episode,ⅩⅧ:幽閉されし巨人神族
【登場人物】
*釘鎹聖綴(12歳)……身長142cm。赤ん坊の頃、自動車事故により両親を失った唯一の生き残りでキリスト教児童保護施設から脱走し無意識にスラム街に辿り着き、仲良くなったヴェルハルトと犯罪に手を染めながらも人生を謳歌していく。しかし、突然の暴走車にはねられ呆気なく死亡する。
*柊ヴェルハルト(14歳)……身長166cm。日本人の母とフィンランド人の父を持つハーフだが父親を病で失って以来、五人姉弟の真ん中だが居場所を失い家出をしてスラム街で生きていたが聖綴を拾ってその兄貴分となる。聖綴を失ってからは一匹狼として生きる。父の影響でキリスト教信者だが神を信じてはいない。碧眼に長い金髪を後ろ一つに結んだヘアスタイル。
*ナムウドッグ=チリプス・ナタスレグアトサエブ(年齢不詳)……身長198cm。釘鎹聖綴という少年の人生を生きた核なる存在。美麗と醜悪が混ざった外見をしている。自分の存在に疑問を抱く。
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遠くて高い空から、雷鳴の轟きが聞こえる。
疫病や痛痒に精神的にも発狂して正気ではいられなくなる刑罰を受けている、この第十濠の筈なのにそれとは別の状況に陥っている。
それは刑罰の種類が異なった光景だった。
確か第十濠には、この世で儲けた悪銭が疥癬となって全身を覆っているので、その痛痒で苦しんでいた。
その多くは贋金造りだった。
しかしこの濠の約後半地区では、無我夢中に相手の身体を傷付けて回るという狂乱状態になっていた。
こちら側にいる亡者達は、同じ詐欺師でも書類を偽造したり虚偽の言動をした罪人だった。
嚙みつき合いながら走っていた二人の青白い全裸姿の亡霊の内の一人は、ジャンニ・スキッキという名の亡者だった。
ジャンニの亡霊は、今まで噛み付いていた亡霊を離して、今度は釘鎹聖綴と柊ヴェルハルトの側にいたカポッキオに噛み付いて濠の底へと引き摺って行った。
地獄では噛み付き魔と化したジャンニ・スキッキだが生前、普段は物真似名人だった。
ヴェルハルトはグリッフォリーノに尋ねたわけだ。
「あれは不埒な古代の王女ミュラの亡霊だ。実父に対して道ならぬ恋心を抱き、父親と近親相姦の罪を犯す為に他人の姿に暗闇の中、身をくらましてやって来た」
前にも述べたが、地獄の亡者達は男も女も原則的に全員、全裸だ。
ジャンニ・スキッキと、余所の娘の振りをして暗闇の室内で正体を偽って、実父と交わったミュラは同罪だと見做され、地獄の第十濠の中を噛みつき合いながら、走り回っているのだった。
ちなみに地獄の形状は下へ降りる程狭くなる円錐状である。
「何であれ、年頃の俺らにとっては刺激的だよね、ヴェル──鼻血出てるし」
「……気付いてる」
聖綴にボソリと呟かれ、ヴェルハルトは鼻血を袖で拭った。
「貧血で倒れる前にさっさと先へ進もう」
「さすがにそこまで鼻血出さねぇよ⁉」
先を歩き出した聖綴の後を追いながら、そうヴェルハルトは抗議した。
この第八圏谷"マレボルジェ"も漸く、最果てに辿り着いた。
辺りは薄っすらと白み始め、しかし昼間より薄暗いので視界は僅かしか利かなかった。
だが雷鳴の轟きも先程と比べれば落ち着いてきた。
やがて先へ進んでいると、沢山の高い塔が見えてきた。
「ここは何という場所だよ?」
ヴェルハルトが尋ねると、聖綴が答えた。
「あれは塔じゃないからねヴェル。よく見て。あれは巨人だという事を、知っておいて」
「え? きょじん??」
