episode,ⅩⅩⅡ:大悪魔王サタン
【登場人物】
*釘鎹聖綴(12歳)……身長142cm。赤ん坊の頃、自動車事故により両親を失った唯一の生き残りでキリスト教児童保護施設から脱走し無意識にスラム街に辿り着き、仲良くなったヴェルハルトと犯罪に手を染めながらも人生を謳歌していく。しかし、突然の暴走車にはねられ呆気なく死亡する。
*柊ヴェルハルト(14歳)……身長166cm。日本人の母とフィンランド人の父を持つハーフだが父親を病で失って以来、五人姉弟の真ん中だが居場所を失い家出をしてスラム街で生きていたが聖綴を拾ってその兄貴分となる。聖綴を失ってからは一匹狼として生きる。父の影響でキリスト教信者だが神を信じてはいない。碧眼に長い金髪を後ろ一つに結んだヘアスタイル。
*ナムウドッグ=チリプス・ナタスレグアトサエブ(年齢不詳)……身長198cm。釘鎹聖綴という少年の人生を生きた核なる存在。美麗と醜悪が混ざった外見をしている。自分の存在に疑問を抱く。
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釘鎹聖綴と柊ヴェルハルトは、中に亡者達が凍結された氷の表面を踏みしめながら、前進した。
そしてついに突き当たりまで来た時、それは突き当たりの壁ではなく、大悪魔王であると言う事を理解した。
背中からは、とてつもなく巨大な翼があった。
本来ならその昔、天国にいたとても見目麗しき美しい容姿をしていた者だ。
黎明の子、明けの明星ルシフェル、それは天から堕ちた存在だった。
早朝に輝いているが陽が昇ると共に消えていく姿が、天国では一際輝き、しかしながら今はサタンなる名で呼ばれている地獄の王だ。
その姿たるや、間近にした時の恐怖の余り、描写するのも難しいくらいであった。
同様に、至高天で三位一体の神を目前に仰いだ時も、神の御座では、高きものを空想する能力は衰えるとも言える。
つまり"神"を見た時の感動も、その対極にある"大悪魔王"と対峙した時の恐怖も、具象化して描写する事は本来であれば、きっと不可能であるのだろう。
言語を絶する、だ。
この苦悩の王国の帝王は、胸の半ばから上を氷の外へ出している。
その腕の長さは巨人の背丈をはるかに凌ぎ、こうした部分に相応する全体像が、如何なるものであるかを考えてみるがいい。
第八圏谷と第九圏谷の境の領域で、鎖に縛られているアンタイオスなどの巨人達を念頭に置いたとしよう。
あの地獄の領域に閉じ込められていた巨人達の身長は凡そ、20mだった。
大悪魔王の腕の長さだけで巨人の身長よりも長いと言う事は、巨人の二倍から三倍の巨体をした大悪魔王の図像を想像するといいだろう。
今は真に醜いが、昔はそれだけ美しかった。
それが造物主に対して昂然と叛いたのだ。
一切の災いが彼に淵源を発するのも当然の道理なのかも知れない。
大悪魔王──天国では最高位の天使ルシフェル──は天国で三分の一の天使を味方に付けて神に対して戦いを挑んだ。
しかし惨敗して天国から突き落とされ、地獄に閉じ込められた。
そして"彼に淵源を発する一切の災い"とは"罪"と"死"の事である。
ルシフェルが神に反逆した時、世界に初めて"罪"が発生し、人間が禁断の実を食べた時に初めて"死"が生まれた。
"罪"はルシファーもしくはサタンの"娘"で、"死"はサタンとの間に生まれた"息子"とも言われている。
そして、不幸、悲哀、苦悩、飢餓などあらゆるこの世の悪は罪と死から発生するもので、その源は全て"サタン"であるのだそうだ。
