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【反・神説】背徳の獣  作者: 緋宮 咲梗
section,Ⅲ:悪の溜まり場地獄編
33/38

episode,ⅩⅩ:泣き虫ボッカ

【登場人物】

釘鎹聖綴(くぎかすがいさとと)(12歳)……身長142cm。赤ん坊の頃、自動車事故により両親を失った唯一の生き残りでキリスト教児童保護施設から脱走し無意識にスラム街に辿り着き、仲良くなったヴェルハルトと犯罪に手を染めながらも人生を謳歌していく。しかし、突然の暴走車にはねられ呆気なく死亡する。


(ひいらぎ)ヴェルハルト(14歳)……身長166cm。日本人の母とフィンランド人の父を持つハーフだが父親を病で失って以来、五人姉弟の真ん中だが居場所を失い家出をしてスラム街で生きていたが聖綴を拾ってその兄貴分となる。聖綴を失ってからは一匹狼として生きる。父の影響でキリスト教信者だが神を信じてはいない。碧眼に長い金髪を後ろ一つに結んだヘアスタイル。


*ナムウドッグ=チリプス・ナタスレグアトサエブ(年齢不詳)……身長198cm。釘鎹聖綴(くぎかすがいさとと)という少年の人生を生きた核なる存在。美麗と醜悪が混ざった外見をしている。自分の存在に疑問を抱く。


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 釘鎹聖綴(くぎかすがいさとと)の姿になったナムウドッグ=チリプス・ナタスレグアトサエブは(ひいらぎ)ヴェルハルトと一緒にコキュートスの第一区画カイーナに足を踏み入れた。

 そして更に下方へ歩いて降りた。

 するとその時。


「通る時は注意せよ。哀れで惨めな兄弟達の頭を靴底で踏み付けない様に」


 なる合唱がどこからともなく聞こえてきた。

 誰の声の主か、周囲を見回すヴェルハルトと聖綴。

 おそらくは、この地獄にいる亡者達全員の声だと思われた。

 その注意を促す声に従って、聖綴とヴェルハルトは慎重に進んだ。

 すると前方から、湖が見えてきた。

 (やが)て足元に湖が広がり、凍てついて表面はガラス状になり水面は見えなかった。

 冬のオーストリアのドナウ川にせよフランスのセーヌ川にせよ、流れの表にこれ程厚く氷が張った(ためし)は、未だ(かつ)てなかった。

 仮にダンベルニック山やピエトラパーナ山がそこへ崩れ落ちたとしても、氷の縁の方ですらもパリッと音をも立てなかっただろう。

 その湖は、氷の地獄コキュートスの第一円カイーナだ。

 湖に張った氷が厚いので、その下に流れている筈の水は見当たらない。

 眼前に広がる第九圏谷コキュートスの第一円カイーナには、亡者達が氷漬けにされていた。

 初夏の季節、水中から面だけを出してゲロゲロと鳴く蛙の様に、苦しみ悩む亡者が氷の中に漬かっている。

 本来なら紅顔に染まる頬までが鉛色になり、歯をコウノトリがする様にカタカタと鳴らす。

 誰も彼もが面を伏せ、口は寒さを目は悲嘆の心を証していた。

 そしてどの亡者も顔を下に向けたままにしている理由は、常時辛さで涙を流している亡者達は下を向いて涙を落とし続けていなければ、涙が眼の中で凍り付き視力を奪ってしまうからなのだ。

 氷の上を歩く聖綴とヴェルハルトの二人は、ふと足元に視線を向けた。

 すると二人の亡者が互いに頭突きを喰らわせ合っていた。

 この光景を不思議そうに見ていると、近くにいる亡者が寒さで声を震わせながらも、この二人の男の素性を話し始めた。


「この二人が何者か知りたきゃ教えてやる。ビゼンチオ川が流れを発する谷間から、彼等と彼等の父親アルベルトの領地だ。彼等は同じ腹から生まれた。このカイーナを(あまね)く探すがいい。寒冷の中で漬けるのにこれくらい適した者は他にいるまい」


