さっきの・・・
男性に絡まれて困っていた女性を助けた葵はまた散策に戻った。
雑貨屋の表に置かれた頭巾を被った小さな女の子の人形を手にしながら、先ほどの女性を思い出していた。
『さっきの女の子・・・どこかで見たか?』
なんとなく思い起こすが、大きな特徴も無くよくいる感じの素朴な女性だった。
外見からこの辺の女性のような洗練された感じはなかったので、きっと遠目の郊外などから来たのだろう。
人形を元の位置に戻す。
『気のせいか。魔王軍にも何人かあんな感じの子いたな』
この時、ほんの少しだけ68話からの「ある隊員の日記」の日記の持ち主のことを思い浮かべていたのだが、その隊員の周辺にいた子たちも思い出していた。
あの隊員がこれで浮かばれたのか浮かばれなかったのかは定かでは無い。
しかも、そんなことは数歩歩いたらもうすっかり頭の中から影を潜めた。
『ほんとうに色んな店があるな・・・』と思いながら見て回る。
表通りにはもちろん、路地だと言うのに点々と店があるし薄暗い路地でもそれなりの人とすれ違う。
「あ・・・」と葵を立ち止まらせたのは、ある駄菓子屋の表に貼ってあるポスターだった。
”ノーティーエッグズのくじあります”
苦笑いをして見る。
「アスタたちはこういう所で入手してたんだな・・・」
苦い思い出が蘇ってきた。
また歩いていると、曲がり角でさっきの女性と出会った。
「あれ?さっきの・・・」
女性は緊張しながら振り向く。
「さ、さっきはありがとうございました!」
緊張からか、慌てて頭を下げている。
「いえいえ、気になさらないでください。気をつけて」
それだけ言うと、横を通り過ぎて去ろうとした。
「あ・・・」と女性が別れ惜しそうな声を漏らした。
葵がどんどん遠ざかっていく。
緊張もあるのだが、もっと葵と話したい、仲良くなりたいと思えば思うほど、鼓動が早まる。
胸元の服を両手でキツく握り、それから一歩を踏み出した。
「あ、あの!!待ってください!!」
走り寄って行くと、つまずいてしまい前から転けそうになってしまった。
しかし、地面には打ち付けられていない。
「大丈夫ですか?」
なんと、素早く葵が戻ってきて受け止めてくれていた。
「はぁぁ・・・!!」と顔がみるみる赤くなっていく。
「怪我は?」
そう聞かれて首を横に振る。
「よかった!」
葵が優しく微笑みかけてくれていた。
また鼓動が早くなっていく。
ゆっくりと、丁寧に立ち上がらせてくれた。
立った後も葵は腕を持ってくれていた。
しばらく、2人で向かい合う。
初めに口を開いたのは葵からだった。
「さっき出会った時にあなたのことをどこかで見かけた気がしました」
そう言われて頬が紅潮したまま、ゆっくりと背の高い葵を見上げる。
その表情はさっきと同じ、優しい笑顔だった。
まるで童話に出てくる王子様のように。
「でも、気のせいかなとも思っていました」
ほんの少し眉毛が下がる。
「だけど、今ので完全に思い出しましたよ」
「え?」
女性が小首を傾げて聞き返した。
「失礼」と言って、しゃがんでマントの下辺りをめくり、スカートの模様を見る。
スカートには刺繍で特徴的な模様が施されていた。
「この刺繍、たしかアラビアータ郊外の集落に住む人々が衣服に施していた。今、転けかけた時に見えたんだよ」
女性の表情が一変して強張り、体側で拳を握るその手には汗が滲んでいた。
「それに、勘違いじゃない。何度かその顔を見たよ。イーストポートでイナリとパーティの戦闘に俺が加わった時に誰かが覗いていたという角を確認した時、昨日俺やジャトロファとソルガムの間に狙撃したアパートの階段で・・・」
鼻で笑うその表情はさっきとは違い冷徹だ。
「全部思い出したよ」と追い詰めていく。
女性の口元に力が入り、真一文字に結ばれる。
「お前は本当にずぶの素人だな。狙撃の腕はあるようだが、人に向かって射ったことがない。怖かっただろ?初めて人に当てた時は・・・」
その時、イーストポートからウェストポートへと向かう最中に葵の腕に当てたことを思い出す。
トラウマ的なのか、鮮明に思い出された映像に過呼吸気味になり、冷や汗が湧いてきた。
そんな状態の相手にも容赦無く葵は女性のマントを剥ぐ。
マントの下には小さめの矢と矢筒が背中にあった。
「やっぱりな。お前、アラビアータ周辺からずっと俺たち・・・いや、俺をつけていただろ?」
女性の瞳孔が開き、呼吸が一瞬止まった。
その生理反応を見るなり、葵は推理の正解を確信する。
「目的は何だ?何故、俺をつけ狙う?全部吐いてもらおうか」
葵のドスのきいた声に、相手は体を硬直させていた。




