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月桂樹の葉を編む  作者: 叶笑美
群像劇
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80/110

三兄の連携

しばらくすると、心ここにあらずな状態の葵が帰ってきた。

「葵くん!!」とのディンブラの呼びかけにも、その後の質問にもどこか気の抜けた様子で返している。

その様子に兄たちは心配してはいたが、なんと声をかけたら良いのかわからずに、ただ見ているしかできなかった。

フジが動き出したので、王林が支えて連れて行ってやる。

母との会話で一気にいつもの覇気を取り戻したはいいが、フジが血がにじみ出す腕を心配そうに見た。

「葵ちゃん、もうやめて!お願いだから母さんと帰りましょう!!」

「いえ、そんなわけには・・・」

言い合っている内に、ディンブラが横から強い口調でフジを呼びかけた。

みんなが思わず注目する。

「さっき、やるべきことをやったら元の葵くんに戻るのかって聞かれた時に、僕はわからないと答えましたよね?」

「え?・・・えぇ」

「僕がそう答えたのは、今の葵くんも十分本当の葵くん自身の姿だからです!付き合いは浅いからみなさんの思う葵くんがどういうものかはわかりませんが、ここまでに色々な姿を見て来ました!知ってましたか?本当は葵くんは虫にだって興味があるんですよ!!」

「え?」と言って葵を驚いて見上げた。

葵はどこか言いづらそうに、しかししっかりと自己主張するためにディンブラとのこれまでの関わりの中で虫の魅力について教えてもらったことを話す。

そんな葵を黙って見つめていた。

さらにディンブラに”成長した葵”を見てあげて欲しいと言われ、自分たちが葵自身をいつまでも幼い状態の時でしか見ていなかったことに気づかされる。

だが、そうとはわかっていても心配な母は葵の腕を強く握って抵抗していた。

行かせたくないフジと、困っている葵の様子を見比べて、高嶺たかねが前に出た。

「母さん、兄さん。俺はこのディンブラの言ってることが正しいと思うよ」

ディンブラを擁護したことに、葵を含めた家族全員が目を丸くしていた。

高嶺が葵に近寄って向き合う。

「何かやらないといけないんだろ?俺たちからすぐに離れたがるのは、嫌いとかじゃなくて巻き込みたくないだけなんだろ?俺は葵を信じる」

その後、一つ笑って見せる。

「幼い頃の手のかかるイメージはそのままだけどな」

「高嶺兄さん・・・」

高嶺から勇気をもらったのか、葵は一つ深く息を吸ってから力強く答えた。

そして不安気なフジの肩を持って向き合った。

「母さん、僕が旅に出ること、許してください!そして、今の僕自身を認めてください!!」

そう強く言った後に、葵は少し表情を緩めて微笑みかける。

「まだ・・・幼い時の頼りない僕に見えるかもしれませんが、信じていただけませんか?」

母は涙を流して息子を抱きしめた。

それに優しく抱き返して答える。

「私の知らない葵ちゃんがいるのね・・・。いえ、今まで押し付けていたのかもしれないわね・・・ごめんなさい・・・・」

抱きしめたまま、母に首を横に振って答えた。

「必ず、決着をつけますので」

葵はこの後、家族と別れてディンブラと去って行った。

しばらくその様子を見送るように見ていたが、途中で紅玉が気づく。

「・・・あ!!モデルの件!!」

王林も高嶺も表情を歪める。

「しまった!忘れてた!!」

「つい雰囲気に流されて送り出しちゃったよ!!」

そこで王林がため息を吐いた。

「ふぅ・・・仕方ない。目の前で命狙われていたんだ。連れて行けばまた危険が来るかもしれないからな。葵には頼めないからやっぱり会場にいるモデルに着させる方向でいくか」

