転職
置いてけぼりにされた葵は1人で街中を走ってシスターを探していたが、ついに見つからなかった。
大使館に帰る途中、ディンブラに出会う。
「葵くん!どうだった?シスターは見つかった?」
「いや・・・全然・・・」
そんな会話をしていると、教会の鐘が聞こえて来た。
「あれ?これって教会のじゃない?」
「そうだな・・・」
葵が嫌そうな顔をする。
「・・・僕が様子見て来ようか?」
「え!?いいの!?頼む!!」
めちゃくちゃ嬉しそうだった。
ディンブラが教会に着くと、全ては終わって解散し始めていた。
最後にジャトロファとソルガムがシスターともう1人を連れて出て来たので、そこに声をかける。
「こんにちは!」
その途端、一緒にいた女性がディンブラを見て驚いていた。
「あら、ディンブラ!」
シスターが挨拶を返す。
「あの・・・葵くんからシスターが矢を射ってきた方を追いかけに行ったと聞いたので心配で見に来ました」
一気に気まずそうにする女性を不思議そうに見る。
「ご心配ありがとうございます。私なら大丈夫ですよ!あと、葵さまにもお伝えください。彼女、リベスはこの教会の元、更生させました!」
「へぇ〜・・・」と言いながら、ゆっくりと気まずそうなリベスを見る。
「もしかして、入信・・・」
「ええ、もちろん!なのでご安心ください!!」
シスターは実にいい顔をしていた。
「って、言ってたよ」
大使館に帰ったディンブラは早速話していた。
「いや・・・はぁ!?」
やはり葵は納得いっていない様子。
「入信!?はぁ!?何でだよ!!俺の命を狙ってた奴が入信如きで厚生するか!!この近所に拠点まで得たんだ!また近い内に狙撃しに来るだろ!!」
「大丈夫だよ。ジャトロファとソルガムもいるし」
ディンブラに詰め寄る。
「あのな!ジャトロファとソルガムがいたって、あいつ自身の心境が変わらなければ人は何度でも同じ過ちを犯すんだよ!!」
「う〜ん・・・そう言われても・・・。あ、でもさ、あそこの教会って葵くん祀ってるから、葵くんのこと崇めだしたら神に狙撃なんてとてもできないでしょ!!」
ディンブラの苦し紛れの言い訳にまたイラつきを募らせる。
「適当なこと言うな!」
葵に睨まれて気まずそうに視線を逸らせた。
しかし、それ以降本当に葵を狙撃しには来なくなった。
「来ないね。本当に更生したのかも?」
「うーん・・・」
葵も呆気ない幕引きに驚きを隠せない。
それじゃあ、一体彼女に何があったのか?
どう更生したというのか?
それはシスターだけの力ではなかった。
シスターはあくまで葵を祀る教会、または団体を紹介しただけの仲介人である。
その後、関わりが深かったのは意外にも女性信者たち。
彼女たちが「葵さまとは」と渾々(こんこん)と説き続けた結果、葵は独占してはいけない、狙撃なんてもってのほかであると脳内に刻みつけられた。
そして、旅の道中の話を聞かれる。
「葵さまが地元に現れて・・・」というと、他の信者が「リベス、葵さまは現れるんじゃなくて、”ご降臨された”よ?」と一々訂正が入る。
正直、側から見ればうざい。
だが、リベスも素直に受け入れる。
「あ!そっか!」
そしてみんなで笑う。
「それで?葵さまは旅中はどんな感じだったの?」
「えーっと・・・すごく視線とかに敏感で、追跡も追い詰め方もすごくって・・・とにかく攻めの姿勢が人間離れしていたわ!!」
あくまで狩人としての話をしているのだが、何故か盛り上がる聴衆。
「きゃー!”攻め”だって!!」
みんなで目を見合わせて嬉しそうにする。
「ねぇねぇ、この前教会に来てた中性的なイケメンって葵さまとどういう関係なの?」
「中性的な?・・・ああ!あの人はディンブラって言って、葵さまと一緒に旅をしているの!私も初めは女子だと思ったから間違えて射っちゃった!」
頭に手を当てて舌を出し「てへっ!」くらいのことを言ってるが、殺人未遂である。
だが、事実の恐ろしさに反して、周りは盛り上がる。
「きゃー!やっぱり女子に見えるわよね!!」
「うんうん!なんかかわいい顔してるものー!!」
「並んでるとお似合いよねー!!」
言葉の一つ一つが気になり傾げる。
「お似合い?・・・あ、でも、大陸間を船での移動中に女子だと思ってたから、2人きりで早々に部屋に籠もって出てこなかった時は正直やきもちやいちゃった!!」
「えー?女子そっちのけで2人きり〜?」
「しかも長時間?」
「一体その中では何されてたのかしらねー?」
みんなの反応に少し違和感を感じ始める。
「何って・・・たぶん休憩?寝たり?」とか言っていたが、言い返される。
「休憩や寝方にも色々あるでしょ!」
「色々って?横になるくらいじゃ・・・」
そこでリベスが東の大陸の片田舎から出て来たことをみんなが思い出す。
「あ!そっか、そっか!リベスはこういうの知らないんだ!!」
「あ〜、なるほどね〜!」
「じゃあ、こっちおいで!秘蔵書見せてあげるわ!」
背を押されて促される。
「ひ、秘蔵書って?」
「いいからおいで!」
わけもわからずついて行く。
そして様々な信者仲間から薄い本を渡された。
その表紙には葵がモデルと思わしきイラストが描かれている。
「・・・これは?」
「まあ、見て!」
とりあえず読み進めると、意外にもハマってしまった。
「な、何これ!!葵さまって・・・無限の可能性を感じる!!」
「そうでしょそうでしょ!!」
「教会で葵さまの写真を見た瞬間から創作意欲が爆発したのよ!」
「今ではアイデアが湯水の如く湧いて出るわ!!」
リベズは興奮のあまり言葉を失うだけでなく、頬を赤くしてしまいには鼻血を吹いた。
信者のお姉さんが優しくティッシュを差し出してくれる。
それを鼻に詰めて借りた本を夢中になって読んでいたという。
なので葵に構ってる暇などなかった。
こうして、信者によってリベスは狩人から作家へと転職に成功した。
推し活ってすごい。




