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月桂樹の葉を編む  作者: 叶笑美
群像劇
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53/110

アスタとシャロンの実家

突然だが、この”月桂樹の葉をむ”はオムニバス形式で色んな人の魔王戦のその後を描くというコンセプトだということをお忘れではないだろうか?

「やたらとパーティや葵とディンブラコンビばかり出ているじゃないか!」ともお思いでしょう。

この章ではその周囲の人たちの視点も展開していくのでどうぞお楽しみください。


アスタがアンティパスト島を出て行った後のこと。

いつもアスタ含めて4人でつるんでいたラペ、ファルシ、カプレーゼはそれぞれに家の手伝いをした後、3人でよく集まっては駄弁っていた。

「アスタ元気かな?」

「さあ?元気なんじゃない?」

「なんかここにいた方が窮屈そうで元気無くなってったもんね」

のんびりと過ぎる仲間との時間をぐうたらと過ごす。

「母やら女性がいる暮らしにも慣れて来たよな」

「うん。思ってたより慣れるの早かったし、なんか普通だよな」

「そりゃそうでしょ。特に僕らはその前にアラビアータの一角で女性のいる生活してたし、慣れてるんだよ、その分」

ラペが思い出して聞く。

「そう言えば、アスタんとこのおじさんの事業って、あの妹が手伝ってるって?」

「あー、そうらしいね。なんか働き者みたいでおじさんも大満足してるみたいだよ」

「こりゃもう、アスタの居場所ないね」


アスタが去った後、双子の妹(戸籍上)が父の貿易の手伝いとして一緒に船に乗ったり、交渉の場について行ったりしていた。

住んでいた村以外の場所が初めての彼女は好奇心をくすぐられた。

特に女子なので、カラフルな物、可愛いものへのセンサーが大いに働く。

これは男性の父やアスタとはまた違った感覚なのであった。

そこを面白がった父は娘に物の選定をさせてみたり、交渉をさせてみたりしていた。

アスタでも満足いく働きっぷりは見せていたのだが、娘でも十分に吸収が早かった。

特に自分で選んだ物のプレゼンは情熱を持って行い、成約率も高い。

それに、今まで開拓できていなかった女性向け雑貨店への道が開けた。

アスタという跡取りを失い痛手かと思いきや、とんだ怪我の功名である。

「よお、最近娘との仕事はどうなんだ?」

心配して聞きに来たラペの父がアスタの父に話しかけた。

「おお、順調だよ!仕事のキャパは少ないが、とにかく真面目に働くんだ!言ったことは必ずやるし、女性の感覚だから俺たちにわからない良さで開拓してくれる!とても助かっているよ!!」

