美しいの定義はいつも一つ
助けた女はなんと、これまで葵を監視し、時に狙撃してきた相手だった。
問い詰められて身を硬直させている。
「どこかの組織の者か?それとも単独犯か?・・・いや、単独犯っぽいな。アラビアータ以外でも複数から見られていた気配は無かった。目的を吐け!!」
小刻みに震えていたが、思い切って振り返り、走り出した。
葵も相手を捕らえるように睨みつけてすぐに追いかけた。
女が逃げるが、葵の足は早くすぐに追いつかれそうになる。
だが、小回りが効くのは小柄な方だ。
路地を使って回り込み、葵をまこうと必死に走る。
逃亡劇を繰り返す内に、葵は曲がり角で勢いよく女性にぶつかった。
「きゃっ!!」
「あぶない!!」
手を引っ張り受け止めると、なんと、シスターだった。
「ひゃぁっ!!あおあお、葵さま!!」
「シスター!!」
両手で口元を隠して顔を赤くしている。
「す、すいません、急いでてつい・・・」
シスターを立たせて謝る。
「いかがなさいましたか?葵さまが街中をこんな必死に走られているなんて・・・」
「あ・・・その・・・」
正直シスターには話したくなかった。
なんか大袈裟になりそうだし。
「い、いえ!大したことはありませんよ!それより、お怪我はありませんか?」
「はい、私は大丈夫です。・・・そう言えば先日、ジャトロファとソルガムから不安なことを聞きました」
「不安なこと・・・?」
慎重に繰り返して言う。
『やっぱりあいつら言ったな?』と疑っていると、シスターが続けた。
「ええ、なんでも、街中で矢で狙撃されたと」
『やっぱり言ったのか・・・』と思っていたらまたシスターが続ける。
「その時はご友人と3人で談笑していたそうなのですが・・・」
それを聞き、葵のことは言っていないが、ギリギリのラインを攻めたことはわかった。
『まぁ・・・言ってないは言ってないか・・・』
「どうにもそのご友人の顔がかっこよくて、背も高くて、武術・・・特に剣術の腕も優れていて、世間に影響を与えるような大手の会社?組織?に属していたけど最近独立された方で時々ここ、メリリーシャに来るみたいで・・・」
「結構言ったな!!あいつら!!」
2人なりに誤魔化したようだが、黒寄りのグレーというか、漆黒寄りの黒というか・・・。
葵はつい大きな声で怒りを抑えつつ顕わにしていた。
「え!?いかがなさいましたか?」
「いえ、何も・・・。続けてください」
手で指し示して促す。
「はい・・・それで、ここからは2人の推測なのですが、どうやらその方がストーカー被害に遭っているようで」
「ストーカー被害?」
葵的には傾げるポイントとなった。
『まぁ、あの2人なりに考えて出した話なんだろうな・・・』と自分を納得させて続きを待つ。
「はい!あの2人が言うには、どんな状況なのかその方がロマンチックなセリフをあの2人に吐いた瞬間に矢が飛んできたと!おそらくあれは嫉妬の一環かと!!」
「本気で言ってたのか・・・」と思わず呟いた。
「え?何か言いましたか?」
「いえ!何も!!」
シスターがまた聞き返すが、また葵が首を横に振って答えた。
「しかし、とても怖い話ですよね。こんな人の多い街中で矢が飛んで来るなんて・・・」
「そうですね・・・。やはりここは大都会ですからね」
さすがのシスターも不安そうにしている。
「葵さまがこちらにいらしていたとは知らなかったもので、私は今とても葵さまを心配しております」
「え?俺ですか?」
目を丸くして自分を指差す。
シスターは胸の前に両手を組んで一つ頷いた。
「もし、そのストーカーがジャトロファとソルガムのご友人よりも美しい葵さまを一目でも見ようものなら、必ず標的を乗り換えるでしょうから心配です・・・」
言い切った。
この聖女は何の迷いも無く、相手が必ず乗り換えると言い切ったのだ。
少し間を開けてから葵が聞き返した。
「あの・・・必ずとはいかないんじゃないですか?だって、相手にも好みとかあるでしょうし・・・」
「いいえ!絶対です!!絶対に葵さまを見たら乗り換えるに決まってますわ!!」
葵も首を捻る。
「そうとは・・・限らないんじゃないですか?ジャトロファとソルガム自身も顔が整っているので、その友人ともあらば、またイケメンなのではないでしょうか?」
「どういうことですか?葵さま以外に整った顔の持ち主なんていますか?」
全く理解できないといったように困った表情で小首を傾げる。
「・・・そう思って頂けるのはありがたいことですが、シスター以外の方の目から見たら世の中には結構イケメンはいますよ?ビストートだってその部類だし、大使というか、エディブルの花園にいた人々はみんな整っていましたよ?」
「何をおっしゃいますか!!美しいという言葉は葵さまにのみ適用する言葉ですよ?他に誰が当てはまるというのです?」
本気で言っている様子がまた怖い。
「美しいとは葵さまがご創造された概念ではないですか!!」
「お忘れですか?」とでも続きそうである。
どうやら会話が通じないようだ。
ヤバめのカルト宗教家の本領が発揮されてきたところで葵は切り上げようと思った。
「そうですか、光栄です。それじゃあ、そろそろ行きますね」
片手を軽く上げて挨拶し、去ろうとした瞬間、葵とシスターの間を矢が飛んで行き、石造りの壁に当たって地面に落ちた。
「全然追いかけて来ないと思ったら誰よ、あの女ぁ!!」
嫉妬心から放たれた矢が飛んできた方向を葵が振り向く。
「えらく挑発的だな!!俺から逃げ切れるとでも思ってんのか?」
「シスター!!」と呼びかけ振り向く。
逃げるように指示しようとしたが、どうやら様子がおかしい。
背を向けたシスターが矢を拾ってワナワナと小刻みに震えて握っている。
「シスター・・・怖かったですか?すいません。ここは俺に・・・」と言いかけたところ、矢を片手でへし折った。
「・・・え?」
唖然とする葵に振り返る。
「相手はついに動き出しましたね」
その声音は恐怖に震えるどころか、怒りの色を見せつつも至って冷静だった。
「きっと、葵さまを見て早速乗り換えたのでしょう」
『な、なんかシスターの妄言が現実味を帯びてきた・・・』
シスターのただならぬ怒りの雰囲気に葵は逆に息を呑むことになってしまった。
「お待ちください、葵さま!!必ず、私が敵を撃退いたします!!」
「シスター!!?」
葵の制止も聞かずにシスターは突っ走ってしまったのだった。
この時葵は「魔王軍の時の部下ってこんな抑制利かない奴いなかったな・・・」とほんのちょっぴり恋しくなったと言う。




