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【反・神説】背徳の獣  作者: 緋宮 咲梗
section,Ⅲ:悪の溜まり場編
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episode,ⅩⅦ:二重の刑罰

【登場人物】

釘鎹聖綴(くぎかすがいさとと)(12歳)……身長142cm。赤ん坊の頃、自動車事故により両親を失った唯一の生き残りでキリスト教児童保護施設から脱走し無意識にスラム街に辿り着き、仲良くなったヴェルハルトと犯罪に手を染めながらも人生を謳歌していく。しかし、突然の暴走車にはねられ呆気なく死亡する。


(ひいらぎ)ヴェルハルト(14歳)……身長166cm。日本人の母とフィンランド人の父を持つハーフだが父親を病で失って以来、五人姉弟の真ん中だが居場所を失い家出をしてスラム街で生きていたが聖綴を拾ってその兄貴分となる。聖綴を失ってからは一匹狼として生きる。父の影響でキリスト教信者だが神を信じてはいない。碧眼に長い金髪を後ろ一つに結んだヘアスタイル。


*ナムウドッグ=チリプス・ナタスレグアトサエブ(年齢不詳)……身長198cm。釘鎹聖綴(くぎかすがいさとと)という少年の人生を生きた核なる存在。美麗と醜悪が混ざった外見をしている。自分の存在に疑問を抱く。


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 とある国の美しい町々の中にあっても一際秀でた花の都に、死の疫病ペストが襲来。

 天の球体の運行の成せる業か、(ある)いは一人の人物の罪業に怒りを覚えて神がすべき人間達に正義の裁きを下した為か。

 その数年前に東方の各地に発生して、かの地に於いて無数の人々の命を奪い、留まる所を知らぬ勢いで次々にその行き先を変え、(やが)ては恐ろしい事に西洋へ向かってそれは広がって来た。

 これに対して人間側はろくな才如もなく、何の予防も甲斐なく、もとより都市は特別の係り官を任命して、彼等の手で全ての汚物を浄めたり、城壁の内部へ一切の患者の立ち入りを禁止したり、衛生を保つ為のありとあらゆる借置を講じたり、加えてまた敬虔(けいけん)な願も一切ならずかけられ、行列も整然と組まれて信心深い人々の群れがひたすら神への祈りを捧げたが、それにも関わらずその年の春は早くには、身の毛もよだつばかりの苦患の効果が現れ始め、目を覆うばかりの惨状を(てい)しだした。

 ただし、東洋に於ける如くに避けられぬ死の徴候として初めに、鼻から出血したのとは異なって病気の初期の段階でまず男女共に、鼠頸部(そけいぶ)(わき)の下に一種の腫瘍を生じ、これがリンゴ大に腫れ上がるものもあれば鶏卵大のものもあって、患者によって症状に多少の差こそあれ、一般にはこれがペストの(こぶ)と呼び習わされた。

 そして今述べた様に、身体の二か所から死のペストの瘤は(たちま)ちに全身に広がって吹き出してきた。

 その後の症状については黒や鉛色の斑点が生じ、未来の死が確実となった徴候として、(やが)て斑点が現れればそれはもう死、そのものを意味した。

 ──とある島で人々が皆、病に倒れた時、瘴気は空中に満ち、獣は元より小さな虫けらに至るまで皆がバタバタと倒れた。

 先住の民はその後、蟻の卵から蘇ったのだ。

 だがその時の悲惨な様も、この暗い谷間で亡者達が気息奄々(きそくえんえん)と折り重なって倒れている光景は、到底及ばなかったに違いない。

 ある者はうつ伏せに、ある者は仰向けに、ある者は人の上に横になり、またある者は四つん這いで悲惨な道を這い(つくば)って行く。

 この第十ボルジャはまさにその状態そのものだった。

 釘鎹聖綴(くぎかすがいさとと)(ひいらぎ)ヴェルハルトは身を起こす事が出来ない病人を眺め、呻き声を聞きながら、誰にも交わさず一歩一歩進んだ。

 すると、頭から爪先まで斑目に瘡蓋(かさぶた)に覆われた男二人、互いに背中を合わせ座っているのが見えた。

 その二人は全身をあちこち掻き(むし)っては痛がっている様に見える。

 どうやら疫病による影響からか、全身に痛痒が激しく伴っているらしかった。

 痛みは去る事ながら、激しい痒みも精神的にも肉体的にも激しい苦痛を伴うものである。

 醜悪で嘔吐しそうな刑罰を受けているにも関わらず、その内の一人の男が言葉を発した。

 

