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月桂樹の葉を編む  作者: 叶笑美
群像劇
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74/110

葵の友人

東部のアラビアータから引き連れて来た女性陣は西部にまでひいらぎを追いかけて来ていた。

そこを助けたのはパーティと以前から交流のある占い師。

女性たちが遠ざかるまで、占いをしてくれた。

その結果、最愛の婚約者、山茶花さざんかはメリリーシャにいるという。

その占いを信じてイーストポート目掛けて走って行った。

相変わらず女性たちを引き連れて。

しかし、柊はさっきまでの疲労が嘘のように駆け抜け、広いアラビアータの町を疾風のごとくくぐり抜けて行った。

「イーストポートまで行くことができれば!私の勝ちだ!!待っててください!!山茶花さーーーん!!!」

そんな柊の後を多くの女性たちが追いかけて来ていた。

「逃すなーーーー!!」

女将さんの号令にみんな士気を高め、スピードアップする。

これはなんの魔法でもない、人々の執着心がかき立てた情熱によるスピードアップという点がすごい。

しかし、情熱なら柊も負けていない。

山茶花のことを思えばこんな状況何ともない。

駆けて行く柊に時々追いつき、腕や足を引っ張られては振りほどき、そでを引っ張られては破り捨て、女将さんにすそを噛みちぎられようともその足を止めることはなかった。

たぶん止めたら食い殺されるんじゃなかろうか?

そんな勢いで逃亡劇は続いた。


命からがらイーストポートまでは来ることができた。

しかし、満身創痍な柊は服はボロボロで両袖は無く、帯より下はダメージジーンズならぬダメージ着流となっていて、パリコレでもなかなか見ない斬新ファッションとなっていた。