「ま、そうだよね・・・」と紅玉も半分諦めたように言っていると、遠くからこちらを呼ぶ声が聞こえた。

「あ!みなさん!!」

声の方向に振り向くとひいらぎだった。

「やぁ、柊くん!」

そこでみんなの頭に柊の事情が浮かぶ。

『こいつもたしか狙われていたな』

思い切って高嶺が聞いてみた。

「そういえばさ、さっき言ってた誰かに狙われてるっての、あれどうなったの?解決した?」

その質問には満面の笑みと即答で返ってきた。

「はい!おかげさまで、先ほどの港で無事にまくことができました!!」

三兄がお互いに目配せし合う。

そんな中、フジは柊に心の底から喜びを共にしてあげていた。

「よかったわねぇ、柊くん!!」

「えぇ、本当にみなさんが私を隠してくださったおかげですよ!!フジさんもお弁当の差し入れありがとうございました!!すごく美味しかったです!!」

そこで手に持っていた紙袋に入れていた借りた服を見せる。

「あ、そうだ!これをお返ししようと思いまして!」とフジに手渡した。

「さっきのみんなのお洋服ね!本当に柊くんお似合いだったわよ!!」

「ありがとうございます!えへへ!」

照れながら礼を言うと、さらに申し出た。

「みなさんにお礼をさせていただこうと思うのですが・・・」

そう言いかけた時にフジが両手を左右に振って断る。

「いいのよ!さっき船の席取ってくれたじゃない!おかげさまでゆっくりできたわ!!」

王林が紅玉に目配せした瞬間に頷いてフジを引き下げた。

「母さん!!ちょぉ〜っといいかな?」

「あら、紅玉ちゃん何かしら?」

紅玉がフジの肩を掴んで引き下げた後、すぐさま王林と高嶺が前に出る。

「柊くん、俺たちにお礼がしたいって?」

「そのお気持ち、とっても嬉しいよ!!」

「こちらこそ、無事に西側に渡れることがどれだけ大事なことだったか!みなさんは命の恩人と言っても過言ではありません!!」

「よかったらこの辺で・・・」と続けようとする柊をオーバーリアクションと大きな声で遮る。

片手で頭を押さえた王林が大袈裟おおげさに言った。

「なんだって!!俺たちが命の恩人に等しい!!?」

「え、えぇ・・・ですのでこの辺でごは・・・」

また柊の言葉を素早く遮る高嶺は胸を押さえて前へ出る。

「そんな!!柊くんっ!!俺たちへのお礼で何でもするだなんて!!」

「え?何でも?・・・あの、この辺でご飯をおご・・・」

この喋る人が前に出てくる舞台システムで遮っていくスタイルに、柊も驚いて抵抗を見せようとするが、さらに被せる。

「そんなに気にしてくれていたんだねっ!!柊くんっ!!」

「俺たちはそんなつもりはなはだ無いんだよっ!!柊くんっ!!」

「あの、ご飯をおごらせていた・・・」

突然柊の手を両手で王林が握った。

「そうか、そうか!!どうしてもお礼がしたいんだねっ!!柊くんっ!!」

「ご飯を・・・」

高嶺も肩を掴んで空いた手は拳を作っている。

「そこまで言うのなら、君の男気に甘えさせてもらうよ!!柊くんっ!!」

「え・・・はぁ・・・」

柊もこのよく掴めない状況に唖然としながら軽くうなずくしかできない。

「じゃあ、君からのお礼として、これからメリリーシャへ一緒に行こうっ!!柊くんっ!!」

「そこで俺たちの新作のモデルをしてもらおうじゃないかっ!!柊くんっ!!」

「は、はぁ・・・え?えぇぇ!?」

聞いていたらとんでもない方向に持っていかれた。

そこまでこじつけた様子を見て、紅玉が両手を開いてオーバーリアクションですっ飛んで来る。

「なんだって!?それは本当かい!?俺たちのコレクションのモデルになってくれるだなんて!!感無量だよ!!柊くんっ!!」

慌てて手を横に振り、拒否する。

「い、いえ!そんな私なんて!!」

「怖じけることはないんだよ!柊くんっ!!」

高嶺と反対側の肩を掴んで空いた手は同様に拳を握る。

「そうだ!君はいい素材を持っている!!さらにさっきの堂々とした歩きはまるで、イーストポートコレクションのランウェイを歩いているかのようだったよ、柊くんっ!!」

「うんうん!!俺もあの服を着こなした時点で、もうこれは葵よりも良いと確信したよ!!柊くんっ!!」

もうここまで連呼すると”柊くんっ”という語尾または口癖である。

柊もそろそろ思い始めた。

『魔王軍四天王葵さんのご兄弟、やはり悪事を働く人々なのか!?このゴリゴリ感!!尋常じゃない!!』

「私はモデルなんてしたことがないので無理です!!」

「大丈夫さ!!葵も初めはそんなこと言ってたけど、初回からそれなりによかったからね!!」

王林の口車に乗せられまいと言い返す。

「いやいや!葵さんは元から優秀なお方ですよ!だって天下の魔王軍で最高傑作と呼ばれた組織の幹部にまで上り詰めたのですよ!?それに、さっきのは顔隠してたから誰でもいいといいますか・・・ね!?」

柊も言葉が見つからないなど、様子から必死さがうかがえる。

「違うんだよ、モデルってのは体型や姿勢が大事なんだよ!!仕事の実績じゃない!!」

紅玉の言葉にちょっと自分でも言い訳の内容をミスったと自覚する。

『しまった!たしかに普段、戦闘が強かろうが、人を指示してようがランウェイでは無意味!!』

苦しそうな顔をしたが、すぐに強く断った。

「いえ!それでも、その申し出はお断りさせていただきます!!私にはできません!!」

手を突き出して断ると高嶺が一言言い放った。

「さっきお礼がしたいのか聞いたら頷いてたよね?」

柊は閉口した。

読めない状況に確かに頷いてしまったのだ。

高嶺が怪しく微笑む。

「男気、見せてくれるんだよね?」

なんかそんなこと言っていた気がする。

王林も紅玉もニヤニヤとこちらを見て三方を取り囲む中、柊は頷きざるを得なかった。

こうして半分騙されるように柊は王林と紅玉に挟まれて馬車に揺られながら、メリリーシャへと向かって行った。

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