キャンドルの記憶①
葵とディンブラの前に映し出された光景はシンデレラが魔女になるまでと、その後の行動であった。
葵の四天王初任務で築き上げた国を取られ、悔しがっていたところでシーンが変わった。
鏡を見てため息を吐く少女。
下膨れの顔に、そばかす面、腫れぼったい目に、痛みまくった髪に、それに手入れのされていない眉。
とても美人とは言えない容姿の少女は重い足取りで外へと出た。
「やーい!ブス!!」
「デブ!!」
その掛け声と共に複数人の男子から石が投げつけられた。
腕を顔の前に持ち上げて防ぐと、投げつけた男子たちはすぐに笑いながら走って逃げていった。
少女はその場でうずくまって泣いていた。
毎朝の習慣として鏡を見てはため息を吐き、外で石を投げつけられるまでが一連の流れであった。
少女の家庭は決して裕福では無い。
スラム街にほど近い貧困層の地域で今日も働きに出る。
ため息を吐きながら歩いていると、いつものように石を投げられた。
しかし、今日は少し違った。
「コラ!!何をしているんだ!!」
声のした方向を見ると、端正な顔立ちで身なりの綺麗な少し年上の青年が悪ガキ共に注意をしていた。
「わー!!」や「逃げろー!!」などと言いながら去って行く。
「もう二度とするなよ!!」と怒った後に、こちらに近づいてきた。
「大丈夫?女の子に酷いことをするやつらだな・・・」
石が当たった部分に付いた土を自分のハンカチで払ってくれた。
乱れた前髪も整えてくれて、それから笑顔を向ける。
「うん!完璧!これでかわいい君に元通り!」
少女は顔が真っ赤に染まった。
かわいいなんて初めて言われたものだから、照れと驚きで反射的に顔をそらして手で隠した。
「か・・・かわいくなんてないよ・・・。いつもブスって・・・あの子たちが・・・」
「そんなことを言われてるの?本当に酷い連中だな!!今度見つけたらぶん殴ってやる!!」
驚いたように目を丸くして見上げると、怒った表情をしていたがこちらの視線に気づき、ニコッと笑って見せた。
また顔が赤くなる。
「あの、このハンカチ!洗って返します!!どこに行けば会えますか?」
「え?いいよ、別に。気にしないで」
手を差し出す彼に首を横に振った。
「いえ!洗わせてください!!」
「そう?それなら甘えさせてもらおっかな?」
またあの優しい笑顔を向けて答えてくれた。
「僕は隣町の学校に通ってるんだ!ここには買い物でたまたま来ただけなんだ!悪いけど、そこまで持って来てくれる?」
一生懸命首を縦に振って答えた。
少女にとっての初恋だった。
どう見てもこんな貧困層とは無縁の出立ちの彼。
さらにこの整った顔。
自分でさえ毎日ため息が出るブサイクとは違いすぎる。
天と地ほどの遠い存在の彼に恋をしてしまったのだった。
それから少女は鏡を見て笑顔の練習をしてみた。
いつも無駄だと思っていたが、初めて自ら櫛を通した。
長年髪をといたことがなかったので、かなりゴワついていて、頻繁に引っかかる。
それでも時間をかけて髪に櫛を通した。
翌日、自分が持っている中で一番可愛いと思う服と靴で外に出る。
毎日石を投げつけてくる少年たちも、いつもとは違う雰囲気に唖然として、少女の堂々と歩く姿を見送った。
彼女は昨日とは違い、髪をとかして、お気に入りの服と靴を身につけ、笑顔で町を闊歩する。
自然と背筋も伸び、自信を身に着けた。
そんな彼女を今日は誰もブス呼ばわりしない。
これが恋の力である。
恋心がこの少女を突き動かし、たった一日で変化をもたらせた。
そして隣町の学校の前に行く。
少しドキドキしながら彼が出て来るのを待っていた。
しばらく待っていると、チャイムが鳴り、騒がしくなる。
学校が終わったのだ。
友達に囲まれながら校舎から出て来た青年を見て、少し頬を赤らめ、塀に身を隠して前髪を少しいじる。
近づいて来た頃に勇気を出して声をかけた。
「あ、あの!」
「・・・ん?あ!昨日の!!」
青年も気づいてくれて嬉しそうに微笑む。
