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月桂樹の葉を編む  作者: 叶笑美
群像劇
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フジの不安

ひいらぎは無事に西の大陸についたのも束の間、この兄たちに協力してもらったお礼にと挨拶に行ったらメリリーシャのコレクションにてモデルをすることとなってしまった。

その時の兄弟の連携が光るクロージング(営業マンが使う手法で、会話でYESを引き出すこと)に見事にかかってしまった。

そして今、柊は王林と紅玉に挟まれながら馬車に揺られていた。

『どうしよう、コレクションとか言って人身売買の闇オークションに出品されたら・・・』

柊の中では葵=魔王軍=悪人となり、そんな葵の兄=悪人の方程式が完成しようとしていた。

葵は何もしていないのに勝手に悪評がついてしまったのだった。


メリリーシャには翌朝着いた。

到着次第、柊が王林に起こされる。

「おはよう!着いたよ!」

「おはようございます」

寝ぼけた様子で挨拶すると、紅玉が元気よく柊の肩を掴んだ。

「よし、柊くん!特別に俺たちと同じホテルに泊まらせてあげよう!!」

「は、はぁ・・・ありがとうございます」

そして着いたのは、かつて葵が魔王軍時代に利用していたメリリーシャで最上級のホテルだった。

「このホテルはコレクション優待者は特別に泊まらせてもらえるんだ!!俺たちの専属モデルってことで一部屋取れるのさ!」

立派な石造の外観のホテルを見上げる。

『あぁ、ここか』

柊はメリリーシャではこのホテルしか泊まったことがない。

何故なら国賓級の要人だからだ。

ぼーっと眺めている柊を見て三兄たちは誇らし気にする。

『ふふふっ!貧民柊くんは驚いてるぞ!!』

『驚きすぎて言葉も出ないか!!』

『なんせ、こんな高級ホテル一生縁が無さそうだからな!!』

そんなことを思いながら王林がホテルを指でさして続ける。

「これから、柊くんのことも含めてホテルに伝えてチェックインするから、少しの間その辺で散策しててもいいよ!」

「わかりました」

すると、フジが近寄ってきた。

「それなら柊くん、一緒に行きましょうか!」

「はい!よろしくお願いします!」


三兄たちはホテルでチェックインする際にスタッフに柊のことを伝える。

「後でウチの母と共に専属モデルが来ます。その人の分を追加をお願いします」

王林がコレクション招待状のホテルの案内を渡す。

中身を確認して、一つうなずいていた。

「かしこまりました。コレクション参加者の予備の部屋がありますので、そちらでのご案内をさせて頂きます。追加のモデル様のお名前のご記入をお願いします」

差し出された用紙にフジと柊の名前を書いて提出した。

受け取ると、スタッフが名前を見て一瞬固まる。

『柊?・・・たしかいつも泊まられる際にロイヤルルームに宿泊させる要人名簿にも同じ名前が・・・』と思ったが、すぐに手続きを進めた。

『そんなわけないか。それなら事前に連絡あるしな。それにモデルって言ってるし』

スタッフは王林の言葉にスルーしてしまった。

そして鍵を5本、人数分渡す。

「あ、このモデルと母の分は後から来た時に渡してもらえませんか?」

そう言って2本スタッフに返した。

「かしこまりました。ごゆっくりされてください」

三兄たちはチェックインを済ますとすぐに部屋にもって衣装の変更点や破損等が無いか確認していた。


柊とフジはメリリーシャの街中に出て、向かったのはブティック。

「すいません、付き合わせちゃって・・・」

「いいのよ!柊くんもいつまでも船員の制服のままじゃね!」

ニコニコとご機嫌なフジにどこか安心する。

『このお母様が生み育てた方々が悪人なわけないか・・・』

先程までの疑いを悪く思いながら服を選ぶ。

