教訓はいつも童話の中に
「柊くんの初めの格好覚えてる?」
唐突な高嶺の質問に王林も紅玉も遠くで買い物を楽しむフジから、視線の先を変えた。
「覚えてるよ。なかなか忘れられないだろ、あの格好」
「俺も脳裏に焼き付いてるよ。なんなら衝撃すぎて次の作品に影響しないか懸念してるくらいだよ」
この三兄にとって、柊の初期装備は衝撃そのものであった。
「あの格好の人がさ、親戚にいたとして、俺らのコレクションこの格好で参加したい、しかもモデルで!とか言い出してさせる?」
2人の兄は黙って考えたが、すぐに答えを出した。
「いや、無理だな」
「そんなん大事な仕事に関わらせたくないね」
「それには及ばなくてもさ、似たようなことしようとしてない、今?」
2人の兄は頭を押さえて黙ってしまった。
しかし、王林が高嶺を諫めるような目で見る。
「おい、高嶺!人を見た目で判断するんじゃない!美女と野獣から何も学ばなかったのか?」
「冒頭の魔女のシーンね。あの貧民の老婆として訪れるシーンね」
「いや、そうだけどさ・・・」
とは言うものの、高嶺は不服そうに腕組みして首を捻る。
そこに柊がパンツにシャツと、まともな格好になって戻ってきた。
「みなさん!お待たせしました!乗船可能です!部屋も用意していただきました!一等室です!!」
三兄は互いを見合わせて目を丸くする。
柊の声を聞いて買い物した袋を提げて戻ってきたフジが喜んでお礼をしていた。
「まぁ、まぁ!ありがとう!柊くん!!」と言って嬉しそうに握手する。
「いえいえ、こちらこそすいません!たくさんお世話になったので本当は特等室を用意したかったのですが、空きが無くて・・・」
また目を丸くする。
「柊くんの・・・きっと仲の良いおじさんがこの客船の経営者だったのかな?」
「本当、人は見かけによらないね」
「いや、本当、本当・・・」
三兄がそんなことを言っている間に、フジが柊に売店で買ったお弁当を渡していた。
「これ、船の中で食べて!お腹空く頃でしょ?」
「わ!良いのですか!?・・・ありがたく受け取らせていただきます・・・!!」
柊は逃亡生活でロクに食事ができていなかったので、フジが神様か何かに見たという。
そんなやりとりの少し離れたところで高嶺がまた問題提起する。
「でもさ、柊くん自体はどこぞの組織に狙われてる危険人物なんだよね?船なんて密室で一緒にいるところを暗殺者とかに見られると俺たちも危なくない?」
「それもそうだな。俺が話をつけよう!」
王林が立ち上がり、柊に近寄って話す。
「柊くん、色々とありがとうね!すごく助かったよ!ここまで本当にありがとう!」
そう言うと握手を交わした。
「船の上ではあれだろ?仲良しの遠縁のおじさまとの久しぶりの再会とかなんとかで、一緒に過ごされるんだろ?」
実にふんわりした口上である。
「え?遠縁のおじさま?」
「そうだろ、そうだろ!うん、ぜひ積もる話をしてきなさい!俺たち、これからコレクションの最終打ち合わせがあるから!」
片手を上げるとフジの肩を押して柊から離れて行く。
笑顔で去りゆく三兄と不思議そうなフジを唖然と見守る。
「それじゃあね!柊くん!!」
「本当、船の件ありがとう!!」
「またねー!!」
「一緒に行かないの?」と言うのは母のフジ。
そんなフジに指を一本立てて口元に当て、紅玉が「しっ!!」と言って黙らせた。
元より、これ以上迷惑をかけるわけにはいかないと、船上では別行動を取ろうと思っていた柊だったが、相手の方から避けてくれた。
船に乗り込み、用意していただいたVIPルームに腰を下ろす。
すると、すぐにフジにもらったお弁当をあけてガッついた。
涙が出るほど美味しかった。
空腹は一番の調味料かもしれない。
そうこうしている内に、出発を告げる汽笛が鳴り響いた。
館内アナウンスの後、船にエンジンがかかり小刻みに振動が伝わる。
出発したのか、波の上下に合わせてゆったりと揺れ動いた。
久しぶりに落ち着くことができ、安全という幸せを噛み締めたくなったのか、海風に当たりたくなった柊は船後部の甲板に出て景色を眺めていた。
出発したてとは言え、港からは100mは離れただろうか?
離れゆく東の大陸を見ていると、遠くが何やら騒がしかった。
見ると、ここまで追いかけてきた女性陣が、船上の柊を見つけて海に続々とダイブをしているではないか!!
本当にハーメルンの笛吹き男展開となりビビってVIPルームへと駆け込んだ。




