呆気なく死亡する。


(ひいらぎ)ヴェルハルト(14歳)……身長166cm。日本人の母とフィンランド人の父を持つハーフだが父親を病で失って以来、五人姉弟の真ん中だが居場所を失い家出をしてスラム街で生きていたが聖綴を拾ってその兄貴分となる。聖綴を失ってからは一匹狼として生きる。父の影響でキリスト教信者だが神を信じてはいない。碧眼に長い金髪を後ろ一つに結んだヘアスタイル。


*ナムウドッグ=チリプス・ナタスレグアトサエブ(年齢不詳)……身長198cm。釘鎹聖綴(くぎかすがいさとと)という少年の人生を生きた核なる存在。美麗と醜悪が混ざった外見をしている。自分の存在に疑問を抱く。


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「この少年は、長年孤独だった我の、たった一人の親友であり理解者なのだ」


 ナムウドッグ=チリプス・ナタスレグナトサエブの言葉に、吟遊詩人のソルデルロは静かに頷いた。


「では、自信を持っていい。君は決して悪い者ではない事を。この少年の存在が、その証明だ」


 彼の発言に、ナムウドッグは口角を小さく引き上げる程度に微笑んだ。


「そうである事を祈る」


「時間だ。先に進もう」


 ソルデルロに促されて、ナムウドッグは(ひいらぎ)ヴェルハルトをそっと抱き上げると、歩き出した。

 こうして更に進むと、先程は岩壁を分ける裂け目の様に見えていた所に着いた。

 そこには一つの門とその下方に、そこへ達する為の三つの段と、物を言わない一人の門番がいた。

 最上段にて、一本の白刃を手にしており、それは酷く光線を反射させるので、眩しいばかりだった。

 地獄では、滅びに至る門は大きく、その道は広い。

 そして、そこに入って行く者が多かった。

 しかし今回の、命に至る門は狭く、その道は細い。

 そしてそれを見出す者は少ない。

 "憂いの国へ行く者"や"永劫の呵責に遇う者"や"破滅の者に加わる者"であれば、地獄門は無審査で通過する事が出来た。

 (すなわ)ち、"何人も入る事が拒絶されない門"なのでナムウドッグでも易々(やすやす)と入る事が出来た。

 (むし)ろ、強制的に通過させられる、所謂(いわゆる)"広き門"だった。

 ところが一方、煉獄門はこの門番の審査を受けなければならないので、"狭き門"なのだ。

 (いか)めしい態度の門番は、煉獄への入界審査をして許可を与えた者に、登山の心得を授ける天使らしかった。


「お前達、私達の階段まで進め」


 その天使が門前に集っている者々へと命じた。

 取り敢えず近くまで進むと、その階段が三層構造になっているのが分かった。

 ナムウドッグは、腕にヴェルハルトを抱きかかえたまま、第一の段まで進んだ。

 それは大変清く滑らかな大理石だったので、その姿をそっくりそのまま中に映っていた。

 次の第二の段は暗紫色よりも色が濃くて縦にも横にも(ひび)が入っている、粗い焼石でありザラザラとしている。

 引き続き第三番目の踏み段は、二段目の上に固定されていて、血管の外へ噴き出す所の血液の様に炎となって燃えている、斑岩の様に見えた。

 その三段目の踏み段の上に、神の天使が両足の裏を置いて、一見ダイヤモンドの石の様に見えた敷居の上に座っていた。

 最下段は汚れない心に自分の姿を映させ、第二段の黒い色は心の暗い影を示し、縦横の罅で心の執拗に勝つ事を示している。

 第三段目の赤い色は改悛(かいしゅん)によって神意を満たそうとする燃える心の愛を示している。

 ナムウドッグは、両腕にヴェルハルトを抱きかかえていたが、右腕を引き寄せて器用に、自分の胸を三回拳で叩いた。


「メアー・クルパー」


 その言葉を発して二度、胸を叩く。

 そして続いて次の言葉を発して三度目の拳を、胸に叩いた。


「メアー・マクシマ―・クルパー」


 これがキリスト教での祈祷方式なのだ。

 すると偶然、ナムウドッグの腕の中で、ヴェルハルトが寝言を呟いた。


「──……私が悪ぅございました……」


 すると天使はこれを良しとしたのか、持っていた剣でナムウドッグの額に"P"の文字を七つ刻んだ。


「中に入ったらこれらの傷を洗い流すように努めよ」


 天使はそう命じた。

 その七つの"P"は"罪"を意味する"ペッカートゥム"の頭文字である。

 これからナムウドッグと今はまだ眠っているヴェルハルトの二人は、七つの罪を浄めながら登るのだ。

 第一環道では『傲慢の罪』

 第二環道では『嫉妬の罪』

 第三環道では『憤怒の罪』

 第四環道では『怠惰の罪』

 第五環道では『貪欲の罪』

 第六環道では『貪食の罪』

 第七環道では『色欲の罪』

 なる所謂七つの大罪が、それぞれ浄罪されるのだ。

 天使は衣の下から鍵を二つ取り出す。

 一つは金色の鍵でもう一つは、銀色の鍵だった。

 まず銀色の鍵を門に使い、同じく次は金色の鍵を同じ鍵穴に使ってから、門を開いた。

 そして天使は、それらの鍵について説明した。


「この鍵のどちらか一つでも合わなくて錠の中で正しく回らない事があると……この通路はもう二度と開かぬ。金の鍵の方が大切だが、もう一つの銀の鍵の方は、結び目を解く鍵だから錠を開ける前に非常な技能が必要とされる。この鍵を私はピエトロから授かったが、もし人々が私の足下にひれ伏すならば、例え間違おうが門を閉じるよりは開くが良い、と言いつかっている」


 どうやら天使自ら"ピエトロ"なる人物から管理を任されているらしい。

 ピエトロなる人物が、イエスから託された鍵の事である。

 その鍵の役割を、一つは赦免に値する者かどうか判断する鍵で、もう一つは赦免する鍵だ。

 天使はこの二つの鍵をナムウドッグに手渡すと、門に手をかけた。

 

 ゴ……ゴゴゴゴゴー……。


 轟音を響かせて開かれた煉獄の門の向こうから、"神よ我等は汝を讃美する"という聖歌が聞こえてきた。

 ナムウドッグは、ヴェルハルトを腕に抱き、門を潜った。

 そのタイミングでヴェルハルトがナムウドッグの腕の中で身動ぎした。


「ん……んん……」


 ナムウドッグはそのまま十歩程進み、門から離れると腕の中のヴェルハルトの様子を立ち止まって窺った。

 気付くと、いつの間にかもう、吟遊詩人ソルデルロとは別れていた。

 ヴェルハルトの、目蓋(まぶた)痙攣(けいれん)したかと思うと、ゆっくりと開き数度、瞬きを繰り返した。


「あれ……俺は、一体……」


「お前は一体、どんな夢を見てあんな寝言を呟いたのだろうな」


 ナムウドッグは言うと、ゆっくりとヴェルハルトを地面に足元から下ろし、立たせた。


「夢……夢ぇ……? んー、……忘れた」


 これにナムウドッグはククッと小さく笑うと言った。


「別に構わん」


 こうして、背中を丸めると釘鎹聖綴(くぎかすがいさとと)に変化した。



ここまで読んでくださったあなたに我が小躍りする心の鍵を!ww

大変ありがとうございます‼

良ければ、「いいね!」もしくは「☆」をよろしくお願いします。

「いいね!」は読者様がどこまで読んだのかの目印にもなって励みになりますのでどうかよろしくです♪

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