物件探し
翌朝、幸福の王子の家探しをすることになった。
「幸福の王子はさ、この辺でもいいの?」
「あぁ、どこでもいいよ!安らかに暮らせる場所ならどこでもいいさ!」
アスタの質問にまた穏やかに答えた。
キャメリアが困ったように言う。
「どこで探す?空き家が多いのは都市の外れにあるスラム街だろうけどさ、治安悪いし安らかには暮らせなさそうよね」
「そうだね・・・。知り合い当たってみる?」
シャロンの提案にみんなが頷いた。
5人で歩いていると教会に向かう途中のジャトロファとソルガムに遭遇した。
「ジャトロファ!ソルガム!」
「あ!お揃いで!みんなで会うの久しぶりだな!」
「あれ?なんか1人増えた?」
2人が幸福の王子に近寄ってくる。
「初めまして!メリリーシャ近郊の村で統領をしているジャトロファです!」
「俺は副統領のソルガム!」
「ご丁寧にありがとう。私は幸福の王子です」
2人と握手を交わす。
「なんかあれだな」
「新人が1番強そう」
大した読書もしない2人からすればこの名前を聞いて童話を思い出すことはなかったようだ。
それにしても名前に違和感くらいは覚えてもらいたいものである。
ただ、今は思慮が浅くて面倒くさい詮索をされなくて済んだのは確かだった。
「今さ、この人に丁度いい家無いか探してるんだけど、心当たりない?」
アスタが聞くと2人はお互いを見合って傾げた。
「うーん。俺らの地元にも空き家はあるはあるけど・・・」
「ただ俺らは今から礼拝があるからな・・・」
2人に呆れながらキャメリアが返す。
「別について来なくてもいいわよ。場所だけ教えてくれたら勝手に行くわ!」
ジャトロファが紙に書き出して手渡した。
「ここら辺が俺らの村だから!この手紙に俺のサインしたから誰かに見せれば案内してくれるよ!」
「わかった!」
アスタが受け取り、指定の場所へと向かった。
ジャトロファとソルガムの村に着いた5人は最初に出会った少女に声をかけた。
少女は10歳未満のような幼い子どもで、髪を全て頭の上にまとめてお団子にしている。
ジャトロファとソルガム同様、肌は日焼けした健康的な色をしていた。
民族衣装なのか、体型のわからない麻でできたような白い膝丈でノースリーブのワンピースを着ている。
「こんにちは!ジャトロファとソルガムの友達なんですが、今この家を探しています!」
アスタが少女にメモを渡すと「ジャトロファさんとソルガムさんの?」と言って内容を見た。
「この家は今は誰も住んでませんよ?」
「大丈夫です!空き家を探してるんです!」
「こちらへどうぞ」と少女が先導して家の前まで来た。
「ここです」
幸福の王子が中に入って様子を見る。
「どう?」とシャロンが下から見上げた。
「ふむ・・・」
特に感情が読めないような反応が返って来た。
「保留だな」
「そっか・・・」
チョコも残念そうに答えた。
少女に礼を言って引き返す。
その途中、アスタが聞いた。
「どうして今の家は保留なの?」
「うん・・・何となく居心地の悪さを感じたんだ」
「居心地の悪さ?」とチョコが傾げる。
「でもさ、家も相性とかご縁だから、ピンと来ない家はやめた方がいいって聞くわよ?」
「じゃあ、他探して幸福の王子がピンと来る運命のお家を探してあげよー!!」
キャメリアの言葉にシャロンは拳を握って元気よく答えた。
メリリーシャまで戻り、次に誰を頼るか話し合う。
「次誰に聞く?」
「ビストートとか?」
チョコの答えに他の3人は否定的な反応を示した。
「ビストートなんて料理以外何も期待しちゃいけないだろ」
「そうよ。料理に関してはかなりの情熱を注げるけど、料理以外は何も情熱の無いタイプよ?はっきり言って100:0で料理にしか人生かけれない人でしょ」
「そうそう。頼るだけ可哀想」
シャロンはアスタとキャメリアの意見に何度も頷く。
「酷いこと言うな、みんな・・・」
チョコは引いてた。
だが、このパーティは接客業というものを舐めている。
父から受け継いだ店とは言え、腕と人脈があるからこそこの一等地で若くして切り盛りしているということは知らないのである。
これが世間知らずというものなのだ。
「ほぅ、そんなに上手い料理人がおるのか!」
幸福の王子が興味を示すが、パーティは苦笑いを返した。
「まあね。またその内連れてくよ!」
「ビストートは口が悪いからね。またその内!」
アスタもキャメリアもやんわりと断った。
「ねぇ、次はシスター頼ってみる?」
「そうだな。あんま頼んないけど行ってみるか!」
シャロンの意見にアスタが頷き、教会へと向かった。
教会の前に行くと、ジャトロファとソルガムと再会した。
「あ!ジャトロファ!ソルガム!」
「アスタたちだ!」
「どうだった?」
ジャトロファとソルガムに近寄り、チョコが首を横に振る。
「ちょっと保留だって」
「そっか、まあ家なんて相性があるからな!」
「で、教会に何か用か?」
ソルガムに聞かれて思い出したように言う。
「そうそう、それで次はシスターに聞こうと思ってさ!」
アスタが前に出て言っていると、シスターが出て来た。
「みなさん、お久しぶりです!」
「シスター!」と声を揃える。
「立ち話もなんですから、中へどうぞ!」
そう言われてパーティはさっさと入るが、幸福の王子は恐る恐る手を伸ばして、ドアの境目を無事に越したことを確認してから中に入った。
中に入ると、物珍しそうに教会の内装を見上げている。
「どうしたの?」とシャロンが不思議そうに聞いてきたが、首を横に振って「いや、別に」と答えるとみんなの元へと歩いて行った。
「シスター、こちらは幸福の王子です」
「あら、童話の?」
シスターは幸福の王子に近寄り挨拶した。
「はじめまして」とにこやかに握手をする。
詳しいことは話さず、目的だけを伝えた。
「今こちらの方に家を探しているのですが、この辺で空き家は知りませんか?」
「ごめんなさい。私はそういうのはあまりわからないのよね・・・。お力になれそうにないかも」
困ったように返されて礼を言って次に行く。
その移動の道すがら、幸福の王子が満足そうに呟いた。
「今の教会は神を祀っていないのだなぁ・・・」
「え?なんで?」
シャロンに聞き返され、笑いながら答えた。
「私が入れたからだよ。初めて入ったよ、教会というものに」
「あ!だから珍しそうにあちこち見ていたんだね!」
笑顔で頷き「ああ、そうだ!」と言った。
「どうして神様が祀られてると入れないの?」とアスタが次いで聞く。
「さぁ?魔女自身、神格化したものに近いからかもしれないな。何処かでは信仰があったりもするからな。それか、逆に不浄なものだからかもしれない。とにかく教会とは相性が悪いのだよ」
申し訳なさそうにチョコが返す。
「知らなかったとは言えごめんなさい・・・。もし入れなかった時はどうするつもりだったの?」
「その時は君らに交渉を任せるつもりだったよ。もとより、私は何もしてないからね」
キャメリアがいたずらっぽく笑って聞く。
「ねぇ、あそこは誰が祀られてるかはわかるの?」
「そこまではわからないよ。ただ、なかなかの信仰あつい対象ということだけはわかるよ。まだ本人は認識していないのか、受け入れていないのか、そこまでの力はあの宗教にとっては得ていないようだ」
パーティは互いに目を合わせて一言「当たってる・・・」と呟いた。
どうやら葵は神格化一歩手前のようだった。
あとは本人次第のところまで来ていた。




