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月桂樹の葉を編む  作者: 叶笑美
群像劇
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55/110

葵の扱い

魔王討伐後、葵の家族は人魚の入江、ソルベインレットで葵と別れたが、そもそも家から出てみんなで移動していたのは葵に会うためだけではない。

魔王軍との決戦の数ヶ月前のこと。

実家には3枚の手紙が来ていた。

それぞれの兄たちにコレクションへの出場依頼の手紙だった。

「あー、今年もやるんだね、メリリーシャのコレクション」

高嶺たかねも来てたのか」

「俺も来たよ。旅行ついでに母さんも連れてってやろうか」

長男王林は服、次男紅玉は帽子やアクセサリー、三男高嶺は靴の分野でコレクションへの参加者としてお呼ばれされた。

その手紙にはしっかりと「ご兄弟様もご一緒に招待させていただいております」と記入されている。

このショーはファッション業界でも注目度が高く、規模感も東西合わせて最大と言っても過言ではない。

それほどの技術とセンスを磨いたのも、昔から幼い葵に悪戯いたずらをしまくっていたからだ。

女の子が欲しいという母の思いは他の兄弟も同じで、それを良いことによく葵を女装させたり、本当にただただ遊びで奇抜な格好をさせていた。

それを葵が家を飛び出すまでの10年以上に渡って兄たちは毎日毎日創作を続けていた。

魔王軍に入り、しばらくして一時帰宅した葵を見た時、家族の誰もがその目を疑うほどにたくましい体つきになっていた。

それどころか、帰って来る度に筋肉量が増えてゆく。

身長も長身な兄たちに追いつき・・・ちょっと負けていた(とは言え180cmあるので十分かと)。

だが4人の中で誰よりもモテる。

そして兄たちは当然、葵と似た作りの良い顔立ちにも関わらず、そんなにモテない。

あまりにもモテなさすぎて王林なんかは一度葵に変なことを言ったくらいである。


葵がある日、魔王軍で女子たちからもらったプレゼント類が寮に置いてられない程溜まってきたので実家に置きに来た。

「おい、葵。お前はモテすぎだ。そろそろ兄さんにモテ期を譲ったらどうだ?」

ただ荷物を置きに来ただけなので再び出ようとした時にそんなことを玄関で言われた。

「え?モテ期の譲渡なんてできるんですか?どうやって?」

「生意気だ!」と葵はつまみ出されたという。


「ねぇ、葵はどうする?また声だけかけてみる?」

高嶺の言葉に紅玉と王林が答える。

「そうだな・・・あいつにもモデルさせられるからな」

「ま、声だけかけてやるか。あいつも立派に魔王軍幹部らしいし、忙しそうだもんな」

なんて会話をしていたら、新聞を持った母が走って来た。

「みんな、大変!!魔王軍が!魔王軍が!!」

「え?」

「どうしたの、そんな急いで・・・」

「魔王軍に何かあったの?」

この3兄弟は成人してしばらく経つが、いまだに実家で暮らしている。

正直独立したいし、その資金力もあるのだが変に3人で成功してしまったが為に実家が職場と化した。

コレクションの発表もそれぞれでしたいのに三位一体で見られているのも悲しいところ。

一時期それぞれで暮らしていたのだが、仕事や新作の制作の度に3人で予定を合わせて集まるというのがわずらわしくなり、結局実家に集結した。

あと母も寂しそうだったのもある。

母が持って来た新聞に書いてあった見出しに衝撃を受ける。

「ま、魔王軍が崩壊!?」

「詳細はわからないみたいだね・・・」

「葵大丈夫かな・・・?」

すると、母が倒れ込んだ。

それを近くにいた高嶺が受け止めてあげる。

「大丈夫、母さん!?」

「葵ちゃん・・・葵ちゃん・・・」

「ど、どうしよう?」と高嶺が2人の兄を見るが、2人も互いを見合わせて困った顔を浮かべていた。

それから母は心配のあまり寝込んでいた。

「葵に連絡がつけばいいんだけどな・・・」

「なんか魔王軍からの支給物でケータイ持ってたけど、今も使えるのかな?」

「ダメ元で電話してみる?」

3人が悩んでいると、実家の電話が鳴った。

紅玉が出ると、大きな声を出して母を呼んだ。

