初めての狩猟
崇敬する葵を狙った犯人に対し怒りを覚え、葵本人の制止も聞かずに突っ走ったシスター。
葵は見事に置いてけぼりを喰らってしまった。
少しの間頭を押さえて悩んだが、やがて走って追いかけ始めた。
その途中、ディンブラと出会う。
走る葵を見つけて声をかけた。
「葵くん!!」
「ディンブラ!!」
足を止めてディンブラに近寄る。
「どうした?危ないから離れてろ!!」
「やっぱり、もう相手と交戦しているんだね!」
目を丸くして驚く。
「やっぱりって・・・誰かから聞いたのか?」
それには首を横に振って否定した。
「ううん。葵くんの様子を見てたらわかるよ・・・」
「あ・・・そっか・・・」
たしかに全力で走っていたら誰でも何か察するものである。
ディンブラがより一層心配そうな声で聞く。
「それより、大丈夫?」
「それが・・・」と一部始終を話した。
「え!?大変じゃないか!!シスターを巻き込んじゃったってこと!?」
「そうなんだ・・・それを今追いかけていて」
ディンブラが先を指差す。
「とにかく!早く追いかけてあげて!!何かある前に!!」
「わかった!じゃあまた後で!!」
葵は走って行った。
「どうしよう!シスターに何かあったら大変だ!」
ディンブラは心配そうにの背中を見ていた。
シスターは葵ほどの速度は出ないものの、それなりに早い。
さらに葵よりも十分小回りが利くので、相手の狙撃手を追い詰めるには十分だった。
「くそっ!何よあの女!!しつこいわね!!」
路地を使って逃げることを諦め、建物に身を潜めた。
倉庫に隠れて遠く離れたシスターを観察する。
どうやらこちらを見失ったようで、その場に立ち止まってキョロキョロと見渡していた。
呼吸を整えて窓の隙間から矢を構える。
しかし、いざとなると手が震えだした。
冷や汗が滴り落ちる。
彼女は葵の言う通り、人間に向けての狙撃は慣れていなかったのだ。
彼女はアラビアータ付近にある小さな狩人の集落の生まれだった。
幼い彼女が的に向かって小さな矢で弓を放つと、真っ直ぐに真ん中を射る。
周りの大人たちが拍手し、歓声をあげる中、彼女は誇らしそうにしていた。
狩人の集落では男女問わずある程度の年齢になれば、狩りに出ていた。
大人たちに連れ立ってマントを纏い、森に出て木や岩影に身を隠す。
そして出てきた鹿などを矢で射つのだが、彼女がやるように言われた。
”ドキドキ”と高まる鼓動を聴きながら矢を引く。
狙いは定めた。
彼女が矢を放つ。
しかし、その瞬間、命を奪うという恐怖心が勝ってしまった。
心理的に手元がズレたのが自分でもよくわかった。
放たれた矢は鹿の足元に刺さり、逃げられてしまった。
それに対して、父は怒ることも無く褒めてくれた。
「よくやった。筋はいい。あとは恐怖心を慣らすだけだ」
彼女は鼻で大きく呼吸をして、次こそはと胸に誓う。
それからしばらくは父や他の大人が狩った獲物の解体で慣れていった。
初めて矢を獲物に放ってから半年後、もう一度チャンスが回ってきた。
もう以前のような恐怖心は無い。
何度も何度も解体してきたその体に矢を構える。
弓の弦を引きまっすぐに鹿の胸に突き刺さった。
その場で鹿が倒れる。
一発で仕留めたのだった。
「よくやった!!」と父が褒めてくれたが、緊張のあまり、その場に座り込んでしまった。
額に滲んだ汗を手の甲で拭う。
「・・・ふふっ!」とようやく笑顔になった。
その後は狩りに慣れ、何度も狩る内に1人でも行けるようになった。
そんなある日のこと。
こんな田舎町だというのに、とても洗練された美しい顔立ちの男性が町を歩いている。
全く見たこともない人物だ。
たぶん、旅人であろう。
何故か無性に心を惹かれてしまう。
紺色のジャケットが肌を映えさせている。
見たこともないような美しさにうっとりとしながら、離れた建物の影から見ていた。
その時、何となく視線に勘付かれたと思い、身を隠す。
案の定、相手はこちらを探るような動きを見せた。
鼓動が高まり、変な緊張感が生まれる。
まるで狩猟をしている時に獲物に勘付かれそうになった時のようだ。
相手もなかなか勘が鋭い。
こちらもいい加減自然を相手に身を隠すプロだというのに、迷わずこちらに向かって来ている。
『い、一体あの方は何者なの?』
彼女も慌ててその場を去った。
距離があったのも幸いして、相手から逃げ切り、呼吸と鼓動を整える。
しかし、そのスリル感というか、吊り橋効果のようなものが余計に彼女の恋心を引き立てた。
どんどん頬が赤くなり、一つ大きなため息を吐き、宙を茫然と眺めていた。




