episode,ⅩⅥ:親族の中の罪人
【登場人物】
*釘鎹聖綴(12歳)……身長142cm。赤ん坊の頃、自動車事故により両親を失った唯一の生き残りでキリスト教児童保護施設から脱走し無意識にスラム街に辿り着き、仲良くなったヴェルハルトと犯罪に手を染めながらも人生を謳歌していく。しかし、突然の暴走車にはねられ呆気なく死亡する。
*柊ヴェルハルト(14歳)……身長166cm。日本人の母とフィンランド人の父を持つハーフだが父親を病で失って以来、五人姉弟の真ん中だが居場所を失い家出をしてスラム街で生きていたが聖綴を拾ってその兄貴分となる。聖綴を失ってからは一匹狼として生きる。父の影響でキリスト教信者だが神を信じてはいない。碧眼に長い金髪を後ろ一つに結んだヘアスタイル。
*ナムウドッグ=チリプス・ナタスレグアトサエブ(年齢不詳)……身長198cm。釘鎹聖綴という少年の人生を生きた核なる存在。美麗と醜悪が混ざった外見をしている。自分の存在に疑問を抱く。
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「さぁ見てくれ! この苛立だしい刑罰を! お前は息をしながら死者を見て回っているが、これを凌ぐ様な刑罰が他にあるかよく見ておいてくれ! 俺の消息を皆に伝えてもらう為に言っておくが、俺は若い国王に忠告を与えたベルドラン・ド・ボルンだ! 俺は父と子を互いに反目させた‼」
現世に戻ったら、冥界にいる自分達の事を、生きている者達に知らせてくれと希求する。
煉獄にいる霊魂達は、この世の者達に自分の事を思い出してもらう事で、浄罪が早くなるそうだ。
そして天国にいる霊達はこの世の者達に自分の善行を知らせる事によって、光明が増すらしい。
では地獄の罪人までも己の消息を伝えるよう願うのは何故か。
その問題は、天国の至福者や煉獄の浄罪者の場合よりも難解なのだ。
ジェイクスピアの『マクベス』の冒頭で、魔女達が登場して呪いの言葉を合唱する。
更にミルトンの『失楽園』の中で、"全ての業は我には失われた。悪よ! 汝は我の善となれ"と、サタンに言わせている。
悪魔、魔女、地獄、悪人の世界では、善と悪の価値が逆転して、悪ければ悪い程良いものなのである。
それゆえ地獄に落とされた亡者達は、善悪の概念が逆転しているのだろう。
彼等は告白したからと言って、罰則が軽くなるわけではなく、永遠に同じ刑罰を受け続けなければならない。
先に述べた様に、天国と煉獄の霊魂達は、告白する事によって霊魂自身にも何らかの恵みが与えられるが、地獄の罪人達は何の恩恵も得られはしない。
それでも罪人達は、己の罪を語るのである。
罪人は、目には目を、歯には歯を、手には手を、足には足を、焼き傷には焼き傷を、命には命を以って償わなければならないのだ。
自分がやられて同じ箇所をやり返すという意味で相手の命まで奪ってはいけないと言う意味だ。
そうして先に進もうと促す釘鎹聖綴の言葉も聞こえず立ち尽くしているヴェルハルトに、聖綴は歩み寄って問うた。
「ねぇ、ヴェルはまだ何を見ているの? ヴェルの目線は何故まだ、肉体を切り刻まれた陰鬱な亡霊達の元にあるって言うのさ?」
するとヴェルハルトは視線を尚も外す事無く答えた。
「今まで俺がジッと見据えていたあの谷の奥には、俺の血縁の奴が一人、この恐ろしい償いを払わなくちゃならねぇ罪に、泣いているに違いねぇと、思ってな」
その事を伝えた張本人は、聖綴であった。
「君があの首無しに気を取られていたから、見逃したみたいだよ」
そう聖綴にさり気なく指摘されて初めて、ヴェルハルトはフィンランド人である父方の親族の亡霊もここにいる事を知ったのだ。
自分の首を提灯の様にぶら下げて歩いている怪奇な姿に度肝を抜かれ、また会いたいと幼い頃に出会っていた親族の亡霊を見過ごしてしまっていた。
「なぁ聖綴……その俺が見逃しちまった親族である彼の非業の死はその一族にとってはやっぱ、恥だっただろうがその復讐を一族の誰も果たしていない。それでそいつは、俺にも腹を立て俺にも口を利かず立ち去っただろう……それだけに、不憫な気がするんだ」
「その人は、ヴェルにとってどんな立場の存在なんだ?」
聖綴が尋ねる。
ヴェルハルトはこれに答えた。
「俺の大伯父だ」
「そうか……それはとても、悲しい事だったね。そうと知っていれば俺からも、引き止められたのに」
「いや、いいんだ。聖綴が気にする事ァねぇ。仕方ねぇ事だった」
ヴェルハルトは、ふと小さく笑った。
「伝えるの忘れてたけど、地獄にいられるのは約一週間で、今はもう残り六時間しかないんだよ」
聖綴の言葉に、はたとヴェルハルトが顔を上げる。
「もし過ぎちまったらどうなるんだ?」
「今までずっと、見て来ただろ。俺はまだナムウドッグの立場があるから大丈夫だけれど、ヴェルは生きているただの人間……想像を絶する事態が──」
「よし。さっさと早いとこ次に進もう」
聖綴の言葉が終わらない内にヴェルハルトは、足早に先へ進み出した。
六時間後のイエス・キリスト復活祭の夜明け──三月二十八日──には、煉獄に到着していなければならない。
よって聖綴は感傷に浸るヴェルハルトを急かさずにはいられなかったのだ。
父方の親族である大伯父の亡霊に出会えなかったので、後ろ髪を引かれる思いで第九濠を後にして、マレボルジェの最後の濠の回廊に辿り着いた。
その濠の中に閉じ込められた亡霊達の異様な呻き声が矢の様に飛んできた。
その矢は"憐憫"で作られていたので、ヴェルハルトはつい両手で耳を塞いだ。
悪の溜まり場である第八圏谷には、この世で犯した罪科ごとに十種類の刑罰に分けられている。
その中で最も重く厳しいものが、疫病に冒され身体が腐敗すると言う第十袋の拷問である。
第八圏谷マレボルジェのそれぞれの袋濠には、イエスが十字架に架かって死んだ時の絶叫で橋が崩れた第六ボルジャを除いて、全ての濠の底へ下りる時は橋を渡った向こうの土手から下りていた。
この圏谷の全体構造が奥へ進む程低くなっているので、必然的に堤の壁も奥の方が低くなっているからだ。
二人が土手を下りるにつれて、谷底の様子がはっきりと見えてきた。
そこには、高き主に仕える絶対に誤りのない裁きをする女官が、現世で書物に従って書き留めている偽善者達を罰している光景が見えてきた。
ここでは、イエス・キリストが最後の審判の時に"命の書物"に記された罪業に従って裁きを行う。
その書物については、こうある。
【死んでいた者が、大いなる者も小さき者も共に、御座の前に立っているのが見えた。数々の書物が開かれたが、もう一つの書物が開かれた。これは命の書であった。死人はその仕業に応じ、この書物に書かれている事に従って裁かれた】
つまりマレボルジェの第十ボルジャの懲罰は、"命の書"に記載された罪状に従って行われると予告されてあるのだ。
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