そう話しながら最果ての穴に近付くにつれ、次第に姿形が鮮明になってきた。
丁度モンテレッジオーネの城が、円い城壁の上に一連の塔を従えてそびえる様に、坎を取り巻く縁の上に恐ろしい巨人達が半身を乗り出して頭の如く、そびえ立っていた。
それは次の第九圏谷の底に立って、第八圏谷の上に上半身を出している巨人達の姿だった。
巨人の顔は、まるでローマのサン・ピエトロにある4mもある松笠の様に長くて大きい。
そして、身体の他の骨格も顔と同じ比率で出来ていたので、土手は巨人の身体の中央部より下を隠す前垂れになっていたが、それと丁度同じ長さだけ上半身を現していた。
その長さ、凡そ7m50cm。
おそらく背丈は22m60cm程身長がありそうだ。
その巨人は意味不明の言葉を叫び始めた。
「ラフェール マイ― アメッケザービアルミ」
そうして角笛を大音響で吹き鳴らした。
「ぅわビックリした! 何だよ急にっ‼」
ヴェルハルトは咄嗟に防御の体勢を取って、喚いた。
第八圏谷第十濠後半地区に幽閉されている罪人達は、巨人神族の皆さんだった。
ギガス、タイタン、ヘカトンケイル、キュクロプス、アロアダイ等だ。
そこで最初に出会ったのは、エピアルテスという名の巨人だった。
左腕を前に、右腕を後ろで鎖に縛られ、その鎖が首から足首まで体に巻き付いている。
ここでは、大地女神より生まれた原始の息子達タイタン族がいる。
雷電に打ち落とされて、冥界の底の底で悶え苦しんでいた。
鎖で雁字搦めに縛られているエピアルテスが、突然怒り出した。
この巨人が体を揺さぶると、地上のどんな巨大地震でも太刀打ち出来ない程の激しさで、地獄の塔が揺れた。
その様に地面が激しく振動している中を、聖綴とヴェルハルトは歩を進めた。
そして前方にアンタイオスが見えてきた。
その巨人は、拘束された他の巨人達と異なり、口も利けるし体も自由に動き、そして聖綴とヴェルハルト達を"全ての罪"の最下層に連れて行く事になる。
「……んん? 貴様等小僧共は生者だな? 何しにここへ来た。いや、それよりもよくぞここまで無事に来れたものだな」
アンタイオスが二人に声をかけてきた。
「……」
「……」
聖綴とヴェルハルトは、これに言葉を失っていたが、束の間。
「おい聖綴。この巨人のオッサン、俺達と同じ言語を話してやがる」
「そだね」
ヴェルハルトと聖綴はそう言葉を交わした。
これにアンタイオスは口元を引き攣らせた。
そんな中で、聖綴がアンタイオスへ声をかけた。
「あの、巨人のオッサン。あんたに頼み、あるんだけどいいかな?」
「ふむ。何なりと申してみよ」
「俺達二人を、この次の圏谷に連れてってもらえないかな」
「……何て物好きな童だ。行ってどうする」
アンタイオスが不思議そうな表情を浮かべる。
「俺の自分探しをしている」
聖綴が答えた。
「自分探し? お前、地獄の者か?」
「いや、それがまだ、判らないんだ」
アンタイオスに尋ねられ、聖綴は返答するとヴェルハルトの片手を取った。
この意味を即、理解するとヴェルハルトは彼の名を口早に唱えた。
「ナムウドッグ=チリプス・ナタスレグアトサエブ、現れ出でよ!」
その言葉の直後、聖綴は頭を埋め背中を丸めた。
これにより聖綴の肉体はムクムクと大きくなり、歪な形の双翼と顔、竜の尾を持つナムウドッグの姿に戻った。
それを見て、アンタイオスは納得した様に首肯した。
「ほぉう……成る程な」
そして目を細めた。
ここまで読んでくださったあなたに心臓を捧げよ‼ww
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