アラビアータの西部まで
柊は西の大陸になんとか移ることができた。
結局、アラビアータ東部で出会った女性陣はどこまでも追いかけて来て、眠れぬ日々を過ごす羽目となった。
「王子様ぁ〜?」
「どこかしらぁ〜?」
どこからともなく聞こえる自分を探す声。
怯えながら身を隠して先へと進むが、進んだ先にも何故かいる。
慌てて引き返そうとしたら、背後からも声が聞こえてきた。
「こっちから王子様の匂いがする〜」
「待ってて〜王子様ぁ〜」
女将さんは飢えた野犬のごとく四つん這いで柊の身を隠す方に突進してくる。
急いで立ち上がり、人目につかないように、だけど迅速に移動を行う。
何故なら、まだここはアラビアータの中なのだから。
柊はイーストポートを目指すために駆け巡っていた。
港まで行けば実家が営む会社が所有する船があるはずだ。
そこまで無事にたどり着ければ追いかけて来られないはず。
軟禁されたところから逃げ出したはいいが、未だに追われている。
アラビアータは広いのだが、ただ、ここまでしつこく追われるとは思いもしなかった。
「どうにかして今日中に船に乗らないと!!」
心が折れそうになるのだが、婚約者で自由人な山茶花の写真を見て勇気をもらう。
「待っててください、山茶花さん!必ず!私はあなたの元へと行きますから!!」
そして再び走り出した。
しかし、走れど走れど湧いて来てるのかと疑いたくなるような人数が町中に散らばっている。
しかも犬もいないのになぜか匂いで探知されるし。
「困りましたね・・・。彼女たちの心に鬼でもいてくれたのなら、私の童子切安綱で切れたかもしれないのに、全くいませんからね・・・」
少しため息を吐く。
朝も夜も探され続けるのにうんざりしていたのだ。
その時、耳元で囁かれた。
「見ぃ〜つけた!!」
その声の主は女将さんだった。
一気に鳥肌が立ち、高く飛び上がったとほぼ同時に女将さんが両腕で柊を抱きしめ?捕まえ?ようとしていたのを回避した。
女将さんの背中を踏んで無心でただひたすら走る。
その後をたくさんの女たちがゾンビのように群れを成してこちらに向かってくる。
大量の足音、それに大量の「王子様待って〜」との声に、これだけ走っているにも関わらず、滝のように流れ落ちる汗は冷や汗。
必死に逃げている最中、路地から手招きをされた。
「こっち!!」
導かれるがまま路地に入り、さらにその先で手招きされて開いていたドアに入る。
薄暗い路地は人通りが普段は少なく、閑静な場所なのだが、今日ばかりは足音と女性の声でうるさかった。
「あれ〜?王子様の匂いが消えた〜?」
もう正気を失っているとしか思えない。
外の音を聞き、一安心してから振り返ってお礼を言う。
「ふぅ・・・。ありがとうございました。助かりました」
「いいえ、大変ね、あなたも」
助けてくれたのはアスタたちをかつて占ったことのあるあの占い師のお姉さんだった。
そして柊が駆け込んで来たのは占いの館だった。
薄暗い照明に、狭い空間と机と椅子。
机の上には水晶がサテン生地を貼られたクッションの上に鎮座している。
「どうして助けてくださったのですか?もしかしたらあなた自身の身も危うかったかもしれないのに」
その時、また外から「王子様〜?」と声が聞こえてきて、思わず両手で口元を押さえた。
「ふふっ!そんなの、困ってる人がいたら助けるものよ?ま、そんなところでもあるのだけど、それよりあなたとの縁を感じたのよ」
「縁・・・ですか?」
占い師が机を挟んだ向かい側に座り、柊にも座るように促した。
「どうせまだ外には出られないことだし、一つ占って差し上げましょうか」
「は、はぁ・・・ありがとうございます」
そう言って席に着くと、占い師が水晶に手をかざした。