一応ホテルも一流なので、ドレスコードを意識してセットアップのジャケットを買う。

「すいません!これ、このまま着て行きたいです!」

「かしこまりました!」

買い物を終えて街を歩き、フジにお弁当と買い物に付き合ってもらったお礼でカフェに入る。

「そんなに気を使わなくてもいいのに!」

「いえいえ!お世話になったので、お返しさせてください!!」

「それじゃあ、遠慮無く」と言って紅茶をすすった。

それからほっと一息吐いて「はぁ・・・美味しい」と微笑む。

カップを置いてから手元を見ながら柊に聞いた。

「柊くんは、葵ちゃんのお友達なのよね?」

「はい・・・まぁ、そうですね」

自分で名乗ったものの、葵とは剣を交えたことしかないので友人枠でいいのか正直迷う。

「柊くんから見た葵ちゃんって、どんな人?」

「葵さんですか・・・正直一度しかお会いしたことがないのですが、初めての印象は凄腕の剣豪でした。今にも抜刀をして、私に切り掛かってきそうな、そして何より、それだけの殺気を剣の届く間合いまで隠して近寄られたことに驚きました。彼は本当に強いです」

そこまで言ってからハッとし、フジを見ると目も口も開いて驚いていた。

両手を振って言い直す。

「あ!その、剣豪として優秀ということですよ?別に殺人鬼とかそういうんじゃなくて!!その日も道に迷ったとかでウチで出したご飯とか、美味しそうにきれいに食べてくれましたし!!」

「あ、あぁ、そうよね!!剣豪として葵ちゃん、すごいのよね?」

あからさまに安心した様子を見せるフジは、紅茶をまた啜っていた。

「あの・・・他はどうかしら?人柄とか」

「人柄ですか・・・。私の目からはとても育ちがよく、礼儀もわきまえていて、何より剣を交えて自分が勝った相手にも温情と敬意を持ち合わせていました。ただ奪うだけじゃない、とてもできた人だと感服いたしました。・・・ただ」

「ただ?」とフジが聞き返す。

「ただ、あの性格だと魔王軍のような冷酷で非情な行いを強要される組織に身を置き続けるのは辛いのではないかとは心配いたしました。ですが、その魔王軍は葵さんの手で崩壊しましたがね」

「そう・・・」

カップを置いて、少ししてから柊を見上げた。

「実はね、この前の船で葵ちゃんと会ったの!」

「葵さんも乗られていたのですか?」

「ええ。その時、矢が飛んできて、葵ちゃんは私をかばって怪我をしたわ。・・・やることがあるとは言っていたけど、あの殺気の漂う姿、見たこともない様子に少し驚いてしまって・・・。私が知らない葵ちゃんがいるのだと、友達のディンブラという子からの言葉で思い知らされたの。葵ちゃんが遠くに離れて行っちゃって、寂しいような、どこか怖いような・・・」

「そうですか」

柊は返事をすると、一口コーヒーを啜った。

「私は、先ほど言ったように、一度しか会ったことがないので、どちらかと言うとみなさんの知らない葵さんしか見ておりません。しかし、おびえることはないと思います」

柊を見ると、優しく微笑んでくれていた。

「逆を言えば、私もそのディンブラさんという方も知らない顔を家族になら見せられる。それは葵さんが安心できる関係性だということではないのでしょうか?いつも気を張っていないと生きていけない、神経をすり減らし続けないといけない場所で生きて来た彼の、唯一安心できるのがお母様やご家族なのではありませんか?そんな安心できる人々にはできるだけ危機迫った様子など、私だって見せたくありませんもの」

それを聞いた途端、フジの顔がほころんだ。

「そう・・・ありがとう、そう言ってくれて!安心したわ!」

「いえいえ。同年代の同性だからとか、家族でない第三者にしかわからないこともありますよ。お力になれたのなら幸いです!」

フジの安心したような笑顔に、柊も思わず嬉しそうに微笑みかけた。

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