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【反・神説】背徳の獣  作者: 緋宮 咲梗
section,Ⅲ:悪の溜まり場地獄編
32/38

episode,ⅩⅨ:地獄の最奥層

【登場人物】

釘鎹聖綴(くぎかすがいさとと)(12歳)……身長142cm。赤ん坊の頃、自動車事故により両親を失った唯一の生き残りでキリスト教児童保護施設から脱走し無意識にスラム街に辿り着き、仲良くなったヴェルハルトと犯罪に手を染めながらも人生を謳歌していく。しかし、突然の暴走車にはねられ呆気なく死亡する。


(ひいらぎ)ヴェルハルト(14歳)……身長166cm。日本人の母とフィンランド人の父を持つハーフだが父親を病で失って以来、五人姉弟の真ん中だが居場所を失い家出をしてスラム街で生きていたが聖綴を拾ってその兄貴分となる。聖綴を失ってからは一匹狼として生きる。父の影響でキリスト教信者だが神を信じてはいない。碧眼に長い金髪を後ろ一つに結んだヘアスタイル。


*ナムウドッグ=チリプス・ナタスレグアトサエブ(年齢不詳)……身長198cm。釘鎹聖綴(くぎかすがいさとと)という少年の人生を生きた核なる存在。美麗と醜悪が混ざった外見をしている。自分の存在に疑問を抱く。


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「その発言は、何か思い当たる節が?」


 ナムウドッグ=チリプス・ナタスレグアトサエブの姿に戻った彼が、そう尋ねた。


「これは確かに、混乱する筈よ」


 アンタイオスは言って、顎を摩る。


「お主、親は?」


「おらぬ。物心ついた時には既にいなかった」


「どうやって育った」


「人として。気付いたら人間として生きていた。ついこの前に、死んで舞い戻ったがな」


「成る程の。故にこの地獄も行き来出来る訳か。それでも、そこに一緒にいる小僧っ子はれっきとした人間の生者であろう?」


「ククク……ああ。この子は長い間、墓地に住み着き過ぎた。生きながらにして死のオーラを(まと)いすぎた。故に行き来可能なのだろう。もし(ゲート)を潜って消滅していれば、その程度の生命力であったのだと、切り捨てていた。しかし、そうはならなかった。我自身も驚いている所だ。おそらく釘鎹聖綴(くぎかすがいさとと)との繋がりが、こうさせているのだろう」


「フ……人がおとなしく黙ってりゃあ、言いたいだけ言いやがって」


 (ひいらぎ)ヴェルハルトは口元を引き攣らせる。


「ふむ……して、そなたは"自分探し"をしていると申したな?」


然様(さよう)