「お前誰だよ」


 ヴェルハルトが尋ねる。


「俺はカミチョン・デ・パッツィだ。話はこれで終わりじゃない。まだあるぞ。アーサー王の一撃で胸を割られ、胸と共に影も割られた男にしても、フォカッチャにしてもそしてまた、こいつ! こいつの頭が邪魔で俺が先を見通す事の出来ぬこのサッソール・マスケローニにしてもだ‼」


 パッツィは苛立たし気に述べた。

 つまり、アーサー王の甥のモリドリッドはアーサー王が遠征中に国を奪おうと企んだが、その事情を知ってすっ飛んで帰って来たアーサー王から、着用していた鎖帷子諸共くさりかたびらもろとも、鋼の剣で貫かれ、貫通した剣を抜いた時傷口を太陽の光が通過したとの事だった。

 フォカッチャとは毎日揉め事を引き起こす短気な性格で、カンチェリェーリ一族の一人で、その中でも黒党、白党と二分していた。

 ある時黒党派が、白党派の最高幹部の一人だったベルティーノを殺害した。

 ところがフォカッチャの妻がその者と縁戚にあったので、その報復としてフォカッチャは黒党のリーダーだった同じ一族である従兄弟を暗殺した。

 まさしくカンチェリェーリ家の中の同族の(いさか)いだった。

 古今東西、肉親同士の戦い程悲惨なものはないと言われるくらいだ。

 そしてパッツィの視界を塞いでいるもう一人の亡者は、サッソール・マスケローニという男で、遺産横領を目論んで同族の者を殺害した人物だった。

 聖綴とヴェルハルトはその場から離れ、カイーナを抜けて奥地へと入って行った。

 

「名前を聞いても誰かも分からず、ピンとこなかったけど、ここの地獄の内容は少しだけ、解かったな」


「うん、そうだね」


 ヴェルハルトの言葉に、聖綴も首肯した。


「しかしここは、異常なまでに寒いな。北極もお手上げだぜ」


 そう言って自分の両上腕を擦るヴェルハルト。


「そりゃあ、全てが氷の世界だからね」


 そう答えた聖綴の口も、寒さで歯をガチガチ鳴らしている。

 カイーナの次はアンテノーラと続いて、気付かぬまま二人はいつの間にかそのアンテノーラに足を踏み入れていた。

 そしてそこで、はたと気付いた二人が見たものは。

 冷気の為に紫色になった幾千もの顔だった。


「ぅおっ! な、なかなかホラーだな……」


「確かにね」


 つい口走ったヴェルハルトにだったが、聖綴も肯定的な返事をした。

 二人は全ての重力が集まる中心部に向かって歩み進んだ。

 そこには大魔王ルシフェル──後のルシファー──の王座がある地獄の最深部になっている。

 だが、そこへ辿り着くまでにはまだこのアンテノーラとトロメーア、ジュデッカを通過する必要がある。

 ヴェルハルトは"永劫の冷気"の中で震えながら進むと、ある男の頭に足が当たった。

 それが意志か天命か運命か分からないが、ヴェルハルトは頭と頭の間を通りすがりに、とある男の頭に強く足をぶつけた。

 これにその男は泣き喚いた。


「何で俺を蹴るんだ⁉ もしモンタペルティの復讐を更に加えようとして来たのでなければ、何で俺を虐めるのだ⁉」

 

 その男の名はボッカといった。

 モンタペルティは、今で言うイタリアのトスカナ地方にあるシエナの東およそ8kmに広がる平原だ。

 1260年9月4日にその平原を戦場にして、皇帝派(ギベリーニ)のシエナ軍二万人と教皇派(グェルフィ)のフィレンツェ軍三万五千人との間に熾烈な戦いが繰り広げられた。

 その数ではフィレンツェ軍が圧倒的に優位だったが、シエナ軍が勝利する結果となった。

 その要因となったのが、ボッカの裏切りだったと言われているのだ。

 何にせよ、泣きじゃくるボッカに、ヴェルハルトは軽い感じで言葉を返した。


「あ、ごっめ~ん! 暗くてよく見えなかった!」



ここまで読んでくださったあなたに泣いて喜びます‼

大変ありがとうございます‼

良ければ、「いいね!」もしくは「☆」をよろしくお願いします。

「いいね!」は読者様がどこまで読んだのかの目印にもなって励みになりますのでどうかよろしくです♪

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