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月桂樹の葉を編む  作者: 叶笑美
群像劇
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79/110

船上での打ち合わせ

偶然助けたひいらぎという貧民青年の親戚が営むという船に、無事一等室で乗ることができた葵の3人の兄(通称三兄)と母のフジ。

しかし、これ以上得体の知れない、しかも何かに追われているという柊から距離を置くべく、ふんわりした口上で離れることができた。

東の大陸から西の大陸へと向かう船内にて、葵の兄たちや母はゆっくり・・・とはいかなかった。

大規模コレクション前ともあって最終打ち合わせを三兄弟で行う。

「この服の時の紅玉のアクセサリーだけどさ・・・」

高嶺たかねのこの靴、装飾の部分少し変更してほしい」

「王林兄さんのこの服の時にこのブーツを指定してきたけどさ、こっちのほうがよくない?」

など、デザイナーとしての会話が飛び交う。

ちなみに、母のフジはその間邪魔しないように外に出て景色を楽しみ、ゆったりと時間を過ごす。

『葵ちゃん、元気かしら?』

なんて青い空と海を見ながら考えてみたりしていた。

ちょうどその頃、フジは船の先頭側の甲板に出ていたのだが、その下の階の船尾側の甲板では葵とディンブラが女性からのとろけた眼差しと、男性からの嫉妬の眼差しを一気に受けていた頃であった。