「……哀れな子よ。それでいて多くに恵まれし子よ。それがきっと、そなたに秘められしものだろう」


 アンタイオスの言葉に、ナムウドッグは眉宇を寄せた。


「お前は我の事が、解かっているのか……?」


「まぁ、風の便り程度(・・・・・・)に、だがな。今申した分が私の知り得る限りの全てだ」


「そう……そうか……‼」


 初めて得た自分の情報に、ナムウドッグは全身を震わせた。

 喜びによる震えだ。


「お前が初めてだ……この我の情報を述べ、教えてくれたのは。心から感謝申し上げる」


「何かと大変だろうが、お主は健気だ。めげずに"自分探し"頑張れよ。例え如何なる結末が、待ち受けていようとな。自分に腐らずにな。人生いろいろ、あるものだ」


「クックック……お前こそな」


 罪罰を受けている最中であるアンタイオスへと、ナムウドッグは言葉をかける。


「何か知らんが、分かり合えたみてぇだな」


 ヴェルハルトの発言に、暫しの沈黙。

 ──の、後。


「そんなわけあるかぃっ‼」


 ナムウドッグとアンタイオスが同時に声を揃えて言った。


「ぇ? お笑いコンビまで昇華しちゃった??」


 ヴェルハルトが唖然としつつ述べる。


「いや……その、感謝する。ありがたかった」


「ああ。めげるでないぞ。己を活かせ」


 ナムウドッグの発言に、アンタイオスが檄を飛ばした。


「では汝等を目的の場所へ送り届けよう。各々で行けるのであれば、構わぬが」


「いや、ここはお言葉に甘えよう」


「うむ。ならばこの手の平に乗るがいい」


 アンタイオスはそう述べるなり、手の平をナムウドッグとヴェルハルトの傍らに置いた。

 その上に乗りこむ二人。


「ではよろしく頼む」


「うむ」


 ナムウドッグの掛け声に、アンタイオスはゆっくりと動かした。


「しかし大丈夫か? 下は冷気がコキュートスを氷結している世界だぞ?」


 アンタイオスの言葉に、ナムウドッグは親指を立てて答えた。


「我に不可能はない」


「可能、不可能の問題ではない気もするが……まぁ、無事を祈っておるぞ」


 コキュートス。

 それはあらゆる悪の底と呼ばれる、地獄の最深部第九圏谷の別名である。

 その圏谷に辿り着く為には、険しい岩壁を降りなければならない。

 だがまさかここで、運良く拘束を受けていない巨人、アンタイオスが自ら下に降ろしてくれると言ってくるとは。

 ナムウドッグには翼があるので、降りようと思えば降りれたが、念には念だ。

 せっかくの申し出、甘えられる所は甘えておいた方が、この地獄に於いて得と言うものだ。

 それにこの崖を徒歩で降りるには、遠回りしてティテュウスとテュポンが拘束されている穴の側を通らなければならない。

 こうしてアンタイオスは、ナムウドッグとヴェルハルトを乗せた手の平を谷底へ降ろしてくれた。

 そしてそこは、いよいよ地獄の、ユダとルシフェルをも吞み込んでいる最奥部だった。

 地獄には、冥界五大河川があり、三途の川アケロン、血の川プレゲトン、憤怒の川ステュクス、忘却の川レーテ、嘆きの川コキュートと呼ばれている。

 コキュートスは、四つの区画に分けられている。

 第一区画は、アダムとイヴの長男で弟アベルを殺したカインに(ちな)んで名付けられた"カイーナ"であり、肉親への裏切り者が閉じ込められる地獄だ。

 第二区画は、裏切りによってトロイアを滅亡させたアンテノルの名に因んだ"アンテノーラ"であり、祖国の裏切り者が刑罰を受けている。

 第三区画は、"トロメーア"と呼ばれる地獄で、客人を裏切った者が刑罰を受けている。

 ちなみにその名の由来には、二通りの説がある。

 少数派ではあるが、ローマの内乱でカサエルと戦ったポンペイウスが援軍を求めてエジプトに来た時、客人として迎えておきながら彼を暗殺したトロメオ13世から、由来されたと言う説。

 もう片方は多数派で、聖書外典の"マカベア書"に登場するプトレマイオスから由来する説だ。

 そのプトレマイオスは、死海の北方にあったと言われているパレスチナの古都エリコの総督だった。

 だが、プトレマイオスは彼の義理の父シモンが就いていたユダヤ教聖職者の最高位である、大祭司職を狙っていた。

 そこで、プトレマイオスは、シモンとその二人の息子マタティアとユダを饗宴に招待し、その宴会中に暗殺した。

 後者は聖書由来の人物ゆえ、コキュートスの地獄の区画名としては、より適切だと判断されたのだろう。

 最後の第四層は、主への裏切りが罰せられている"ジュデッカ"だ。

 言うまでもない。

 由来はイエス・キリストを裏切った"イスカリオテのユダ"から来ている。

 巨人アンタイオスは、自分のせいで少しでも地に振動を与えないようにと、手の平の角度を傾斜させてからゆっくり、己の息を殺してナムウドッグとヴェルハルトを降ろした。


「サンキュー、オッサン!」


「ありがとう。感謝する」


 ヴェルハルトとナムウドッグはそう言って、アンタイオスと別れを告げた。



ここまで読んでくださったあなたに心からのハイタッチを!

大変ありがとうございます‼

良ければ、「いいね!」もしくは「☆」をよろしくお願いします。

「いいね!」は読者様がどこまで読んだのかの目印にもなって励みになりますのでどうかよろしくです♪

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