少し盛られた土
チョコとシャロンが相手の前に姿を現した。
相手は魔獣化している。
「その姿ってことは、僕との接近戦はしないってことだね?」
「当たり前だろ?敢えてお前の有利な土俵に立つ必要は無いからな!!」
何かを察知し、見上げると頭上に水の塊ができている。
「シャロン!!退がってて!!」
「あいよ!!」
シャロンが物陰に身を隠し、離れて杖を構えながら見守る。
チョコは敵に向かって走り出した。
水の塊が落ちてくるので、周囲の木に飛び移り、木を蹴って隣の木へと飛び移り続けて相手を翻弄する。
落ちた水の塊が飛沫となり、チョコを捉えようとするが、チョコも素早く逃げるのでなかなか捕まることはない。
「クソが!!」とまた水を集めるのでシャロンが魔法を使った。
「グランク!!」
水が氷になり、地面に落ちる。
「くっ!!」
敵はなかなかの苦戦を強いられていた。
チョコとシャロンが戦うその間、アスタとキャメリアは畑に来ていた。
畑の中に直径5m(大相撲の土俵)ほどの広さにステファニアのツタで囲いを作り、ノーティーエッグズのモチパペットのモグラを放ち深さ90cm(手すりのある高さ)ほどの広くやや浅い穴を掘る。
穴の中に倉庫にあった石灰を全て持って来て敷き詰める。
さらにその上から昨日刈った枯れ草や石灰を入れていたビニール袋を入れて土を被せて石灰を隠した。
「ねぇ、石灰なんて入れてどうすんの?真っ白になるだけでしょ?倉庫にあった分全部入れちゃったけど・・・」
「まぁ、見てろ!あとはチョコが来るのを待つだけ・・・」
言いかけた時にシャロンが現れた。
とても慌てた様子で駆け寄ってくる。
「シャロン!」
「戦況はどうだ!?チョコは!?」
アスタとキャメリアの目の前まで来て足踏みをしながら焦った様子で報告した。
「た、大変なの!!初めはチョコが勝ってたんだけど・・・」
シャロンが言うにはこうだった。
初めはチョコが周囲にある木などを使って水の攻撃を回避したり、シャロンのサポートで氷にして無効化させたりしていたのだが、次第にチョコの体力が無くなってきたのだ。
チョコに疲れが出始めて、呼吸も荒く回避や反応の速度も遅くなる。
「おいおい!体力の限界が近そうだな!!」
煽られて悔しそうにするが、チョコも言い返すより呼吸に専念しなくてはならないほど辛そうだ。
漸く言葉を発したのは、相手に、ではなくシャロンにだった。
「シャロン!!あっちに行ってて!!こっちは何とかする!!」
「え!?ええ!?大丈夫なの!?」
頬や額から垂れる汗を顎で手の甲を使って拭う。
「いいから!!魔力だってたくさん使っただろ!!」
「わ、わかった!!」と言ってチョコを置いてシャロンだけ先にやって来たのだった。
「そんな!!チョコ、大丈夫かしら?」
キャメリアが心配する隣でアスタは黙っていたが、その表情は心配や不安が入り乱れ、険しいものになっていた。
そんなアスタを見てシャロンもキャメリアも不安そうにする。
その2人を見てか、アスタは一つ間を開けてから口を開いた。
「大丈夫だ。チョコは俺らの中で戦闘なら一番強い。メリリーシャの英雄だ。なんとかするよ」
アスタの言葉に2人も不安な表情から、一変し、頷いて答えた。
すると、遠くで宙に浮く水の塊が見えた。
どうやらこちらに向かって来ている。
「チョコ!!」
アスタが叫ぶと、チョコの姿が見えた。
戦闘モードとしてのスイッチが入っているのか、疲れた様子は感じないが、一心不乱にこちらに走ってきている。
その後を追いかける水の魔獣化した敵も見えてきた。
「待て!!どこまで逃げる気だ!!」
チョコは畑に踏み入れ、アスタたちのいる手前の少し盛り上がった場所で立ち止まり、振り返って構えを作った。
呼吸も荒く、汗も滝のように流れ落ちている。
限界が近いのは誰が見てもわかるのだが、危機迫った様子からは隙が見えない。
相手も思わずそんなチョコに冷や汗をかいた。
だが、すぐに不適に笑い、チョコを煽る。
「ふん!!仲間に助けてもらおうって魂胆か?しかし、そいつらだって魔力の限界が低そうだな。そんな弱小パーティ!!どうせお前なんか、前の歴戦のパーティに捨てられたんだろ!!」
チョコは一つ大きく呼吸をし、落ち着いた口調で話した。
「違う。僕はずっとここのパーティの一員だ。他のところなんて所属したことはない。彼らは最高のパーティだ」
「仲良しこよしの弱小パーティでのんきにやってるってか?英雄はさぞお気楽でいいな!!」
その間にも頭上に水が溜まり続ける。
特大の水の塊が降って来た。
「死ね!!」
しかし、チョコが動くことはなく、水に包まれた。
気絶するチョコは水にもみくちゃにされ、抵抗さえできなかったが、背後からツタが伸びて来て引き上げられた。
完全に勝ち誇った相手は高笑いをして水の塊を見ていたのだが、次第に土に吸収され消えた後を見て驚く。
水があった後にチョコが消えており、パーティの元に引き上げられていた。
「俺らはお前の言う通り弱小パーティだよ。形に残る実績もなければ、誰一人地位の高い有力者もいない。それどころか、卒業試験も不正合格の魔導師、修行途中で抜けて来た召喚士、教育さえ受けたことのない勇者、施設育ちのグラディエーターの集まりだ」
しかし、アスタは自信満々に微笑んで見せた。
「でもな!俺らはそれでも、四天王は何度も倒してきてんだよ!!」
「はぁ?何言ってんだ?」と不可解そうな表情をしていると、異変に気づいた。
おかしい。
汗がジワジワと魔獣の頬から滴ってくる。
体から湯気もでてきた。
周辺がやけに暑い。
顎に滑り落ちてきた汗を手の甲で拭う。
辺りを見渡していると、突然発火し始めた。
「わ、わぁぁぁああああ!!!」
あっという間に炎に取り囲まれる。
その炎をキャメリアとシャロンも目を丸くして見ていた。
「な、なんで燃えたの!?」
「すごい炎!!」
アスタは冷静に答える。
「石灰は乾燥剤とかにも使われてるんだが、水分を含んだらどういうわけか熱を持つ。だから乾燥剤は水気の多い場所の付近に置かないようにってわざわざ注意書きされてるほどなんだ」
「で、でも!なんで炎が上がったの?熱を持つだけなのよね?」
キャメリアの疑問に大きな声で相手に言い聞かせるように言った。
「それだけ高い熱を発する素材なんだよ!熱が上がる場所の近くに枯れ草とビニール袋をばら撒いた!!それらが高温によって発火し、次々と引火したんだ!!」
その炎は燃え上がり、空気や土に熱をもたらす。
逃げ場のない敵は水の魔獣の姿で悶え苦しんでいた。
体や服に引火はしていないのだが、水の魔獣ともあって熱でどんどん蒸発していく。
「ぁ・・・ああ!!」
周囲から水分を得ようとしても、それらも共に蒸発していく。
「ああああああああああ!!!!」
対処のしようのない苦しみに断末魔を轟かせていた。