その後、ご存知の通りそそくさと自室に帰って行った。

時間も経ち、三兄の打ち合わせが終盤に差し掛かる。

「なぁ、葵に連絡とってモデルさせられないかな?」

王林の提案に紅玉も高嶺も反応する。

「そう!俺も思ってた!!だって、葵に着させる前提で作ってきたもん!!」

「あのお友達のディンブラとか言うのも最悪一緒に出てもらってもいいしね。てか体格違いで素材良いからその方がありがたい」

しかし、肝心の葵がどこにいるのか、そもそも呼び出してすぐに来れるのかという点が兄たちの懸念事項なのである。

ご覧の通り、葵は来る前提なのだ。

兄たちにとっては末っ子の葵とは家族からの召集令には絶対従うものと思っている。

「あ、でもさ、たしかやることがあるとか言ってたんだよね?来るのかな?」

高嶺が珍しくまともなことを言い出した。

「いや、来るだろ」と口を揃える王林と紅玉は鼻で笑い、「誰の召集令だと思ってる?兄さんたちのだぞ?」と言いた気だ。

それには高嶺も「そっか」と即答でそれ以上の言及はなかった。

高嶺が話も一段落ついたところで、伸びをした。

「くぅわー!!・・・ふぅ。俺、ちょっと外行ってくる。風に当たりたい」

そう言うと立ち上がって出て行った。

その後、王林と紅玉も伸びをする。

そして椅子の背もたれにもたれかかった。

「俺らも行くか、外」

「・・・だな」


先に外に出た高嶺。

売店の近くに来たら、見渡す限り人が多かった。

「さすが人気旅客船。よくこんなんの一等室取れたよな、柊くん」

すると、人混みの中に周囲をキョロキョロと警戒するように見渡す葵を発見した。

「あれ?葵?」

「高嶺兄さん!!どうしてここに?」

まさかこんなところでお互い再開するとは思っておらず、葵は目を見開いていた。

「それはこっちのセリフだよ!まだ東の大陸にいたのか?」

そう言いながら近づき、辺りを見渡す。

「あれ友達は?」

「ディンブラなら部屋にいます。それより、高嶺兄さんはお一人ですか?」

葵の質問には首を横に振って答えた。

「いや、兄さんたちもいるよ!これから東の大陸で仕事なんだ!ファッションショーがあるからね!母さんも旅行がてら連れてきたよ!」

まさか葵が誰かから狙われているとは一切知ることもない高嶺は、その強張こわばった表情の変化を見逃した。

「あ!兄さんたち!葵も乗ってたよ!」

手を挙げて呼ぶと王林も紅玉もやって来た。

「あ、本当だ!」

「葵もいたんだ!」

さらに表情がゆがみ、汗を垂らす。

「兄さんたち、僕友達を待たせているのでそろそろ行かせてもらいますね!」

その時、船内のアナウンスが鳴り響いた。

「まもなく、ウェストポートに到着いたします。本日もご乗船ありがとうございます」

「それでは、そろそろ港にも着くようなので失礼します!」

慌てた様子で葵が離れようとした時、背後から肩を叩いて「葵ちゃん?」とフジが声をかけた。

振り返る我が子にホッとしたような、嬉しそうな表情を見せる。

「やっぱり、葵ちゃんじゃない!同じ船に乗ってたのね!」

その途端、「危ない!!」と叫んで母の体を抱きしめた葵が飛んできた矢を体で受け止めた。

次の瞬間、「ぐっ!!」と葵が痛みに表情を歪めた。

「きゃぁ!!」

しかし、すぐに体勢を立て直し、驚く母を背に隠した葵は、矢が飛んできた方向を睨みつける。

「今、僕は狙われています!!母さんを連れて早く逃げて!!」

葵に指示され、王林が母の手を引いてうなずく。

「わ、わかった!」

「何かわかんないけど、葵も気を付けろよ!!」

「葵、これ!!」

そう言って高嶺は絆創膏ばんそうこうと脇差を渡した。

「ありがとうございます。とても助かります。母さんをよろしくお願いします」

背を向けて行こうとする葵に、母が大きな声を出した。

「葵ちゃん!!危険なことしないで!お家に帰りましょう!!」

葵は振り返り、冷静に微笑みかける。

「大丈夫です、母さん。僕はこう見えて魔王軍歴代最強と言われたきしめんよりも剣術だけはまさっていたのです。この愛刀があれば僕は負けませんよ」

そう言い残して走り去った。

フジは末の息子が危険なことに巻き込まれた心配で泣いたが、葵が振り返ることはなかった。

「母さん、とにかく行こう!ここは危険だ!!」

フジを連れて3人の兄弟は部屋へと戻った。


それぞれに船から降りる準備をしながら兄弟で話す。

「葵は一体どういう状況なんだ!?」

「わかんないよ!!」

「とにかく命を狙われてた!!」

それを聞いてフジがまた泣き始める。

「母さん!大丈夫だよ!」

「そうだ!葵ならきっと、なんとかするよ!」

「だから泣き止んで!」

3人が寄り添う。

そうこうしている内に船が港へと着いたアナウンスが流れた。

「行こうか、母さん」

王林に促されて頷き、立ち上がった。


船を降りて、ターミナルの外に出ると、葵が走り寄ってきた。

「兄さん!!」

「あれ?葵!」

「大丈夫だったか?」

「腕、早く病院行けよ!」

3人の兄よりも1番心配していたフジが葵の腕にしがみつく。

「葵ちゃん!もうやめて!!お家に母さんと一緒に帰りましょう!!これ以上危ないことはしないで!!」

「母さん・・・しかし」と言いかける葵に、王林と紅玉も付け加えた。

「葵は知らないかもしれないがな、本当は魔王軍の時から母さんはずっと心配していたんだよ。有名になればなるほど、悪名も同時に立つ。新聞の記事になる度に母さんは心配していたんだ!」

「母さんだけじゃない。俺たちもだ!」

口を紡いでいると思ったら、急にフジを王林に押し付け、目にも止まらない速さで脇差を抜いて矢を叩き割った。

その場にいた全員が息を呑む。

完全に魔王軍四天王時代のスイッチが入った葵は全身に殺気が漂い、敵を感知するかのように静かに神経を尖らせている。

「今・・・完全に母さんを狙ったな?」

ただならぬ様子ではあるが、心配になった紅玉が声をかけようとしたら、ディンブラが肩を叩いて、口元に指を当てて制した。

「君はたしか・・・ディンブラ!」

「今は葵くんに任せましょう。僕らじゃどうにもできない」

葵はゆっくりと歩いて行き、相手を追いかける。

残された家族たちは葵が見えなくなるまで、見守るしかできなかった。

みんな初めて見る葵の様子に、驚きを隠せないようだった。

そんな中、フジが腰を抜かした。

「わっ!母さん!!」

「大丈夫ですか!?」

王林が受け止め、みんなが集まる。

「あの・・・葵ちゃんは一体、どうなるの?」

ディンブラにしがみついて涙を溜めながら訴えかける。

「葵ちゃんはどこに行ったの!?やらなきゃいけないことをしたら、元の葵ちゃんは戻ってくるの!?」

そんなことを聞かれてディンブラも言葉に詰まる。

「それは・・・わかりません」

「わからないってどうして!?今すぐ葵ちゃんを連れて帰らせて!!・・・お願い」

泣き崩れたフジをディンブラは背を摩ってやっていた。

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