葵視点の四天王〜きしめん〜
きしめんの話を聞いた途端、さっきとは打って変わって、どこかもの寂し気な様子になった。
「きしめんとは仲は悪かったが、本気でぶつかり合えるライバルでもあった。あいつがいたから俺は剣術で一番を取れたし、何なら四天王になるまで這い上がれたのもあいつと競っていたというのは大きい要因だ」
「仲が悪かったの?」
ディンブラに聞かれて「あぁ、まあ・・・」と答えてからしばらく黙って考えていた。
「きしめんはたしか魔王軍最強だったんでしょ?」
「そうだな。自他共に認める最強だったよ」
「いつから嫌われてたの?」
もう一度聞いてみた。
葵は相変わらず無表情で運転をし続ける。
「はじめからだよ」
そう答えると、一つため息を吐いた。
葵が学校の帰り道に魔王から直接スカウトされて魔王軍に入隊した日のこと。
まだ当時うどんと名乗っていたきしめんは葵とは1つしか歳が変わらなかったが、鍛えたことの無い葵の体に比べて筋肉質であった。
葵以外の隊員は全て孤児なのだが、その面影を感じさせないほど栄養が行き届いている。
魔王に連れられて色々な隊員に挨拶をして回っていた時に、初めて出会った。
魔王がうどんに葵が来た経緯を話した。
「うどん!この子ね、才能ある子だから私が連れて来たの!お互い切磋琢磨してね!」
お互いに顔を合わせる。
こちらの顔が気に食わないのか、それとも魔王に直接声をかけられて来たからか、かなり睨まれていた。
しかも腕まで組んでいる。
「こら!うどん!!睨まないの!!」
魔王に言われた途端に姿勢を正して気をつけの格好になる。
「いい?あなたの方が先輩なんだから、色々と困っていることは助けてあげてね!!」
「かしこまりました!!」
大きな声でそう言うと、魔王は「さ、行くわよ!」と葵を促した。
ついて行く途中、一度振り返る。
相手もこちらを見ていたが、やはり睨まれていた。
気まずそうに再び前を向いて魔王について行った。
その夜、隊員の中でもまとめ役のリーダーに部屋を案内された。
ノックをして声をかける。
「入るぞ」と言うと、中から慌てた様子で立ち上がる音が聞こえた後、「はい!」と威勢の良い声が返って来た。
「うどん!今日から寝食を共にする寮友の葵だ!」
目を丸くしているうどんに対し、リーダーはニヤリと不適に笑った。
「よかったな、これで寂しくないぞ」
そう言うと、「ここが今日からお前の寝泊りする部屋だ」とだけ紹介して、背を押されて中に入った。
その後、ドアを閉められて2人きりとなった途端に、うんざりした顔をされた。
「あ、あの!本日よりお世話になります!葵です!よろしくお願いします!!」
「誰が世話してやるもんか!」
そういうと、2段ベッドの下に寝転んだ。
「あーあ!お前が来なけりゃ、ここは俺が独占してたってのに!!」
そう言った後また睨まれたので、その場に直立したまま目線を逸らす。
「あのリーダーの顔、見たか?最後までニヤニヤした憎たらしい顔!!」
「い、いえ!」と首を横に振る。
「あいつ、俺に武術全般で勝てないからって目の敵にしてんだよ!せっかく1人で広々使ってたってのに、新人が来て「ざまあみろ」って顔してやがった!!」
うどんは唇をとんがらせて不機嫌そうにしていた。
葵はどうしたらいいのかわからず、その場に突っ立っていた。
何せ、こんな世界は初めてなのだから。
「おい、いつまで突っ立ってんだよ?」
「はい!」
「座るなりなんなりしろ!!」
「はい!」
とは言われたものの、部屋には2段ベッドの他は勉強机が2つあるくらいでどうすればいいのかわからない。
とりあえず勉強机の椅子に腰掛ける。
しかし、どちらの机も埃を被っている。
気になった葵はここに来るまでに雑巾があったことを思い出し、取りに行って濡らしてから戻った。
そして机の上に雑巾掛けを始める。
葵は丁寧に2つの勉強机を拭き上げていた。
それを見たうどんはベッドの上から半身を起こしてこちらを見ている。
「何やってんだ?」
「机が埃をかぶっていたので・・・」
「アホか」とだけ言い残して再び仰向けに寝た。
その時、ノック音が鳴り、うどんが慌てて立ち上がる。
葵もうどんを見習い気をつけの姿勢を取って待った。
「入るわよ!」と声を掛けたのはまさかの魔王だった。
「はい!」とうどんが返事をする。
葵とうどんを見比べて嬉しそうに笑顔になる。
「うどん、葵と仲良くしてる?」
「はい!もうそれはそれは!”チコ”の仲のように仲良くさせていただいております!!」
その言葉に引っ掛かったが、葵は口出ししなかった。
ただ、少し首を捻ってしまった。
「あら、机が綺麗ね!ちゃんと掃除したのね!!」
「はい!机の掃除は日課としております!!」
「そう!」と笑顔を向けると、次に葵へと顔を向けた。
そして穏やかな口調で聞く。
「葵、古くからの友達って、なんて言うのかしら?学校で習ったわよね?」
うどんがこちらを見てくるのに気まずそうに俯いたが、もう一度顔を上げて魔王に答えた。
「“知己”の仲です!」
目を見張って見てくるうどんを見ないようにしていた。
「さすがね、葵!初等部までとは言え、富裕層の名門に通っていただけあって知力が高いわ!!」
チラリとうどんを見たがものすごく睨みつけられている。
そんなうどんに魔王は強く名前を呼んだ。
「うどん!」
「は、はい!!」と答えて姿勢を正す。
「葵に色々と教えてあげてね!でも、勉強のわからないことは聞きなさいね!」
「かしこまりました!!」
そして魔王がドアを開けて出て行った後、葵を思い切り睨みつけて威嚇する。
が、しかし!
すぐに魔王が再びドアを開けたので瞬時に気をつけの状態になる。
「うどん、昨日見た様子では勉強机に埃かぶるまで使ってなかったようだけど、あなたは日課としてどこを磨いていたのかしら?」
目を丸くする。
まさか見られていたとは・・・。
「葵を見習って勉強と掃除をしなさい!!」
そう言い残すと強くドアを閉めて出て行った。
残された葵はうどんに額をつけて睨まれ、身を縮めていた。
「あの時からだよ、俺が強くならないと生き残れないって思ったのは」
思い出話をしながら、やっと少しだけ葵の顔が綻んだ。
「仲悪いのに終始同じ部屋だったし、なんなら幹部になっても同じ部屋だったからな」
「なんだか腐れ縁だね」
鼻で一つ笑い、遠くを見ているその眼差しは、懐かしい寮友を思い出しているのだろうか。
「それで?武術と勉強はお互いに教えあってたの?」
「全然。武術はもちろん、うどん・・・というかきしめんが一番だったから教わっていたけど、勉強は聞きには来なかったな。勉強で俺が一番だろうが、二番のやつに聞きに行ってたよ。頼りたくなかったんだろ。それだけ嫌われてたんだ」
「でもなんで葵くんだけそんなに嫌われてたの?別に最初のリーダーだって嫌われそうなのに」
「あぁ、それも言われたよ・・・」
葵は相変わらず感情の読めない表情で思い出を続けて語った。




