視線
2人は西に向けて走るが、とりあえず今日のところは一番近い町に泊まることにした。
ここで情報の共有や整理、さらには情報収集もできればしようということになった。
「東の大陸では、ハッキリと姿を見たわけではないが、ウェストポートでそれらしい人物がいた」
「じゃあ、明日は一気にそこまで行っちゃう?」
ディンブラに聞かれて少し黙って考える。
「いや、少し寄り道をして行ってもいいか?」
「いいよ。どこに寄るの?」
「隣町のアラビアータというところだ」
ディンブラは頷いて返した。
夜、就寝前に隣のベッドで横になったディンブラが葵に話しかけた。
「葵くん」
「何だ?」
部屋は暗くて相手の顔は見えない。
ディンブラはカーテンの隙間から見える月を見ながら続けた。
「チョコくんやアスタくんの話だと、白いプルチネッラって葵くんほどの身長があるんだよね?」
「そうらしいな」
「男性なのかな?」
「どうだろうな・・・」
葵は目を瞑って口だけを動かして返していた。
「アスタが言うには薔薇の魔女、白雪姫が”道化は何にでもなることができると言われている。いつまでも変わらないことも。だから、君達のことも道化が子どもに化けたのかと思って攻撃した”と意味深なことを言っていたそうだ」
「魔女が恐る道化か・・・」
そう呟くとディンブラも目を瞑った。
「何にでも化けられる・・・子どもにもなれるっていうの?」
「そんなものにまでなれるのなら、お手上げだな。探しようがないよ」
それから2人はしばらく黙っている内に、眠りについた。
翌朝、葵は朝から周辺を情報収集のために歩いていた。
あまり大きな町でもないので、有力な情報は無さそうだ。
しばらく歩いていると、市場に着いた。
「市場か・・・人は集まってはいるが、地元民みたいな人ばかりだな」
人々が親し気に店主と話している。
それに、みんなこの土地特有の刺繍を施した服を着ている。
同じような景色に人が通り過ぎていく中で一つ、離れた場所から視線を感じた。
振り返ると、こちらが気づいたことを察知して建物の影に隠れた。
慌てて追いかける。
『まさか!白いプルチネッラか!?』
少し距離もあったので、葵が着いた頃には姿をくらませていた。
荒く呼吸をしてから、ため息にも似た深呼吸を一つする。
そしてホテルへと戻った。
ホテルに戻った葵が何か思い詰めたような顔をしていたのに気づいたディンブラ。
「どうしたの?何かあった?」
「あぁ、今外に出てたんだが、誰かに見られていたんだ」
葵はディンブラの向かいの椅子に座る。
「見られてた?・・・もしかして、白いプルチネッラ!?」
「・・・わからない。距離も遠くて、追いついた時には誰もいなかったんだ。ただ殺意は感じなかった。本当に見られていたといった感じだ」
ディンブラも眉を顰めて考える。
「とりあえず、こちらの動きを見てるだけなのかな?」
「わからない。だけど、ディンブラも気をつけろよ。今後俺と行動を共にするということは、ディンブラも俺と同じ対象として見られる可能性がある」
それには一つ息を呑んでから頷いた。
「・・・そうだね。気をつけるよ」
それから少し思い詰めた表情で葵に聞いた。
「僕みたいな戦闘能力の無い人に心配されたくないだろうけどさ、前に持ってたサーベルとか武器は無くて大丈夫なの?」
「基本的には体術の心得はあるから大丈夫だ」
「そっか、そうだよね」と答え、それから葵は黙って考え込んでいたので、ディンブラも黙って新聞を読んだ。
そこには、魔王軍が崩壊したことが大々的に報じられていた。




