↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悲劇のゾールシカ ※ただし王子さまは常に隣に  作者: 角 秋也


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
11/23

11

 試合当日。私とお母さんは関係者席でゆー君の勝負を見るべく待機していた。

 しばらくすると選手入場口からシンプルな黒パンツのゆー君が入場した。やや遅れて相手選手の入場口から煙が上がり、緑髪の襟足だけが長いヘアスタイルの篠原さんが入場してきた。彼は棘付き肩パッドのついたマントを纏っており、煙の演出も相まって、新人であるゆー君との歴然とした格の違いを見せつけていた。

 試合のゴングが鳴るより前。篠原さんはゆー君に握手を求めた。ゆー君がそれに応じようと手を伸ばすと、彼はゆー君の下腹部を蹴り上げた。ゆー君の表情が苦痛に染まると同時に、焦ったようなタイミングのゴングが鳴った。

 篠原さんは下腹部を押さえてうずくまるゆー君の髪を無造作に掴むと、そのままズルズルとリングの端へ引きずっていく。そして、一番上と真ん中のロープの間にゆー君の頭を押し込み、背中を容赦なく蹴り飛ばした。

「ああっ!」

 無防備な状態のゆー君が、リングから押し出される。

 ドスッ、という鈍く重い音が会場に響いた。1メートルほどの高さから、100キロを超えるゆー君の巨体が場外の薄いマットへと叩きつけられた音だ。

 関係者席で見ている私のすぐ数メートル先。ゆー君が苦悶の表情で床に転がっている。

「ゆー君!」

 私が叫んで立ち上がろうとした瞬間、篠原さんがリングから降りてきた。彼は倒れているゆー君の首根っこを掴んで無理やり引き起こすと、観客席を仕切る鉄柵へと勢いよく投げ飛ばした。

 ガシャーンッ!

 冷たい鉄の柵にゆー君の背中が激突し、凄まじい金属音が耳をつんざく。観客から悲鳴に近いどよめきが上がった。

「はっ! 大型新人らしいが、大したことねぇな!」

 篠原さんは悪びれるどころか、鉄柵にもたれてうなだれるゆー君の顔面を、革靴の底でグリグリと踏みつけ始めた。

 しかしゆー君は篠原さんをキッと睨みつけた。闘志は失われていないようで安心する。

「まだまだ元気らしいな。これはどうだ?」

 篠原さんはコーナーポストのクッションを外し、ゆー君の髪を掴んだ。そして剥き出しの鉄柱にゆー君の頭をぶつけ始めた。

「やめてっ!」

 思わず懇願するような声が出てしまった。しかし当然私の声なんかで試合の流れが変わるはずもなく。気づけばゆー君の額からは血が流れ始めていた。

 まだまだ叩きつける篠原さんだったが、レフェリーの声で手を離した。

「すまんな、つい。気を付けるよ」

 そう言いつつ篠原さんはブーツから何やら取り出した。何度も頭を鉄柱にぶつけられてグロッキー状態なゆー君をリングに戻すと、取り出した紐でゆー君の首を締め上げ始めた。レフェリーが反則のカウントを取り始める。ゆー君の顔が赤紫色に染まる。私は恋人の命の危機で目眩までしてきた。

 レフェリーのカウントが4に達したとき、篠原さんはようやく手を離した。

「あー、コレ反則? そう。次から気を付ける」

 篠原さんは悪びれもせずに両手を広げて舌を出した。極悪レスラーというのは本当らしい。

「さてと、仕上げだ」

 篠原さんはなんとか立ち上がったゆー君をボディスラムで投げ、その右腕を乱暴に掴んだ。

「おや、こんなところに派手な縫い跡があるじゃねぇか。これは……古傷かなぁ!?」

 高笑いしながら篠原さんはゆー君の腕を捻り上げ、さらに容赦なく踏み続ける。ゆー君は今までのダメージと古傷への攻撃で身動きが取れないでいる。

 そこは……あの日、私を守るためにゆー君が負ってしまった傷だ。私にとっては何より大切な、勇人の優しさの証明。それをあんな風に、汚く痛めつけるなんて。

「ゆー君  負けないで!!」

 私は無我夢中で叫んだ。

 その声が届いた瞬間――ゆー君の目の色がはっきりと変わった。

 ゆー君は今までのダメージなど無いかのように勢いよく立ち上がり、篠原さんの手を強引に振りほどき頭突きをかました。篠原さんは痛みと衝撃で怯んだ。その隙をついてゆー君は篠原さんをコーナーへ振った。彼は背中からコーナーにもたれる形となった。

 篠原さんが立ち直る頃、ゆー君はクラウチングスタートのような姿勢を取った。ラグビー部時代、何度も見たタックルの準備態勢だ。

 篠原さんがコーナーから移動する間を与えず、ゆー君は前へ飛び出した。この瞬間加速度はきっと誰にも真似できないだろう。

 ゆー君はそのまま篠原さんの腹部に頭突きをした。彼は強大な衝撃で膝から崩れ落ちた。そのままゆー君は覆い被さるようにフォールを始めた。

 レフェリーが慌ててマットを叩く。

「ワン! ツー! スリー!」

 カンカンカンカンッ!

 割れんばかりの歓声の中、見事ゆー君はデビュー戦を勝利で飾った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。