召喚された跡かもしれない
チョコが目を覚ますと、アスタに背負われていた。
「んん・・・あれ?水の人は?CHEVAL MARIN・・・だっけ?」
「あ!チョコ!!」
「起きたのね!!」
シャロンとキャメリアが喜ぶ。
アスタが背中から下ろした。
「歩けるか?」
「うん、ありがとう・・・」
まだ意識が冴えないのか、うつろではあるが歩みはしっかりしている。
「・・・あのさ、あの人、どうなったの?」
「あー・・・置いて来た」
そのアスタの回答に目を丸くする。
「置いて来たって?・・・追いかけてこないの?」
「あ、そっか!チョコ気絶してたから知らないんだ!」
「どういうこと?」と傾げてシャロンに聞き返す。
「チョコがあいつを誘き寄せてくれた場所はね、私とアスタで石灰と枯れ草とかの着火剤を埋めていたの。石灰って、どういうわけか水分で熱を持つんだって!それが発火するほどの高温になった時に石灰の上に仕込んでいた枯れ草たちに引火して、炎が相手を取り囲んだの!」
キャメリアの話を聞き、しばらく黙った。
「・・・え?その状態で置いて来たの?」
「そう!」
平然とアスタが答えるので恐れ慄きたいような気がした。
「ちょちょ、ちょっと待って!?・・・え!?じゃあ依頼は!?」
チョコの心配事を聞いて『そこなんだ・・・』と他の3人は思った。
「依頼人のおじいさんに言ってさ、チョコが倒れたから病院行くって言って、ついでに依頼失敗でいいことも伝えて放置してきた。・・・何より、あいつ倒すのに石灰全部使っちゃったし!」
「おじいさんも別日に来てくれてもいいとは言ってくれたけど、あんな置き土産したからもう戻りたくないし、失敗にしておいたのよ」
アスタとキャメリアの言葉に小さく何度か頷いて答えた。
「・・・そっか。それもそうだよね。水の魔獣のミイラ・・・後処理ってできるのかな?あのおじいさん」
「さぁ?」とアスタが答えるが、シャロンは前向きだった。
「できるよ!だって水は熱で蒸発するでしょ?服しか残らないんじゃないの?」
「それもそっか!!」とみんなで笑い合った。
久しぶりにこのパーティのゲス、クズ度が発揮された戦いとなったのだった。
パーティが去った後、おじいさんが聞いていた進捗を確認しに畑に行くと、そこには人が倒れていた。
慌てて近寄り、体を揺する。
なんとなく周辺が暖かい気がしていたが、膝をついた時に、地面が熱を持っていることに気がついた。
「熱い・・・おい、君!大丈夫か!?」
「ぅ・・・ぅぅ・・・」
かろうじて生きているのか、うめき声を発している。
そして、その人の周りを丸く焼けた跡があることに気がついた。
「な、なんだこれは!?・・・儀式・・・・か?」
目を細めて必死に理解しようとするが次々と入ってくる情報に全く追いつかない。
「あ・・・あれ?・・・生きてる・・・・・」
「あぁ!!気がついたかい?」
老人が青年を起こしてあげると、目がうつろで地面に接していた部分が火傷したように赤くなった状態になっている。
「立てるかい?ウチで冷やそう!!君は大火傷をしている!!」
弱っている青年をよく見ると、下になっていた腕が魔獣化していた。
目を丸くして驚くが、今にも命尽きそうな青年を助けることに専念した。
青年は訳もわからぬまま、おじいさんに肩を借りてついて行った。
おじいさんの家に行くと、おばあさんやパーティたちくらいの年齢の孫娘が出迎えてくれた。
「まぁ!その子は一体?」
「大火傷をしているんだ!早く風呂場に!!」
風呂場まで連れて行かれ、孫娘が体を支えながら懸命に冷水のシャワーをかけてあげる。
「お兄さん、しっかり!!」と声をかけて意識を保てるようにしてくれていた。
冷水のシャワーをかけられている間に、おじいさんはおばあさんに憶測を話していた。
「おじいさん、一体彼はどうしてあんな大火傷を?」
「・・・実はな、今回畑を耕す依頼をギルドに出していたんだが、そこで孫くらいの少年少女の4人が来たんだ!それで、今日は2日目だったんだが、急に1人倒れたから病院へ行くと言い出したんだ!耕して石灰を途中まで混ぜたと言っていたから、また別日に来てくれてもいいとは言ったんだが、もう依頼失敗でいいと言って帰ってしまった!!」
おばあさんは頷きながら真剣におじいさんの話しを聞いていた。
「それで、畑の状況を確かめようと行ったら、あの子が倒れていたんだよ!!」
「えぇ!?畑に!!あの子はパーティの1人ではないの?」
おじいさんは首を横に振って答えた。
「いや、初めて見る子だったよ。あの子が倒れている周りに焦げた跡が円状になっていたし、地面が熱くなっていた!」
「えぇ!?そ、それは何故?」
困惑するおばあさんにおじいさんがさらに真剣な顔で答える。
「ここからはわしの憶測なんだがな、もしかしたらあの青年は、どこかから召喚されてこの世界に来たのではないだろうか?」
「召喚!?一体どこから!?」
おばあさんもファンタジーな話しに驚きを隠せない。
「あの青年の腕がまるで水でできた魔獣のような鋭い爪と大きな手だったんだ!!きっと、彼は妖精や魔獣の類で、あの少年少女たちが召喚したのか、他の誰かが召喚したのか、1人倒れたのは彼との戦闘か、召喚時の反動などじゃないだろうか?」
少しの間黙って考えていた。
そんなことがありえるだろうかと悩んでいたら、風呂場から孫娘の悲鳴が聞こえた。
「きゃぁぁぁああああ!!!」
慌てて駆けつけ、心配する。
「どうした!?」
腰を抜かした孫娘が青年を指さしていた。
「か、彼が・・・彼の腕が!!」
近寄って見ると、また魔獣化していた。
それをおばあさんに見せる。
「ほら!行った通りだろ!彼は人間じゃない!きっと召喚された魔獣か何かなんだ!!」
2人共息を呑んで口元を両手で押さえていた。
「うぅ・・・」とまたうめき声を上げた後に目を覚ます。
「大丈夫かい?」
「・・・ここは?」
青年の体からだいぶん熱が取れていた。
「ここは君がいた世界とは違う世界なんだよ。君は召喚されたんだ。何者かによってね」
「・・・え?」
青年自身も驚きで思考が停止する。
おじいさんが渾々(こんこん)とさっきの持論を聞かせる。
こうして心優しきおじいさんの勘違いによって、彼は異世界に召喚されたことになった。
「君の名前は何と言うんだい?」
「名前は・・・無い。親もいないから」と言うと、みんなが哀れみの目と声を向ける。
「・・・あ!でも、施設ではA-036って呼ばれてたよ!・・・実験体ナンバーだけど」
「それじゃあ、これからはウチの子になるんだから、何か名前をつけてあげましょう!」
おばあさんが提案したことに嬉しそうな笑顔になった。
そう、この青年は異世界だと思っているので、この農家の養子となり、農業を手伝うことにしたのだ。
「そうだなぁ・・・いい名前にしてやりたいなぁ。そうだ、響きもいいし、セージと言う名はどうだろうか?」
「いいわね!よろしくね、セージ!!」
嬉しそうに、また幸せそうに笑った。
セージとなった青年はこの後、能力を使って農作業の効率化で喜ばれたり、孫娘との甘酸っぱい恋愛などもあったりで、チョコのことなどすっかり忘れて幸せな人生を送っていくのであるが、それはまた別の話。