「あの・・・昨日はありがとうございました!こ、これ!!」
そう言って洗濯してアイロンまでかけたハンカチを渡した。
「ありがとう!すごくきれいにしてくれたんだ!」
いつもの優しい笑顔がこちらを見る。
その周りでは男友達が茶化している。
「お前また女の子にちょっかい出したんかよ?」
「そういうんじゃないって!昨日この子が困ってたのを助けてあげたの!!」
そのやりとりを茫然と見ていると、背後から女子生徒たちが騒がしくやって来た。
「ねぇ、ねぇ!一緒に帰ろうよ!!」
「これからどっか遊びにいかない?」
女子生徒たちはやはり青年と同じく裕福な家庭の出身なのか、華があり、小綺麗でハツラツとして自信がある。
そんな彼女たちに少し怖気付いてしまった。
女子生徒の1人がこちらを見て、少し牽制するように横目で睨む。
この女子生徒は彼のことが好きなのだろう。
いや、恋人かもしれない。
到底勝ち目の無さそうな相手を前に泣きそうになりながらも耐え、頭を下げて去った。
「それじゃ!!」
「あ!・・・行っちゃった」
名残惜しそうな青年を見て、女子生徒が不機嫌そうに言う。
「何?あんなのがいいわけ?趣味悪!」
「いや・・・彼女昨日地元の少年たちに石を投げられててさ・・・ちょっと心配で」
すると、もう1人の女子生徒が青年に言う。
「優しすぎるよ〜!あの子ならもう大丈夫そうじゃない?ね、それよりどっか行こうよ!!」
もう一度だけ少女が去った方向を見て、友達に声をかけられたので前を向いた。
少女はまた自信を失った。
やはり昨日今日の付け焼き刃ではいけないんだ。
もっと努力をしないと彼には釣り合わない!!
家に帰って鏡を見る。
顔ばかり見ていたが、髪も十分に痛んでいる。
すぐに小遣いを握り締めて髪を切りに行った。
幼い分、切れば健康な毛質がすぐに顔を出し、あっという間にさらさらの毛になった。
さらに眉毛も整えてもらい、改めて鏡を見た。
これだけでかなり変身できたのだ。
その感情がまた彼女の自信を呼び戻させる。
それだけでは飽き足らず、自分の腹を触る。
肥えた体型も顔まわりの肉をつかせているのだと確信を得る。
それからは食事の量を減らした。
毎朝吐いていたため息は意識して笑顔に変え、「私はかわいい!」と言い聞かす魔法の言葉へと進化する。
努力すること数ヶ月。
少女は痩せたお陰でコンプレックスだった下膨れの顔まわりが収まり、目の周りにあった腫れぼったい瞼は薄くなり、厚みのある頬も小さくなり、そうなると不思議なもので鼻が高くなり、顔にメリハリがついた。
さらに手入れをし続けた髪は艶があり風に綺麗に靡く。
服もお菓子を買うのをやめて貯めたお金で好きな色の白の綺麗なワンピースを新調し、靴は修理と手入れをして新品そのものになった。
新しく変わった姿で青年の元に改めて行く。
学校終わり、通りゆく他の生徒が男女問わず振り向く。
以前の自信なく背を丸め、石を投げつけられていた少女の姿はどこにもなかった。
「あの・・・」と青年に声をかける。
「あ・・・え?ど、どこかで会ったかな?」
青年が頬を赤らめて話す。
「前に隣町で石を投げられていたのを助けてもらいました」
「え!?あ、あの子なの!?うそ・・・だいぶん変わったね」
上から下へと目線を滑らせてよく見る。
「ど、どうかな?変?」
「ううん!すっごく素敵だよ!!その・・・せっかくここまで来てくれたんだからさ、どこかでお茶でもどうかな?おごらせて!!」
嬉しい誘いに笑顔で頷き、2人は学校から離れて行った。
しかし、それをよく思わない人物も当然いた。
前回ハンカチを返しに来た際にいた、青年に恋心を抱く女子生徒だ。
「何あれ?ブスがちょっと努力したからって・・・」
腕組みをして睨みつける。
それから近くのカフェに行き、楽しくお話をする。
楽しい時間はあっという間に過ぎた。
「ねぇ、またどこか一緒に行こうよ!」
「嬉しい!もちろん!!」
2人は互いに手を取り合い惹かれあっていた。




