episode,ⅩⅢ:イエス・キリスト殺人事件
【登場人物】
*釘鎹聖綴(12歳)……身長142cm。赤ん坊の頃、自動車事故により両親を失った唯一の生き残りでキリスト教児童保護施設から脱走し無意識にスラム街に辿り着き、仲良くなったヴェルハルトと犯罪に手を染めながらも人生を謳歌していく。しかし、突然の暴走車にはねられ呆気なく死亡する。
*柊ヴェルハルト(14歳)……身長166cm。日本人の母とフィンランド人の父を持つハーフだが父親を病で失って以来、五人姉弟の真ん中だが居場所を失い家出をしてスラム街で生きていたが聖綴を拾ってその兄貴分となる。聖綴を失ってからは一匹狼として生きる。父の影響でキリスト教信者だが神を信じてはいない。碧眼に長い金髪を後ろ一つに結んだヘアスタイル。
*ナムウドッグ=チリプス・ナタスレグアトサエブ(年齢不詳)……身長198cm。釘鎹聖綴という少年の人生を生きた核なる存在。美麗と醜悪が混ざった外見をしている。自分の存在に疑問を抱く。
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これに小悪魔達は皆、しまったと思った。
特に鬼ごっこを提案した事に責任を感じたお調子者アリキーノは翼を駆って追いかけた。
だがその亡者はまんまと堀の中へと逃げ延びた。
それを見て怒ったカルカブリーナは、アリキーノに喧嘩を仕掛けたので、二人の格闘が始まった。
カルカブリーナとアリキーノの二人の小悪魔は、獰猛な鷹となって堀の上で格闘を始めた。
だが両者とも、組み合ったまま煮え滾る池の真ん中に落下した。
両者は熱さの余り喧嘩をやめたが、翼は瀝青がどろどろに付いて立ち上がる事が、出来なくなってしまった。
隊長バルバリッチャは、四人の小悪魔を救助に差し向けた。
そして落ちた小悪魔を鉤で引き上げたが、最早手遅れだった。
瀝青の堀から引き揚げられた二人は、皮膚から中身まで既に焼け焦げていたので、姿は留めていない。
人間の罪人が瀝青の中に入っても焼け焦げないのに、悪魔は燃えて消滅するのはおそらくそこに、"生"と"死"が存在し分かれているからだろうと解釈出来る。
地獄にいる人間の罪人は、拷問を受けて傷付けられても再生する。
それはこの地獄で永遠に繰り返し、苦痛を味わう必要がある為だ。
だが堕天使の悪魔は、消滅する事もあるのだ。
柊ヴェルハルトは、これで煩わしい品性下劣な小悪魔達から解放されると安堵して、マイペースでゆっくりと次の第六袋に向けて道を進んだ。
だがこの小悪魔達は、下品に加えて執念深い存在だった。
さっきまでの騒がしさが噓の様に、前をナムウドッグ=チリプス・ナタスレグナトサエブが、後ろをヴェルハルトが一列になって黙々と進んだ。
ヴェルハルトは、小悪魔カルカブリーナとアリキーノの喧嘩を見て、イソップ童話の『カエルとネズミ』を思い出していた。
一匹のネズミが川を渡りたいと思いました。
そこでカエルに助けを求めました。
カエルは長い紐で自分の足とネズミを結び付けました。
そして泳ぎ始めました。
ところがカエルは、このネズミを殺そうとして水中に潜りました。
ネズミは勇敢に抵抗しました。
そこに一羽のトンビが飛んできて爪でネズミを掴み、ぶら下がったままのカエルもろとも連れ去り食べてしまいました。
──フランス生まれ、イギリスで活躍したマリ・ドゥ・フランスが翻訳した方の『カエルとネズミ』だ。
他の『カエルとネズミ』と基本的に内容は同じなのだが、結末だけは異なっている。
ネズミとカエルが乱闘している所へトンビが飛んでくるのだが、カエルだけを掴んで飛び去り、ネズミは解放する。
一般的な方は、どちらもトンビに連れ去られるのだ。
それを自分達に置き換えてみた時、向こう岸へ送り届けると欺いたカエルは小悪魔達の方。