「母さんを呼んで!!葵と会えるかも!!」

「葵は無事なのか!?」

「母さん!葵だって!!」

母は慌てて起き上がると、電話に出た。

「葵ちゃん!無事なの!?」

「あの・・・僕は葵くんの友達のディンブラです」

こちらの声音に戸惑う様子の相手に、少し冷静になった。

「葵の母のフジです。魔王軍が崩壊したと聞きました。私の息子は無事なのでしょうか?」

声がしっかりとした。

冷静な話し合いができるようにと努める。

「はい、葵くんなら無事です。今はメリリーシャにいますが、これから東の大陸に移動します。東の端にあるソルベインレットに向かう予定なのですが、そこでお会いしませんか?」

「・・・是非」

そう答えると、母は受話器を置いた。

兄弟は黙って母を見守っていた。


そして約束の日、母を連れて東の大陸の端まで連れて行った。

3人の兄弟はコレクション前ともあって朝一では動けなかったものの、遅れて人魚の住処すみかであるソルベインレットにやって来た。

その頃には葵はディンブラと共に去った後であった。

「純愛だね」

そしてこの家族の勘違い。

それはさておき、この兄たちは決して自分というものを見失っていなかった。

「こんにちは、お美しいお嬢さん方!」

下半身魚?住所は海中?

この兄たちにとってはどうでもいい事実だったようだ。

「こんにちは!葵さまのご兄弟なんですか?」

「すごく似てるわね!」

人魚たちに近寄り、爽やかに挨拶をする王林。

「違う、違う!葵が俺たちに似てるんですよ?」と言う紅玉の口調は「この困ったちゃんめ!」と言わんばかりだ。

「僕たち今度西の大陸で最大規模のコレクションに出場するんだ!」

「もしかしてモデルさんとして出るんですか?」

それには3人で笑い合って「おもしろいこと言うね、君たち!!」と高嶺。

「俺たちは作り手だよ!デザイナー!!」

「すごーい!じゃあ、葵さまも何か作られるの?」

その質問には待ってましたとばかりに前のめりになる。

「あいつこそモデルだよ!」

王林が名刺入れから名刺を取り出す。

「そうだ、我々の名刺を差し出し忘れていたね!はい、これ!洋服デザイナーの王林です!」

「アクセサリーや帽子デザイナーの紅玉です!」

「靴デザイナーの高嶺です!」

それぞれがラミネートされて防水加工までされている。

まさか人魚にいつか渡す状況を想定したとでも言うのだろうか?

一つずつ渡すと、お決まりの言葉を王林が告げる。

「裏には四男の葵を載せております」

「モデルをしてくれたんだよ」

「とっても似合うでしょ?」

そう言われて裏返させネガキャンを視覚的に行う非モテ兄共。

明らかに嫌がっていて不機嫌だし、照れたような表情も多少窺うかがえる葵が載っている。

人魚たちはというと、しばらく黙って見ていた。

これは初めての葵ネガキャン成功例か?

しかし次の瞬間、1人の人魚が叫んだ。

「きゃーーーーー!!葵さまの写真だーーーー!!」

それを引き金にみんなも嬉々とした声を上げる。

「きゃーーーー!!恥ずかしがってる!かわいいーーーー!!!ーーー!!!」

「こっちなんて女装してるーーーー!!」

みんな目がとろけている。

「この葵さま女装してるー!!かわいいーー!!!」

女子にとってかわいいは正義なのである。

もっとも、兄たちからすればかわいいというつもりでは一切出していないのだが・・・。

今回も例の如く全く効果の無いネガキャンとなった。

騒ぎ立てる人魚たちを置いて去る3人の兄たち。

高嶺は両サイドからひじで突かれていた。

「おい!お前の名刺の裏変えろ!!」

「女装で喜ぶ女子ばっかじゃないか!!」

「イテッ!イテッ!!・・・兄さんたちのだってなんか知らないけど好評だろ?」

3人の背中はため息を吐きながら去って行った。

そして葵の写真入り名刺は人魚たちの間でかなりの人気を博し、海中の人魚だけが行ける洞窟にあるほこらに後生大事に飾られたという。

その祠には海水が入ってこないようしっかりと魔法までかけられたとのこと。

推し活ってすごい。

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