とにかく元気だった。

何の心配も要らなさそうだ。

ただ、時折ため息を吐く。

「まぁ、アスタもいてくれたらな・・・とは思うがな」

呟くように言ったその一言には、息子を送り出したことで空いた心の穴のようなものが見えた。

だが、すぐに笑顔に戻る。

「心配してくれてありがとな!俺は元気だ!」

アスタの父は友に笑顔を向けて気丈に振る舞った。


「気丈だねぇ〜」

3人は口を揃えて言った。

ふとファルシが空を見上げながら呟く。

「アスタは・・・また戻って来るかな?」

「戻って来るでしょ。家族も家もあるんだから」

「女に囲まれて天国経験した俺らさえ戻って来たんだぞ?戻るでしょ」

ラペの言葉にカプレーゼもファルシも笑った。

「天国って!すぐに地獄の素顔が見えたじゃないか!!」

「そうそう!追い詰められすぎて全員で食堂のおばちゃんを好きになりかけたんだぞ?」

「それもそっか!俺だって酷い仕打ちに遭った上に破門されたしな!」

3人で「はっはっはっはっ!」としばらく笑い合ってからため息を吐いてまた海を眺めていた。

この3人はアスタのように好奇心から来るリスクを取ることを避け、目の前の快楽を取った結果、人生に疲れてしまったのだった。

とは言え、リスクを取ったアスタもなかなかハードな経験をしているので、どちらが正解とは言い切れないのがなんとも人生の妙である。


シャロンの実家は魔導師が使う薬草や薬品とそれに関する道具類を販売する店を夫婦で経営していた。

シャロンも時々手伝いをさせられていたが、薬品のことも道具のことも全くわからないし、興味もない。

幼い頃、父が配達に出ている最中に、母が客の忘れ物に気がついて走って追いかけて行った時、一時的に留守を頼まれた。

そんな時に限って客がやって来る。

「あれ?シャロンが店番してるの?偉いわね!」

近所のお姉さんが買い物に来た。

褒められて誇らしげに胸を張っていると、注文をされた。

「えーとね、透過魔法の補助薬と、浮遊魔法の薬が欲しいんだけど、今どれくらいあるかな?」

チラリと陳列店を見たがどれがどれやらさっぱりだった。

「あー、無い!今、売り切れ!!」

「えー?ちゃんとあの壺があるじゃない!いつもここから取り出してるわよ?」

店のカウンター奥にある陳列棚はガラス張りなので当然ながら客からは丸見えだ。

仕方なく棚から指定された壺を取ろうしたら、身長が足りなかった。

いくら背伸びをしても届かない。

そして振り返り、一言。

「今、無い!!」

お姉さんが困り果てていると、またまた近所のおじいさんがやって来た。

「おや、シャロンが店番かい?偉いねぇ!」

そして誇らしげに胸を張るシャロン。

ここまではデジャヴ並みに繰り返された。

「いつもの鎮痛剤を調合してもらってるんだが、それを受け取りに来たよ。もうできてるんだろ?」

「無い!今、売り切れ!」

確認することもなく断った。

またおじいさんが困る。

見渡すと店奥の棚の上に置いてあった。

「あそこにあるじゃないか!あれだよ!あれ!」

チラリとそちらを見上げて、どう考えても幼いシャロンには届きそうにない位置にある。

そしてまた一言。

「今、無い!」

デジャヴというか、シャロンがポンコツすぎた。

慌てて帰って来た母が謝りながら対応する。

みんな幼いシャロンのやったことだからと許してはくれたが、母はため息を吐いていた。

「でも、きっと魔法学校いけば薬品についても学ぶし、わかるようになるわよね?そしたら、このお店を家族みんなでやりましょうね!」

母はシャロンを抱っこして持ち上げた。

しかし、シャロンが大きくなり、魔法学校に入れはしたものの、万年最下位の上にまだ在学中には仕事を手伝えず、客に対して「無い!売り切れ!」と繰り返していた。

卒業試験を控えた、長期休暇では全く帰ってこなかったし、卒業試験間近で急に帰って来たと思ったら入学祝いの杖を壊して新しい大きな謎の杖を携えてくるし、もうわけがわからない。

そして、そんな自称プリムトン(杖の中では最高峰)の素材で作ったという大層な杖を持っているにも関わらず、卒業試験には何故か一度落ちたらしい。

再試の結果を両親で待っていたところ、近所の優等生の同じ学校に通う友達が合格通知とともにシャロンの手紙を持って来た。

「お父さん、お母さんへ。シャロンは再び旅に出ます。みんなで運命の人を見つけないといけないのです。大丈夫、シャロンにはプリムトンの杖と白雪姫がいる・・・」

「え?どういうこと?」

母が読み上げた手紙に父は理解が追いつかなかった。

「ねぇ、これどういうこと?再びって何?」

「私もよくわかんないの・・・。でも、頼りになる勇敢な仲間だったよ!!シャロンだって成長してたし!」

それだけ言うと、「それじゃあ!」と友達は去ってしまった。

父と母は娘の奇行にうんざりして、友達の言葉を信じて帰りを待つことにしたのだった。

あと、少しくらい賢くなって帰って来てくれと願うばかりである。

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