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観客として行ったので、当然二人より先に家に着いた私たちは、家で料理を用意しながら二人を待った。
「もう、ソワソワし過ぎよ? 嬉しいのは分かるけど」
料理が完成して、後は待つだけとなってから、私はしきりに玄関の方を見てしまっていた。そんな私を見かねて、お母さんが笑って言った。
「だって……やっとだよ? ようやくなんだもん。落ち着かないし、嬉しくもなるよ……」
緩む頬を隠しもしないで、私は答えた。本当に、嬉しい。早く、二人とも帰ってこないかな……
期待して玄関の方を見ていると、足音と話し声、そして鍵を開ける音が聞こえてきた。
「ゆー君!」
待ちきれなくて、玄関の方に駆け出した。玄関が開いて、ゆー君の姿が見えると、私はゆー君の胸に飛び込んだ。
「ゆー君、お疲れ様! すごく、すっごく嬉しい! ありがと、ありがとね……」
思わず溢れた嬉し涙が、頬を伝った。
「うん、声援ありがとう。杏南のお陰で勝てたよ。だからこれは、二人の勝利だ」
ゆー君は満面の笑みで言って、私の涙を拭った。
「じゃあ……」
「ああ。結婚、してください」
エンゲージリングを差し出してゆー君は言った。
「は、はい……」
号泣しそうになるのを我慢して、指輪を受け取った。指輪にはガラスのようなものが嵌め込んであり、その奥には可憐な花が埋め込まれていた。
「これ……本物の花?」
「うん。バーベナの押し花を入れた特注品だ。レジンじゃなくて、絶対に傷がつかない特別なガラスで密封してあるから、何十年経っても絶対に色褪せないし、曇らない」
「そんなの、どうやって……」
「色んな宝石を見たけど、杏南に贈るなら絶対にこういうのがいいって思って、職人さんに無理言って作ってもらったんだ。花言葉は『家族の結びつき』と『絆』。……俺と、本当の家族になってください」
「はい……!」
「あー……幸せそうなところ悪いがな。俺もいるぞ……」
居心地が悪そうに後ろにいたお父さんが言った。
「お父さんは負けたんだから水差さないでよね! 大人しくお母さんに慰められてて!」
私がわざと強めに言うと、
「くそう……ナターリアぁ……俺の、俺の杏南が冷たい……遠くに行っちまったよぉ……」
肩を落として、トボトボとお母さんの下へ歩いて行った。
「はいはい、お疲れ様。でも、仕方ないのよ? 愛の力は、偉大なんだから。それに、もうあなたのなんかじゃないですよ? ユート君のなんですもの」
お父さんの胸板をポンポンと叩き、慰めるように頬を撫でながらお母さんは言った。
「ナターリアまでそんな事言うのかよー!」
頭を抱えて言うお父さん。
「はは、師匠のあんな姿、初めて見た」
私を抱き寄せながら、ゆー君は笑って言った。
「結構家じゃ、あんな感じだよ?」
外では見せないけど、実はちょっと情けなかったりするのだ。
「そうなんだ、意外。俺の前ではいつも鬼教官だからさ」
柔らかく笑ってゆー君は言った。本当に良かった。幸せな気持ちでいっぱいだ。
「さあ、二人も座って! ご飯にしましょう!」
お母さんが席に座るように促した。
「はーい! ゆー君、行こ? 頑張ってとびきり美味しいの、作ったから!」
ゆー君の手を引いて、食卓へ向かった。ゆー君を椅子に座らせた後、お母さんと一緒に用意していた料理を盛り付けて、食卓へ運んだ。
「おお、ウマそう! いやあ、これから毎日こんな料理が食べられるなんて、夢みたいだ」
ゆー君が心底幸せそうに言った。
「はっ、俺は昔から食べてたけどな! どうだ、羨ましいか!」
拗ねたようにお父さんは言った。ホント、変な所子供っぽいんだから。
「もう、張り合わないの。冷めないうちに食べましょう? さあ皆、手を合わせて?」
お母さんの声で皆で手を合わせて、いただきますをした。
「なんだこれ、うまっ! 料理、更に上達した?」
一口食べて、ゆー君が驚いたように言った。
「うん! 愛情込めて、作りました!」
少しゆー君の方に体を寄せながら言った。
「ったく、親父の前で堂々とイチャつきやがって……次の練習の時、コイツだけメニュー倍にしてやろうかな……」
不機嫌そうに料理を頬張るお父さんをお母さんは微笑ましく見守った。
「それは職権乱用ってヤツじゃないですか師匠!? 流石に死にますよ!?」
慌てたようにゆー君は言った。ラグビー部の時は、どんなにキツい練習でも弱音一つ吐かなかったゆー君がこんな風に言う辺り、相当キツいんだろう。
「そうだよお父さん! ゆー君いじめちゃダメ!」
頬を膨らませてお父さんに言った。
「ぐう……そうだな、杏南が昔みたいにパパって呼んでくれたら……考え直してもいいかな……」
この期に及んで情けないことを言い始めるお父さん。
「え、ええー……それは、恥ずかしいなあ……」
もう立派な大人だというのに、これから結婚する人の前で父親をパパなんて呼ぶのは、流石に恥ずかしい。
「……アンナ。お父さんの我儘もこれで最後だから、言ってあげて?」
しばらく黙っていたお母さんが味方をした。
「もう、しょうがないなあ……パパ、これからも頑張って、ね?」
仕方ないので、呼んであげた。やっぱり、結構恥ずかしい。
「うう……ありがとう……ありがとう杏南ー! 愛してるぞー!」
お父さんは今度は男泣きし始めた。その背中をお母さんが優しく撫でていた。
……まあ、今までのことを考えたら、よくもった方か。
「……もう。ホント、こういう時はいつも泣き虫なんだから。いいの? 弟子の前だよ?」
苦笑いするゆー君をチラリと見ながら言った。
「し、仕方ないだろ! 娘が嫁に行っちゃうんだぞ! 今泣かないで、いつ泣くんだ!」
開き直って大泣きするお父さん。
「……はぁ。なあ、山田……いや、勇人君」
しばらく泣いて落ち着いてから、真剣な声でお父さんはゆー君に声をかけた。
「は、はい!」
ピンと背筋を伸ばして、緊張した声色でゆー君は答えた。
「杏南の事を、よろしく頼む。幸せにして、やってくれ」
すごく、真剣な顔で言った。それは今まで見たどんな顔よりも、真剣な顔で。
「はい、もちろんです。杏南の幸せを一番に考えて、杏南のためならなんでもします。そのためなら、命だって賭けます。杏南を幸せにすると、誓います」
勇人は、一つの迷いもなく、正面からお父さんを見据えて言い切った。
「勇人……」
勇人が私の事をとても大切にしてくれているのは知っていたけど、こんなにハッキリ言葉にしてもらったのは初めてで。思わず涙が溢れてきた。