そして、なんとアラビアータ東部の女性たちをまくことに成功はしたが、イーストポートのあらゆるところにおり、柊を探し歩いている。

「どうしたものか・・・。あと一歩というところで・・・」

建物の影に身をひそめて様子をうかがう。

時折、女将さんの突発的に発達した嗅覚が柊を言い当てることもあるので、隠れながらとは言えそう易々とことを運べない。

「とにかく、服を着替えなければ・・・。そうだ!ここの一番大きなホテルにはたしか服屋さんが入っていたはず!!」

さすがはボンボン。

大手ホテルに入っている服屋なんぞは大抵ハイブランドであるが、躊躇ちゅうちょなんて言葉は実家が太い柊の辞書には無いのだ。

女性陣の目を避けつつ、なんとかホテルに入ることができた。

しかし、当然のようにホテルのスタッフに止められる。

「お客様、当ホテルはドレスコードでして、そのような格好での入館はお断りさせていただいております」

「で、ですので、今からここの服屋さんで服を買おうと思いまして・・・」

「でしたら、館外の服屋さんでも十分素敵な服は置いてありますので、ぜひそちらの方でご購入されてから再度来館いただけますでしょうか?」

大手ホテルに変な格好で来た柊はもちろんのように摘み出されそうになっていた。

「どう見ても貧民boyの君がウチのブティックで買い物?笑わせるな!!」と心の声が聞こえてきそうだ。

こんな経験は初めてである。

いつも親や親戚とホテルに来る際は国賓こくひん級の扱いが当然だった柊が、今は貧民変質者として扱われている。

それもこれも出会ったのが自由人リベロな婚約者、山茶花に恋をしたせいだ。

だが、負けじと両腕を2人のスタッフに抱えられて出されそうになったところを、抵抗する。

「ダ、ダメです!今は外には出られないのです!!助けてください!!」

「助けが必要とあらばぜひ、館外にあります交番まで出向いていただければと思います!!」

それでも抵抗していると、柊は見覚えのある背中を見つけた。

「いーやー・・・あ!!葵さん!!葵さんじゃないですか!!」

必死の呼びかけに、スタッフも一度止まって振り向く。

「え?葵って?」

柊に葵と呼ばれて振り向いたのは葵の兄、次男の紅玉だった。

まだ彼らが西の大陸に向かう前のことだったのだ。

「葵さん!!お助けください!!私です!柊です!!以前剣を交えた仲ではありませんか!!」

「柊?」

「あれ?どっかで聞いたことあるような・・・」

スタッフたちも柊の名前を聞いて何か考えるが、この見窄みすぼらしい必死な男と、国賓級の御曹司が結びつき難い。

紅玉が近づいて柊をまじまじと観察する。

「お知り合いですか?」とスタッフに聞かれ、「いや」と首を横に振る。

「さ、交番へ行きましょう」

再びスタッフたちが追い出そうとするのを紅玉が止めた。

「待ってくれ!少し話しをさせてくれないかな?」

紅玉に言われて一度力を緩めはするものの、離しはしない。

「君、葵の知り合いなの?」

「え?・・・あ、葵さんかと思ったけど違う。・・・すいません、人違いをしてしまいました」

反応が急に大人しくなる。

「いや、大きくは間違ってないよ。葵は俺の弟だ」

「え!?葵さんのお兄さま?」

目を丸くして再び見上げた。

「ああ、それで?弟とはどういうご関係で?」

「かつて剣を交えた、と言いますか、簡単にいうと友人です!」

あごに手を当てて柊を頭から爪先まで改めて観察する。

「ちょっと、一回ちゃんと立ってくれる?」

「え?」

そう言われて、姿勢を正した。

「ほうほう、なるほどね。・・・わかった!」

一度頷うなずくと、スタッフたちに紅玉が話しかけた。

「悪いけど、彼は俺の弟の友人なんだ!今回は容赦してくれないか?」

頼まれたものの、相手も「しかし・・・」と渋る。

やはり格好が問題なのだ。

「君たちが言いたいのはこの格好だろ?大丈夫!俺たちがなんとかするから、頼むよ!」

紅玉はお願いついでにチップを握らせた。

それを受け取ると、何度か軽く頷いて許してくれた。

「お願いしますよ?ドレスコードは守ってくださいね」

「任せなよ!俺たちを誰だと思ってる?一応有名デザイナーだぞ?」

念押しをした後に、一礼してから去って行った。

スタッフを追い払った紅玉が柊に振り向く。

「あの、ありがとうございます。何とお礼をすれば良いのやら・・・」

「いいの、いいの!おいでよ!俺のジャケット貸してやるよ!そんな格好じゃ、町中にも出られないだろ?」

柊は改めてホテルのロビーに置かれている姿見で自分の格好を見て、悲惨な現状を知り、つい表情を歪めた。

破れまくった着流だけじゃない。

伸びた髭に、数日の逃亡でシャワーも浴びれず、泥まみれで髪は乱れている。

慌てて髪やら服についた泥を手ではたき、整えたが気休めであろう。


紅玉について行くと、泊まっている部屋に向かう途中の廊下でこれまた葵に似た男性2人と出会った。

「おはよう、紅玉!」

「あれ?その人は?・・・なかなかいいセンスしてんね」

高嶺たかねは柊の格好を見て少し言葉を選んでいる様子。

「この人は葵の友人だって!さっきスタッフに追い出されそうになったところを助けてあげたんだよ!これから服を貸してあげようと思ってさ!」

「へぇ・・・それにしても、良い人材だな。葵の代わりに十分なりそうなくらい!」

王林も柊を頭の先から爪先までをじっくりと観察する。

緊張しながら柊は立っていた。

「そうでしょ?そうだ、王林兄さんさ、さっきの服、この人に着てもらって仕上がりを見たらどうかな?元々葵に着させる予定だったし、体格も似た感じだからいけそうじゃない?」

王林が柊の体を触る。

「うん・・・うん・・・。葵より少し肩幅とか厚みは少ないけど、おおよそ同じだな!えっと、君の名前は?」

「ひ、柊です!」

名前を聞くと笑顔で頷いて呼んでくれた。

「柊くんか!わかった!よし、少しマネキンになってもらう!!」

「マネキン?」

何やらわからないうちに話が進んでしまった。

柊は目を丸くして突っ立っていた。

ノースリーブダメージ着流のままで。

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