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月桂樹の葉を編む  作者: 叶笑美
群像劇
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83/110

本番直前

コレクション前日、ひいらぎは当日の流れなどの説明を聞きに王林の部屋に呼ばれた。

「お邪魔します」と言って入ると、すでに紅玉と高嶺たかねがいて、ベッド脇のソファーに腰掛けていた。

高嶺と紅玉が手を挙げてこちらを呼びかける。

「よ!柊くん!」

「高級ホテル生活は楽しんでる?」

柊は何よりも、自分の部屋との差について驚いていた。

まず、フロアの部屋数が倍ほどある。

王林の部屋に入ると、廊下が短めにあり、そこにはトイレやシャワールーム、クローゼットが所狭しとある。(一般のホテルなら普通のこと)

さらに進んでドアを開けると、21平米(約12畳)の一部屋にセミダブルのベッドと机を挟んで2人掛け用のソファーがある。

調度品も柊が見て明らかにランクが低い。

『こ、これが一般の部屋!?もしかして、私の部屋はランクが高い!?』

一般人が泊まれる最高級に泊まらせてもらっていた。

いわゆるスイートルームである。

それでもランクが低く感じていた柊。

しつこいようだが何度でも言おう。

柊はボンボンである。

「ほら、早く!こっち座って!!」

王林に手招きで促されて隣に座る。

「柊くん、どう?ここのホテル?メリリーシャで一番なんだよ!」

紅玉がニヤニヤと笑いながら聞いてくるのに、引きつった笑顔で答える。

「へ、へぇ〜!さすがですよね!調度品とか・・・」

「調度品の良い悪しとかわかるの?」と高嶺も小馬鹿にしたように笑っている。

「は、はは・・・ね?」

誤魔化した。

「さ、柊くんいじめもその辺にして、そろそろ本題に入るよ!!」

『柊くんいじめ・・・』

柊は複雑な心境のまま説明を聞いていた。


そして迎えた当日。

柊を専属モデルとして届け出を済ませていた兄弟は、共に関係者控室へと行く。

「いいか?柊くんの衣装は3つあるから、忙しいけど着替えはスタッフに任せて、ランウェイでひたすら堂々と歩くことを意識するんだよ!!」

「柊くんは俺たちのショーの1番目と7番目とラストだからね!」

「歩き方は覚えてる?昨日めちゃくちゃ練習したやつ!!あれだからね!!」

「わ、わかりました!!」

やや緊張した様子で答える。

最後に高嶺が手に何かを握らせて頷いた。

見ると、なぜかあめを渡されていた。

そこには小さく”fight!!”と書かれている。

『本当に悪い人たちではないんだな・・・』と改めて感じ、その熱意に思わず微笑んだ。

そして控室で待っていると、大きな音楽が鳴り響き、次第に騒がしくなってきたので客が入ったのだと感じた。

司会者の声が届いてくるのだが、廊下が何やら慌ただしい。

スタッフやモデル、デザイナーたちが奔走ほんそうしているようだ。

そんな外の様子を聞いていると、柊もそわそわし始めた。

『私は何もしてなくていいのだろうか・・・?何か手伝った方がいいのかな?』

しかしできることなど何もない。

柊は高嶺にもらった飴を口に放り込み、気をまぎらわせる。

『このコレクション、こっち側での参加なんてしたことないもんな・・・』

そう、柊はこのコレクションの主催側というか、実家の会社が出資者側でいつもVIPルームで接待を受けながら見ていたのだ。

当然今日の開催も実家が出資している。

あれこれと考えながら待っていると、紅玉が呼びに来た。

「柊くん!こっち来て!!早く!!」

「は、はい!!」

慌ててついて行くと、メイクルームに着いた。

「こちらへどうぞ!」とメイクアップアーティストに促されて座る。

柊が渡された化粧水やら乳液やらで保湿している間に紅玉がメイクさんに仕上げ方を紙を渡して伝えている。

「こんな感じのメイクでお願い!」

「わかりました!」

紅玉はそれを伝えるとすぐに出て行った。

その去り際にまた一言、怖いことを言う。

「アレンジは思いっきり好きにやっていいよ!!」

「わかりました!!」

柊は目を見開いて驚いていた。

『私の顔はどうなってしまうのだろう・・・?』

「よろしくお願いしまーす!」

笑顔のメイクさんが恐ろしく見える。

「よ、よろしくお願いします。・・・お手柔らかに」


メイクは特殊メイクをするかのように、肌に合わせた色の粘土のようなものを眉毛に貼られて消した。

そして下地やらベースメイクではシェーディングで頬や顔まわりの輪郭をシャープに演出し、ハイライトはリキッドとパウダーを駆使して顔のメリハリをつける。

アイメイクは思い切り濃い赤にラメで高低差をつけた後に黒のアイライナーで濃く、太い目の周りの線を引くと、これでもかというくらいに目尻の線を長く跳ね上げた。

先ほど貼り付けた粘土のようなものの上から眉毛を描いていく。

いつもの柊の美しくしなやかな柳眉りゅうびとは一変し、太さも角度もしっかりつけ、小鼻と瞳の外郭を結んだ延長上に眉山を作り、眉尻も角度をつけて下げた勇ましい男眉。

唇はベースの時点で塗りつぶし、真ん中に真紅のリップを乗せた姿は、まるで現代に現れたお公家様。

その高貴な顔立ちは誰の目も引く気品があった。

その後、用意された衣装はあのイーストポートで着たものまんまだった。

柊が鉢巻を巻こうかどうしようかと迷っていると、三兄が来た。

「お!柊くん!!いいじゃないか!!」

「メイクさん、気合入れてくれたね!!」

「とっても似合うよ!!」

嬉しそうに王林が柊の肩を叩く。

「でも、これ付けたらあまりメイクは関係ありませんがね・・・」

「いいんだよ!それが似合ってたんだから!!」

「うんうん!あのイーストポートの町を闊歩かっぽする柊くんを見て、我ながらこの顔隠しは天才かと思ったね!!」

「ま、スタートは顔隠してもさ、あとで顔出すし!!」

苦笑いをする柊たちとは少し離れた所から、本コレクションの責任者が反応した。

「え?・・・柊?」

遠くから目を細めて、人の間を覗くように顔と体を動かして確認する。

しかし、その時にはすでに柊が鉢巻を巻いてしまっていた。

『・・・気のせいか』と責任者は再び業務に戻った。

「それじゃあ、本番頼むよ!!」

「がんばってくれよ!期待のエース!」

「あまり力まず、楽しんで!」

いつの間にか柊はモデル界の新人エースの座を言い渡されてしまった。

一つ深呼吸をして、それから気合を入れる。

「よし!恩人のため、がんばるか!!」

そう言うと柊は舞台袖まで歩いて行った。

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