嫉妬心と恐怖心
その翌日、葵たちが出て行ったのを見て後をついて行った。
ここらでは珍しい車なんてものに乗っていたから追跡は自然の動物の足跡を追うより楽だ。
だが、途中で迷ってしまった。
「あれ?ここどこ?」
そんな時に少年少女の3人組が大陸間の門の前で何かしているのを見かけた。
『何やってるんだろう?』と物陰に隠れて観察していると、大きな門を開けた。
目を疑った。
門の向こう側は海ではなく、陸地が続いているではないか!
3人組は「せーの!!」という掛け声であちらに渡り、門が閉まっていった。
「何、あの門!!大変じゃない!あんなのであのお方がどこかわからない場所に行かれたら困る!!・・・絶対に行かせないから。あの方を東の大陸から出したりしない」
急に声のトーンが低くなり、動き出す。
そもそも葵たちがここに来るのかもわからないというのに、そんな考えは思いもしなかった。
そして門の後ろ側に周り、魔法陣があることを冷静に確認する。
「やっぱり、魔法陣があった」
狩人は罠を仕掛けたり、外したりするのに魔法を使う場合がある。
その魔法陣を消したり描いたりする道具は常に持っているのだ。
布に薬液を浸して一部を消すと、遠くから異質な音が聞こえた。
車の音だ。
すぐに身を隠すと、葵たちの乗った車が現れた。
アラビアータで知ったのだが、もう1人旅の仲間がいることがわかった。
背が高くて綺麗な顔立ちをしている。
色も白くて葵と隣り合うと華奢で始めは女に見えた。
そんな人物が葵に抱きつく。
大陸間の門を開けた先が陸だと思っていたのが荒海だったからだろうが、許せない。
嫉妬心に駆られる。
「何?あの女?顔がいいからって調子乗らないで。あの方に触れるなんて許せない!!」
怒りのままに矢を放つと本当に相手を殺せる軌道に乗ってしまった。
「は!!」と放った後に冷静になって気づく。
初めて人を手にかけてしまうかもしれないという恐怖が押し寄せる。
動悸が起こり、過呼吸になる。
思わず尻餅をついたが、葵が伏せさせて回避した。
2人が重なるように寝そべっているのだが、嫉妬心なんかより、人を殺めなかったことへの安堵が勝り、その場からさっさと逃げた。
その際、船を使うと言った言葉だけは聞き逃さなかった。
そしてイーストポートで待ち伏せていると、案の定やって来た。
しかし、相手もこちらを警戒している。
すぐに部屋へと引きこもり、出て来なくなった。
「あの女と2人きりで部屋に何時間も・・・!!」
もどかしくて堪らない。
今すぐにでも引きずり出して葵を独り占めしたい気分だ。
だが、船の中という密室がなかなか勇気を出せない。
失敗すれば自分が追い詰められる。
動くのなら考えなければならない。
「着岸間近を狙うか・・・」
葵たちの部屋がある廊下から離れる。
「今のうちだからね。あの方の隣にいれるの」
そう言い残すと立ち去った。
自分も休息をとったりしながら船内で時間を過ごしていると、西の大陸が姿を現し始めた。
「そろそろ動くか・・・」
葵たちのいる部屋の前に着くと、ドアに耳を当てて中の様子を伺う。
特には声はしないが、時折立ち上がったりする音が聞こえる様子から、片方は寝ているのだろうと察した。
『どっちだろう?もし、あのお方が起きていたらどうする?部屋を間違えたでいいか。あの女だったら出てきた時に引っ張り出して拉致しよう』
ノックをすると、中から「はい」と男性の声が聞こえてきた。
『男の声?あのお方が起きてたの?』
しかし、なかなか出て来ない。
猟師としての嫌な勘が働いた。
何か来る。
敵意を持ったものが。
慌ててその場を離れて走り去る。
ドアを開けて追いかけてくる足音が聞こえた。
「やっぱり!!殺気を出しすぎた!?」
必死に逃げて、甲板に出て人混みにとりあえず身を隠した。
そこからさらに一つ階段を上がって上る。
そして甲板に出た葵を観察した。
見ていると、他の男が葵に近づき会話をしている。
その間も葵に隙が見えず、どこかこちらを警戒しているようだ。
見ていると、続々ともう2人やってきた。
そこで会話をしている葵を見て胸を押さえる。
「どうしてだろう?男同士でもあの方が他の人と話すのが嫌。・・・私は全然話せてないのにずるい・・・」
嫉妬心が時間と共に膨れ上がる。
自制が利かずにこのまま本当に誰かを射ってしまったらどうしようかと一抹の不安が押し寄せた。
その時、葵の背後から女性が近づいてきて、肩を叩いて振り向かせた。
その瞬間に怒りが増し、矢をセットして弓を引いた。
葵も殺気に勘付く。
矢を放つと、風の予測もばっちりで相手に刺さる軌道に乗った。
だが、葵は女性を庇って自分が矢を受けた。
葵の腕から血が出る。
それを見た瞬間に我に戻り、人に当てたことから恐怖心に変貌した心理に耐えきれず、その場を後にした。
走って逃げるが震えが止まらない。
「どうしよ、どうしよ、どうしよ!!」
船が到着したようで、人々が乗降口付近に集まる。
そこに息を潜めて身を隠した。
船を降りてから葵を観察していると、またさっきの人たちと合流していた。
遠く離れているので会話は聞こえず、関係性がわからない。
言い争っているようにも見えるが、ある時、女性が葵にしがみついた。
その途端、自制の利かない嫉妬が理性を食い潰す。
矢を構えて弓を引く。
そこまでは無心になっていた。
ただ一発、これで標的を射止められさえすればいい、と神経を研ぎ澄ませる。
風の音に耳を澄ませ、軌道を思い描く。
すると、運が味方した。
風が一瞬止んだのだ。
その瞬間を逃さず弦を放す。
さっき一度人に当てたことによって恐怖心が薄らいでいた。
「死ね」と呟いた瞬間、葵が女性を近くにいた男性に押しつけ、矢を小刀で叩き割った。
「・・・え?」
思わず目を疑っていると、葵の殺気を感じ取った。
『まずい!!こっちに来る!!』
またも猟師の勘で逃げる。
だが、相手も強者、どんどん追い詰められているのがわかる。
『足音が近寄ってきている!!まずい!!』
まるで、熊や狼に追われているかのような錯覚を覚える。
微かな足音を必死に拾いながら逃げ惑い、たどり着いたのは倉庫だった。
しかし、ここでも何か嫌な予感がした。
『なんだろう?どうあがいても一度捕まる気がする・・・。この相手からは逃げきれない!!』
明らかな格上だと判断し、対策を講じる。
マントの上にもう一枚、倉庫にあった毛布を纏った。
首元にはダミーのための人形を抱えて身を丸く縮める。
倉庫に足音が近づき、緊張感が走った。
しかし、一度通り過ぎる。
遠ざかっていく足音を聞き一安心した。
警戒をしながらドアに手をかけようとした瞬間、違和感に気づく。
『あれ?・・・光がもれてる』
冷や汗が垂れ、脈打つ速度が早まる。
すると、背後から首を固められた。