「わしはアレッツォ出身のグリッフォリーノじゃ。現世では錬金術師をしておった。わしがここにいるのは、アルベロ・ダ・シエーナがわしを火炙りにしたからじゃ」


 全身をボリボリ掻き毟りながらも、言葉を続けた。


「だが処刑されたのと同じ理由でここに堕ちたのではない。わしが話しながら冗談で、空を飛ぶ術を心得ておりますと言ったのは事実じゃ。すると好奇心旺盛だが常識が乏しいその男がその技の実演をわしに迫った。わしはダイダロスの様に飛べなかったばかりに、奴の息子扱いにしてる男に命じてわしを焼き殺した。だが十ある濠の最後の濠にわしは堕とされた。現世で贋金造りだったという理由だが、ミノスの判決だ。間違いはあるまい」


 そうグリッフォリーノは述べて、確かに狡猾な錬金術師である"虚偽・偽造"の罪により地獄の第十ボルジャに堕とされたのだ。

 すると、このグリッフォリーノと背中合わせで座っていた男も、やはり同様に全身を掻き毟り苦痛に顔を歪めながら、聖綴とヴェルハルトと話しているグリッフォリーノの三人の元へとやって来て、口を開いた。


「わしの名前はカポッキオ。1293年に錬金術の罪で火刑にされてのぅ。自然を使った何と立派な猿だった事か」


 そう言ってヘラヘラと笑った。

 第十ボルジャのこの区画にいた亡者達は、貴金属という自然物質を偽造した罪科で刑罰を受けていた、(すなわ)ち錬金術師や贋金作りであった。


「そうかそうか。じゃあ俺達はもう行くぜ。立派な猿のジイさんよ。ちなみに俺達は、2027年から来たんだ。じゃあな」


 ヴェルハルトは言い残すと、聖綴と一緒にこの先を進んだ。


「何と! 現世の時代ではもう、時は2027年まで進んでおるのか‼ わしらの時代はまだ、去年の事の様じゃわぃ‼」


 そうカポッキオが言った言葉に、一緒にいたグリッフォリーノと共に思わず笑い出した老人二人の可笑を、背にしながら。

 ぼんやりと背後を見たまま、ゆっくりと指差しながら述べた。


「あの光景を見てもまだ、平和なのかと言えるのならば、もうここは天国なんだと思うよ」


「んあ?」


 これにヴェルハルトは聖綴が指差す方向へ、顔を向けてから少しずつ目を見開いていった。


「何だぁ、アレ⁉ 頭イカれちまってんのか⁉」


「おそらく」


 驚愕を露わにするヴェルハルトに、そう短く聖綴は答えた。

 そこには、呻き声を出そうにも声が擦れ、不気味な呼気だけのみを漏らしている男──今しがた迄大笑いしていたカポッキオが顔を青褪めた男から喉元にかぶり付いて引き倒され、石だらけの谷底を腹這いのまま引き摺られて行った。

 取り残されたグリッフォリーノが震え上がりながら、どちらともなく言った。


「あの狂人はジャンニ・スキッキだ! 猛り狂ってああして人に噛み付いて回る‼」


「へぇ‼」


 ヴェルハルトは声を上げた。


「もう一人は誰だ? オッサンの背中に喰いつかなけりゃいいけどな‼ 面倒でなけりゃあ、奴を見失う前に教えてくれよ‼」



ここまで読んでくださったあなたに心から歓喜の笑いを!

大変ありがとうございます‼

良ければ、「いいね!」もしくは「☆」をよろしくお願いします。

「いいね!」は読者様がどこまで読んだのかの目印にもなって励みになりますのでどうかよろしくです♪

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