29 気持ちの問題
「リリー様、時計の希望はございますか?」
部屋に戻るなりお茶の用意をしていたヨーコに聞かれた。
あれ、そういえばヨーコが普通に話している。何の変化だろう?
「部屋時計と懐中時計が有ると嬉しいですが、懐中時計は私がお給料を貰えてからで構いません」
「双方、備品として支給されます。腕時計でなくてよろしいのですか?」
「はい。腕時計より、懐中時計が良いです」
「部屋時計は、置時計と掛け時計、どちらがよろしいですか?」
「この部屋に掛け時計、寝室に置時計が欲しいです」
「かしこまりました」
ヨーコは退室し、一人になった。
さっとシャワーを浴びて寝巻きに着替え、ガウンを羽織ってヨーコが置いていったお茶を飲んだ。
少し冷めたハーブティーだった。
何のお茶だろう?
微かに林檎に似た香りと独特の甘味、カモミールとステビアかしら。
まだ21時前だろうに、今日も疲れたのか眠くなった。
とりあえずベッドに行こう。
10歳位だから眠いのかな・・・
考えの途中で眠ったようで、目覚ましで起きたら自宅だった。
昨日早く寝たはずなのに眠い。
・・・あ!早く寝たのはあちらの世界で、こっちでは・・・どうだったっけ?
たしか、散らし寿司を食べて、早くに布団に入ったけど色々考え事をしていた気がする。
少し寝ぼけた頭を、顔を洗ってリセットする。
「母さんおはよう」
「あ、おはよう」
息子が起きてきた。
「秀明、何でこんなに早くから起きてるの?」
「え?平日だし?」
「あれ?今日は・・・金曜日か!」
「ちょっと大丈夫?」
「あはは」
あちらの世界の日数が加算されてた。
土曜日と思い込んでいてまだ朝食を用意していないや。
「ごめん。納豆とレンジご飯で良い?」
「別に構わないけど、寝坊したの?」
「寝坊はしてないんだけど、寝ぼけてた」
「それはどう違うの?」
「気持ちの問題」
息子は笑いながらもご飯をレンジで温めていた。
私は冷蔵庫から納豆と常備菜を適当にだした。
「いただきます」
「いただきます」
「最近夢見はどう?」
「え、あー相変わらず見てるよ」
「それは前に言っていた異世界風の?」
「あ、うん。それ」
息子は何か考えているようで黙ってしまった。
しばらく黙って食べていた息子が、
「前に言った日記、あれつけてるの?」
「夢の日記なら書いてるよ」
「それ、読んでも良い?」
「人に読ませる文じゃないけど読みたいなら良いよ」
「わかった」
息子は考え込んだまま、いってきますも言い忘れて出掛けていった。
パタンと扉が閉じた音で息子が出掛けたことに気づき、振り返ると息子がつけっぱなしにしたテレビから流れる天気予報が雨を伝えていた。
午後から雨なのね。
テレビを消し、出勤の用意をした。
私の仕事は9:00~15:00の5時間勤務。
途中1時間ほど休憩がある。
可もなく不可もない職場、つまり良い職場なのかもしれない。
でも、やる気もあまりでない。
頑張って出勤しますか。
自分に気合いをいれ、家を出た。




