信じる心
「どうせまだ外には出られないことだし、一つ占って差し上げましょうか」
促されるまま座ると、水晶に手をかざして柊の運命を覗き始めた。
「見えて来たわ・・・あなたに関係する子・・・あれ?この子は確か・・・」
顔を上げて柊を驚いた様子で見る。
「あなた、キャメリアの知人なの?」
「は、はい・・・彼女は私の婚約者の妹に当たります」
顎に手を当てて柊の顔をまじまじと見る。
「へぇ!そうなんだ!将来あの子の義理の兄になる予定なのね!!だけど・・・あなたは女難の相が出ているわね!」
「え?水晶で出てたんですか!?」
それにはクスクスと笑って答える。
「いえ!さっきの見てたらわかるわよ!!」
「あ・・・そうですか」と後ろにもたれる。
「水晶を見ても女難の相が出てるわ!その婚約者を探しているの?だいぶん苦戦しているようね」
「はい!」と今度は背筋を伸ばす。
「その婚約者は今の向かってる場所にいるわ!」
「本当ですか!?メリリーシャで間違いないんですね!?」
机に手を置いて前のめりで聞いてくるのに少し身を引く。
「え、えぇ・・・向かっている方向で間違いないわ!ただ、そこまで無事に行けたら、だけど・・・」
肝心な部分を強調されて、柊もどこまででも追いかけてくる女性陣を思い出し息を呑んだ。
「一体、どうすれば・・・いっそのこと、正直に婚約者を探していると言ってしまえばいいでしょうか?」
「それ一番まずいんじゃない?恋愛で近寄ってきてるんだから、みんな今度は怒り狂って婚約者を殺しに行くわよ?」
「それはダメだ!!」
柊は強く言った後考えたが、何も策は浮かばなかった。
占い師が再び水晶を覗くと、何かが見えたようで助言する。
「あら?何か港にあなたの縁があるわね。親戚か何か頼れる人とかいるの?」
「あぁ、港なら家業の船があります」
「船持ってるの?あなたなかなかのボンボンね」
「はぁ・・・」
それもそのはずである。
柊の実家は何代にも渡って、世界的に事業を拡大しており、かなり太い。
「その船に乗り込めたらとりあえず安心してメリリーシャまでは行けそうよ。そこまで頑張ってみて」
「本当ですか!?」とまた机に手を置いて前のめりに聞く。
「えぇ、そして、メリリーシャで知人と再会するといいわ。・・・これはたぶんキャメリアのことね」
「そうですか!ありがとうございます!!」
「いいえ、気にしないで!それより、男性ってあまり占いとか信じないのだけど、私の今の占いを信じ切れるの?」
「もちろんです!!椿さん・・・もとい、キャメリアさんたちのご友人ともあれば、私は信じます!!」
再び椅子に腰を据えて緊張しながら最後に一つ聞く。
「そうだ!最後に一つ、見ていただきたいのですが・・・」
「何?」と柊を見て聞き直す。
「私と婚約者の山茶花さんはその・・・近々結ばれるでしょうか?」
そう聞かれて水晶に手をかざして改めて見てみる。
「う〜ん・・・それは難しいわね。あなたからの意識は強く向いていても、向こうからの意識が方々(ほうぼう)に散っているわ」
「へぇー・・・まぁ、占いは当たるも八卦、当たらぬも八卦と言いますからね」
柊を見ると真顔だった。
「さっき信じるって強く言ったじゃない。キャメリアたちの友人だからって」
「ええ、さっきまでのはね。でも百発百中ではないのでしょう?それとも、外したこと無いのですか?」
「そりゃ・・・あるけど・・・」
ため息を吐いてもう一度水晶を見てから柊に聞く。
「実家からかなりお金持ちのお嬢様たちとの縁談が日々届いてはその手紙を破いてるわね?」
「はい、私には山茶花さん以外の女性と結婚する選択肢はありません!」
「ほら、当たってるわよね?さっきの信じる?」
「いえ!さっきのは信じません!例え当たっていたとしても、山茶花さんと近く結ばれない未来など私が変えてみせます!!」
頑なで盲目な恋をする哀れな青年のため、もう一度水晶を見る。
「じゃあ、これ!絶対に周りに知られてない話を当ててあげましょう。あなた、魔王軍の葵と縁があるのね?一度戦って敗れて、何か大事な物を渡した?」
「はい、脇差を渡しました。家に代々伝わる刀でしたが、そもそも主人を渡り歩いている刀でして、ここがあの脇差の渡り時かと感じ、譲渡いたしました」
「当たってるわよね?」
「ええ、当たりましたよ?でもさっきのだけは外してます、絶対!外れの八卦です!!」
「あれ?その脇差・・・この付近にあるわよ?その魔王軍の葵とは別人が持ってるわ」
「ほら、早速外れた!あの脇差は葵さんが使っているはずです!」
「本当よ!その脇差持ってる人見つけて会った方がいいわよ。そう遠くない場所にいるから」
折角の助言にも眉を顰めて首を捻るので、仕方なくもう一度水晶を見た。
「婚約者の意識が方々に散ってはいるけど、あなたのことも見てるわよ」
「信じます!!私は、必ずメリリーシャまで迎えに行きます!!ありがとうございました!!これ、受け取ってください!!」
そういうなり大金を置いて飛び出して行った。
「哀れね。人って、都合の良いことしか信じないのよね・・・。ま、いいけどさ」
外からは大量の足音に、「王子様〜!!」という女性の柊を追い求める声がしていたが、次第に遠ざかっていった。
静かになった町に出て見渡す。
さっきまで「今日は祭りなのか?」と思わせるほどいた女性たちが一斉に姿を消した。
「まるでハーメルンの笛吹き男ね」
そう言い残すと占い師は店に戻った。