因みに先程からチラチラ表現している天国での"ルシフェル"と地獄では"ルシファー"となった呼び名は、"エル"がイコール"神の~"なる意味であり、地獄に堕ちた瞬間から、"エル"を失ったが為にルシフェルからルシファーと呼ばれる様になったのだ。
しかし今は表向きの名前は"サタン"と名乗っている。
ルシフェルの頃は"暁の明星"だったが、ルシファーになってからは"宵の明星"と呼ばれる様になった。
大悪魔王は一つの頭に三つの顔を持っていた。
その"三"という数字は、神の三位一体の対極を成す悪の姿に図像化する為だと言われている。
そして大きな翼を二対ずつ、計六枚供えていた。
羽毛は生えておらず、蝙蝠と同じ見た目だ。
大悪魔王サタンは、世界最悪の犯罪者として誰よりも重い刑罰を受けているが、また同時に帝王として地獄に君臨して、自らの手で最大の重罪人に刑罰を与えている。
即ちサタンは、神から罰せられっている側にも、罪人を罰する側にもいた。
サタンは三つの口を使って、三人の地上最悪の罪人に刑罰を与えている。
その三大悪人とは、"主人への裏切り者"でイエスを裏切ったユダと、カサエルを裏切ったブルータスとカシウスだった。
口ごとに罪人を一人ずつ咥え、噛み砕いている。
正面の顔の口が咥えている男はイスカリオテのユダで、皮が剥がされ背骨が露わに見え、頭から喰われている。
サタンの頭には、曲線を描いて上へと伸びる角が二本ずつ、計六本生えていて、その爪も恐ろしく長く伸び鋭い。
右の黒い顔は目が二つ、左の黄色い顔は目が一つ、真ん中の赤い顔は目が四つあった。
ここで聖綴はふいに、ヴェルハルトの手を取った。
それが何を意味しているのかすぐにピンときたヴェルハルトは、聖綴の目を手で覆った。
「ナムウドッグ=チリプス・ナタスレグアトサエブ、現れ出でよ」
囁く様にヴェルハルトが呟くと、聖綴の背中から歪な翼が出現しその身を包んだかと思うと、広げた時にはナムウドッグの姿へと戻っていた。
「汝に問う! 汝の名は"サタン"で相違ないか⁉」
しかしサタンは、裏切り者の三人の罪人をグチャグチャと、ガムの様に噛み潰しながら無言を返したが、眼球だけがギョロリとナムウドッグへと向けられた。
「……あいつ今、物喰ってるから答えられねぇんじゃね?」
ヴェルハルトがそう述べる。
サタンの首から下の全身は毛むくじゃらだった。
暫くしてナムウドッグはサタンからの返事を待ったが、サタンは如何にも生者であるナムウドッグとヴェルハルトには興味がないと言わんばかりに、また視線を正面に戻した。
ナムウドッグは翼を羽ばたかせると、正面の赤い顔の目の前へと飛び上がった。
そして更に声を大にして言葉をかける。
「大悪魔王サタンよ‼ この我を見て、何らかの情報を持ってはいまいか⁉」
すると暫くして、サタンの三つの顔のそれぞれの目から、鮮血の赤い涙が流れ始めたではないか。
これにナムウドッグはハッとする。
しかしすぐに、サタンはまるで眼前の蠅でも払い除けんばかりに、片手をナムウドッグへと振るった。
「ナムウ危ねぇっ‼」
ヴェルハルトの危険を告げる呼びかけに、ナムウドッグは気付くや素早くサタンの手を避けて、ヴェルハルトの隣に着地した。
するとまるで代わりに答える様に、足から喰われているブルータスとカシウスもが血涙を流しながら二人へ懇願してきた。
「……す、けて……」
「どうか助けてください……‼」
「チッ……! まるで役せぬわ‼」
ナムウドッグはそう啖呵を切ると、ヴェルハルトを抱き上げ、サタンの胴回りの氷の隙間に飛び込んだ。
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