裁判
悪魔のようなシスターから一変、慈悲溢れるシスターとなった彼女に従ってついていくと、教会の最前列に座らされ、待つよう言われた。
しばらく待っていると、教会の鐘が鳴り響きあっという間に女性で満席となった。
居づらそうに身を縮めているとシスターが入場し、会場が水を打ったように静まり返る。
シスターは手に持っていた写真立てようなものを台に伏せて置いてこちらを見た。
それから女狩人を手で指し、みんなの注目を集める。
一生分の視線を浴びたんじゃないだろうか?と思えるほどの視線にまた身を縮めた。
「さぁ、立ってこちらへ!」
自分のことかと驚き、固まっていると、隣に座っていた女性から肩を叩かれて促された。
シスターの隣に立つと、より一層視線の数に怯える。
『そうか・・・始まってしまったんだ。弾劾裁判・・・』
狩人は半分諦めたように項垂れた。
「こちらの方は葵さまによって道を誤りました。遠く離れた東の大陸の一角にある狩人の町に生まれた才能ある女性です。彼女は自身の腕前を持って、なんと葵さまに矢を放ちました」
それを聞いた聴衆たちはざわつく。
「葵さまを!?」「なんて罰当たりな!!」など様々な意見が聞こえる。
何だか自分が酷く人の道を外れたことをしてしまったような気分になった。
とんでもない世紀の大犯罪者、または神殺しでもした人物を見るような厳しく、突き刺さる視線を一身に集める。
さらに身を縮めて汗を滲ませる。
『磔刑不可避・・・せめて一瞬で死なせて・・・』
果たしてその願いは許されるだろうか?
あろうことか、ここに集まる人々の猛烈な信仰対象である葵に矢を引いたのだから。
下手すれば犯罪者である証のタトゥーを彫られて一生後ろ指をさされるような生き地獄コースかもしれない。
『それか生爪を一枚ずつ外されたり、磔刑でも股間から杭を打たれたり、体を埋められて首をわざと切れ味の悪いノコで切られたり、寝転んでる私の口にティーを咥えさせてゴルフクラブで頭を殴打されたり・・・』
杭のはドラキュラ伯爵の元になった人物がしまくっていた処刑方法だし、ノコのは織田信長の処刑方法だし、ゴルフのはマフィアの処刑方法だし、何で彼女はこんな津々浦々な処刑方法の知識を持っているのか?
『神に魅せられた時点で私の人生は終わっていたということね・・・』
信者たちの視線が諦念を誘う。
諦めた彼女は脱力した。
「罪を憎んで人を憎まず、ですよ。みなさん!」
その言葉にみんなも黙り、狩人は顔を上げて希望を見た。
「みなさん、この方は地元で葵さまを見かけたとのことです。このような美しい方を見たのは初めてだと、そう言っておりました。我々と同じく葵さまに魅せられた者なのです。そして、道を間違えた。この哀れな仔羊を我々の群れに入れてあげようではないですか!!」
そう言った後、シスターは伏せていた写真立てを持ってこちらに見せた。
なんと、シスターが持っていた写真は(みなさんご存知)葵ではないか!!
『なんてこと!?ここの教会は、葵さまを祀っているの!?』
まさかのシスターからのありがたいお言葉に目を輝かせた。
「いい?葵さまはみんなのもの、決して誰のものにもなりません!」
シスターの後に続いて、信者たちが一斉に繰り返す。
「葵さまはみんなのもの、決して誰のものにもなりません!」
勝手に作ったシスターの教えにより、葵の生涯独身が決定されてしまった。
こうしてこの狩人は無事に葵教(非公認)への入信を果たした。
「よろしくね!」
「よ、よろしくお願いします!」
嬉しそうに返すと他の信者から質問される。
「名前は何て言うの?」
「リベス!」
「リベス、よろしくね!!」
四方八方から歓迎され、とても喜んでいた。
そんな最中、外からジャトロファとソルガムが教会に入って来た。
「あれ?もう終わってる?」
「シスター!」
2人がシスターに近寄ると、笑顔を返して迎えた。
「今日は間に合わなかったのね。忙しかったの?」
「いえ、昨日のあお・・・イケメンの友達を狙ったストーカーを探していたら遅くなりまして」
「結局見つからなかったです」
落ち込む2人に信者に囲まれる主犯ことリベスを見せる。
「それなら大丈夫よ!彼女がその人物なの!!」
「え!?」
「あんな女の子が!?」
2人はもっと目つきの鋭く、気も強そうな背も高めな女性をなんとなく想像していた。
しかし、そんな予想に反してリベスはその辺にいそうな小柄な田舎娘といった印象だった。
「はぁ・・・あんな華奢な子が」
「わからんもんだな」
「彼女は東の大陸にある狩人の町で葵さまをたまたま見てついて来たと言っていたわ!きっと、メリリーシャに来て一瞬あなた達の友人に目移りしたものの、やはり葵さまの美しさに正気を取り戻したみたい!!」
だとして、正気を取り戻した結果が尾行&狙撃とは。
とんだヤンデレである。
「そうだ!リベス!あなた住む家が無いんじゃないの?」
「はい、今はホテルに泊まってるけど、資金も限りがあるので困ってます・・・」
すると、ジャトロファとソルガムに振り向いた。
「ジャトロファ、ソルガム!あなた達の住む地域に空き家があったわよね?そこに彼女を住ませてあげられないかしら?」
2人は互いに見合わせ、少し戸惑いはしたが、シスターがさらに一押しする。
「安心して!彼女は入信しましたよ!」
それを聞き、急に表情が変わり2人同時に笑顔で頷いた。
「あぁ!それなら、ぜひ!」
「腕のいい狩人なら戦力や防衛力に頼もしいな!」
どれだけ矢を射たれようと、入信したのなら仲間ということなのだ。
「よろしくな!」と2人がリベスと握手をした。
「助かるわ!こちらこそよろしく!」
シスターはその近くでニコリと微笑んでいた。
こうして、長い間葵を狙い続けた人物も明らかになり、ハッピーエンドを迎えた。
本人の知らないところで、だが。




