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「……はぁ。それで、どんな話? あんなトーンで話すって事は、それなりの事情があるのよね?」
しばらくして、有希がやってきた。そして、なんでこんな話をしてる時に酒を飲んでるのかとひとしきり叱られた後、ようやく話を聞いてくれるようになった。俺は、黙って勇人の目を見て促した。
「あー……その……夜の話なんだが」
言い出しづらそうに勇人は口を開いた。
「……なるほど」
状況をある程度察したのか不機嫌そうに眉を吊り上げながら有希は答えた。勇人は事情を簡単に話しため息をついた。
「でもよ……杏南はその……いざ行為に移ろうとすると怖がるんだ。当然、あんな事があったから仕方のねえ事なんだけどさ。それでその……困ってて。でも、男の俺らだけじゃ分からねえことも多いしさ、谷本の手伝いが欲しくて」
すごく辛そうな様子で勇人は話した。この様子で事態の深刻さを有希も理解したようで。
「うん……じゃあ、詳しく聞かせてくれる?」
静かに先を促した。
「……分かった。あー、その。これから言う事は、他言無用で頼む。俺自身は知られても仕方ないんだが、杏南の気持ちもあるし」
気まずそうに勇人は言った。
「当然でしょうよ。アンタ、私をなんだと思ってるの? 親友のそんな事情、誰かにバラすワケなんかないじゃない」
ため息をついて有希は言った。
「ありがとう。その、結婚当日の夜のことなんだけど──」
◇◆◇◆◇◆◇◆
「はぁ……なるほどね。いや、事情は分かったわ。確かに、あんな体験をしたんだもの。そうなっても、おかしくない状況ではあるわ。アンタらの言う通り、これは私呼んで正解よ。無理にしたら、あの子しばらく怖がって誰も近寄らせないかもしれないもの。でもなー、どう伝えたものやら……まあ、とりあえず今日は解散しましょ。私らはいいけど、勇人アンタ、ちゃんと連絡入れたの? 杏南心配してると思うわよ」
腕を組んで有希は言った。
「一応、泊まりになるかもしれないって伝えてあるけど……」
言いながら、勇人は心配そうな様子を見せた。
「帰ってやんなよ。あの子、口にはあまり出さないけど、滅茶苦茶寂しがり屋だから。心細いと思う」
静かに有希は言った。
「……うん、知ってる。二人とも、助かったよ。ホントごめん、こんな遅くまで」
勇人は頭を下げた。
「気にすんなって」
これくらい、迷惑ともなんとも思わない。
「ま、男の馬鹿話だったらどうしてやろうかと思ったけど……杏南絡みじゃ断れないわよね。サッサと帰りましょ。私、明日も仕事なのよね……」
あくびをしながら有希は部屋を出た。
「えーと、伝票、これか。値段……これいくらになるんだ?」
伝票を手に取って眺める勇人。
「知らねえよ。お前引っ張るのに必死で、料金表なんか見てねえし」
と、ここで都合の悪い事実に思い当たった。
「あー、悪い勇人、金貸してくれねえかな……俺、一軒目で殆ど金使っちまって」
うっすい財布の事を思い出して頭を下げた。
「一軒目……あ! お前、あそこの支払いどうしたんだ? 払ってくれたのか? いくらだった?」
払っていないことを思い出したようで、財布を取り出して見せる勇人。
「あーっと……」
一万、と言いかけたが殆ど飲み食いしてないあそこの店でそんな額になるわけもなく。勇人がそんな風に考えるとは思わないが、知らなかったのをいいことに数字を嵩増ししていると思われたく無くて、
「せ、千いくら、だったカナー……五百円でいいぜ」
つい、逆嵩増しをしてしまった。
「いや、全部出すよ。……って、え? お前そんなに金無いのか……? だ、大丈夫なのか……?」
親友の心配そうな視線を見て、やらかした事に気づいた。確かに、こうなると俺はカラオケ代+千円すら持ってない金欠人間ということになる。いや、実際度合いは多少マシとは言え金欠に違いはないのだが。
「あー、その……前の職場辞めて今バイト探してるトコなんだワ……すまねえけど、ここの代金だけ、貸してくれ……」
親友の哀れみの目に、内心涙目になりながら頭を下げた。
「いや、俺の都合で呼び出したのに金出せなんて言えねえって。ここは俺払うからさ、その、頑張ってバイト、探せよ」
「えーっ、いやー、あー……」
死ぬ程葛藤した。実際、ここの支払いしてくれるのはありがたい。ありがたいんだが……なんだか申し訳ないのと、悲しいくらいに小さくなってしまったプライドが邪魔をする。俺が迷っていると、
「ちょっと何やってんの? 早く帰りたいんだけど」
有希がやってきた。
「有希さんお金貸してください! ここの支払いできないッス!」
ギリギリ土下座にならないラインまで腰を低くしたお辞儀で頼み込んだ。
「は、はぁ!? またぁ!? 仕方ないから貸すけどアンタ、早く次の仕事見つけなさいよね……」
有希の呆れた声色にプライドが削られていくのを感じながらお金を借りた。後日、勇人からプロレス関連のバイトの斡旋を受けた。泣いた。




