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月桂樹の葉を編む  作者: 叶笑美
群像劇
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54/110

柊復活

キャメリアがアスタと旅に出た後、ひいらぎはしばらくしてから山茶花さざんかが再び家出した喪失感から立ち直っていた。

「それでは、私は山茶花さんを探して来ますので!!」

「悪いね、柊さん!」

「いえ!必ず連れ戻して、今度こそ入籍までを最速で行いますので!!」

山茶花とキャメリアの父に見送られてメリリーシャに向けて出発した。

このメンタルのV字回復たるや、葵のメンタル力に匹敵するのでは無いかと思われる。

仲間の仲違いで毒を食らって瀕死になり、いたずらで家族に由々しき勘違いをされた上に顔面にクモを乗せられて、その元凶が今では相棒として旅をしている。

柊も山茶花の第一回目の家出では理由も無く消えられた上に1年以上音沙汰なく、なんとか妹の椿(キャメリアの本名)が連れ戻した矢先に再び消えられた。

こうして並べると葵の方が圧倒的に過酷な状況だった。

葵ほどではないにしても、最近まで倒れて熱を出してうなされていたというのにもう人探しの旅に出ると言う。

お忘れだろうが、この柊は一応かなりの大手財閥家系の出で、さらに本家の長男なのである。

こんな哀れな出会いをしなければ今頃、家が決めた良家のお嬢様と結婚に向けて話が進み、今の苦労は無かったことと思われる。

しかしこの男は一途だった。

山茶花以外とは結婚しないと、実家からの新たな縁談を全て断っている。

もう何に執着があるというのか?

周りの人間からしたら何一つ理解できないのだが、恋は盲目ということなのだろう。


柊が最初に泊まったのはアラビアータの一角。

かつてアスタの友人たちが天国の面を被った地獄を経験した思い出のある場所だった。

カプレーゼが働いていた食堂に入る。

「いらっしゃい!」と気の良い挨拶で美女店員が迎えてくれる。

スタイルも抜群で、健康的な日焼けをした肌、へそだしルックがとても似合う山茶花とは正反対のタイプの女性だ。

柊も爽やかに笑顔を向ける。

その笑顔に頬をあからめほうける。

一目惚れだ。

しかしこの現象はここの店員だけではない。

柊が席につくや否や、大量の目をとろけさせた女性が押し寄せて来た。

その様は本作内で例えるなら、葵が蜂の巣を駆除するために近寄った際に大量の働き蜂(働き蜂のほとんどがメス)が巣や女王蜂を守るために一斉に押し寄せた時のような状態だった。

葵と柊では同じ異性に迫られる状況でも雲泥の差があった。

「あ!いたいた!」「ここにいたのね!」「あの、お名前を!!」など口々に迫りくる。

「ずるい!私も!」と店員のお姉さんも柊に言い寄る。

状況に慌てていると、いかにも屈強そうな若い男衆がぞろぞろと女性たちをかき分けて柊の前までやって来た。

「おい、あんた、どこの者だ?」

「私はここより東にある集落の者でして・・・メリリーシャを目指しております」

苦笑いしながら答えると、笑顔で頷いていた。

「そうかそうか。それなら・・・」

柊は首根っこを摘まれて追い出された。

「とっとと地元に帰りな!!」

店の中では男女で言い争っている。

聞こえる言葉の端々(はしばし)を聞くと、どうやら彼女を柊に取られそうになったのを嫉妬しただけだった。

中には革加工屋の娘でかつてファルシの恋人で、今は美大生に乗り換えたムスカリも当然のように混じっていた。

女心と秋の空、ということだろうか。

「困ったなぁ・・・。そろそろ日も暮れるから戻るのも先へも行けないというのに・・・」

すると、店の中から店主の女性が出て来た。

ふくよかな中年女性はとても柔らかな雰囲気で、懐の深そうな感じであった。

「お兄さん、お兄さん!ごめんねぇ、若い子たちが自分勝手で・・・」

「いえいえ、こちらこそなんだか揉め事を作ってしまったようですいません・・・」

「よかったら、この店の上が従業員が泊まれるようになってるからそちらで泊まってって!今の時間からじゃあどこにも行けないでしょう?」

「それは助かります!良いんですか?」

食堂の女将さんは快く頷いてくれた。


2階の部屋に入って、荷物を下ろしゆっくりしていると、女将さんがご飯を持ってきてくれた。

「あの、ご飯代払います!」

「いえいえ、いいのよ!みんなが迷惑かけたんだから!迷惑料よ!それより・・・」

女将さんは去り際、ドアの隙間から柊を少し上目遣いの、流し目気味で頬を染めて見つめ、猫撫で声を使った。

「ゆっくりしていってね。何日でも、いいからね」

最後に片目を閉じて出て行く。

思い返せば下で会った時よりメイクが濃くなっていた。

柊の旅路は明らかに初っしょっぱなから女難の相が色濃く出ていて、前途多難であった。


ちなみに、本人の名誉のためにも言っておくが、葵とディンブラが来ても同じ現象にはなっていただろう。

ただ、彼らは車を使って移動していたので、この町よりももっとウェストポート寄りの場所まで進んでいたので、女性に囲まれて色目を使ってもらえることがなかったのだった。

そのかわりにメスの蜂には大いにモテた(?)。

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