と言う事はネズミが象徴しているのは、小悪魔に騙されたけれど、逃げる事に成功したヴェルハルトとナムウドッグになる。
とするなれば、小悪魔達がこのまま引き下がる事は、思えなくなっていた。
馬鹿にされたと思った小悪魔達は、ウサギに噛み付く犬よりも狂暴になって追いかけて来るのではないかと、ヴェルハルトは恐れた。
案の定、ヴェルハルトの心配は的中した。
マレブランケという別名を持つ第五袋の小悪魔達の翼の音が近付いて来たので、ナムウドッグは急いでヴェルハルトを抱きかかえ、岩の斜面を仰向けに滑り降りた。
第五ボルジャの小悪魔達は、谷の上で悔しがったが、地獄の決まりにより次の第六ボルジャに入る事は許されていなかった。
こうして次の第六袋に入った二人。
「なぁナムウドッグ。どうして翼があるのに、飛ばなかったんだよ?」
すると平然と彼は言った。
「飛んで行くのは簡単だが、向こうは無数もの雑魚だった。雑魚は雑魚だけに何をするか分からんし、向こうも翼を持っている。一斉に飛びかかってこられたら、飛ぶこともままならぬ。故に、敢えて歩いた」
「ああ……そっか。成る程な」
内心芽生えていた疑問が、漸くヴェルハルトの胸の中で晴れた。
「足手まといのお前もいたしな」
「言いやがったなてめぇっ‼ もういい! 聖綴に代われ‼」
「仰せのままに」
ナムウドッグに軽くからかわれヴェルハルトは、そう彼に要求した。
ナムウドッグは背中を丸めると小さく縮んでいき、十二歳の少年の姿になった。
そんなやり取りをしていると向こうから、表面は眩い程の金色に塗られていたが、裏地は鉛で作られていて想像を絶する重さの外套を着せられた罪人達が、歩いて来た。
それはゆっくりと重たい足取りで道を回っていたが、泣き顔には敗北と疲労の色が濃かった。
ヴェルハルトは、鉛の外套が重いのでゆっくり歩く亡者達と一緒に進んだ。
その彼の後ろを、聖綴も付いて歩いた。
だが、突然ヴェルハルトがウッと短く声を上げた。
地面の上に、三本の杭で十字架にされている男が、目に入ったからだ。
その亡者は、ヴェルハルトを見付けると溜め息で髭を揺らし、もがき苦しんでいた。
ヴェルハルトがそれを不思議そうに見つめていると、重々しくゆっくりと歩いている列の中から一人の亡者が、その様子を説明した。
「君が見つめている磔刑の男は、人民の為に一人くらいは拷問にかけた方が便宜的だと、パリサイ人に忠告をした男だ。パリサイ人とは"ファリサイ派"とも呼ばれユダヤ教内で力を持っていた一派だ。御覧の通り、道のど真ん中で全裸で斜向かいに──皆が躓く様に置かれている。人が通る度に、その一人一人の重みが身に堪える様に、してある」
その磔刑にされている男はカヤパと言う名で、今から約二千年前にユダヤの大祭司をしていた人物で、国の為、国民の為、そして何より権力の為に、多勢を守るのであればたった一人の犠牲はあっても良いと唱えた人物だ。
所謂、人柱である。
それに選ばれたのが──いや、選ばれたと言うよりも、決定つけられ狙われたのが、イエスだった。
彼を処刑の名の元に、"殺そう"と皆で相談した。
イエスの殺害を決定した会議に参加した。
それから一隊の兵卒やその千卒長やユダヤ人の下役共がイエスを捕え、縛り上げてまずアンナスの所に引き連れて行った。
彼はその年の大祭司カヤパの舅である。
カヤパは以前に、一人の人が民の為に死ぬのは良い事だと、ユダヤ人に助言した者であった。
こうしてイエスの殺害を決定した会議に参加した者達は、全員がこの第六袋の地面の上でイエスの十字架刑と同じように、全裸のまま十字にされ三本の杭で地面に固定されているのだった。
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