↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
どうぞ、あなたが心を奪われたご令嬢とともにお行きください。  作者: 木山楽斗


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
6/7

第6話 消えた庇護

 先代の国王様が亡くなったのは、私達が話してからすぐのことであった。

 彼は最期まで、ロサーヌ嬢のことを気にしていたらしい。親族ではない私はその死に目には、立ち入れなかったが、イルファー殿下からそう聞くことになった。


「お祖父様は、既に耄碌していた、ということなのだろう。最後には、ロサーヌ嬢を王家の一員として認めるように言い出した」

「……」

「当然、そのようなことを許すつもりはない。今更彼女を王家に入れるなどという選択はない。そうしたいのならば、もう少し早く行動を起こすべきだったといえる」


 先代の国王様の最期の願いは、聞き入られることもなさそうだ。

 イルファー殿下以外の王家の者達も、まず受け入れないだろう。既にロサーヌ嬢は、問題を起こし過ぎている。


「それにそもそも、彼女が本当に王家の血を引いているかも不明瞭なものだ。お祖父様がそう勘違いしているだけだったかもしれない」

「そういった可能性もあるものでしょうか?」

「そうなるということだ。王家としては、真実がどうあれ、ロサーヌ嬢など受け入れるつもりはない。父上も兄上も、そのつもりだ」


 先代の国王様が勘違いしている可能性も、あるのだろうか。仮にそれが真実だとしたら、彼は自らの娘ではない令嬢に入れ込んでいたことになる。

 それはなんとも、悲惨なものだ。何故ならば結果として、彼は実の家族に――


「……イルファー殿下、聞くべきではないかもしれませんが、先代の国王様は」

「シルフィア嬢、それはあなたが知るべきではないことだ。知った所で、どうにかなることでもない。何も変わりはしないのだ」


 私が疑問を投げかけてみると、イルファー殿下はゆっくりと首を横に振った。

 それが私には、肯定に思えた。ならばやはり、そういうことなのだろう。


 その判断が間違っているなどと、言うつもりはない。ただ少しだけ、悲しいと思うだけだ。

 イルファー殿下とて、きっと傷ついていることだろう。彼だってできることなら、そんなことはしたくなかったはずだ。だからこそ、話し合いの場を設けたのだろうし。


「イルファー殿下、どうか気を強くお持ちください。お祖父様のことは残念でしたが、あなたは前を向いていかなければなりません」

「シルフィア嬢、それは……いや、そうだな。確かにあなたの言う通りだ。俺は前に進まなければならない」


 私の言葉に、イルファー殿下は少し面食らったような顔をした。

 ただ彼は、すぐに意図を理解してくれたのだろう。ゆっくりと、そして力強く頷いてくれた。

 私は今、イルファー殿下のことを支えたいと思っている。第二王子として、前に進んでいく彼の助けになりたい。無性にそう思ってしまった。


「……まずは、ロサーヌ嬢とのことに決着をつけなければならないか」

「ええ、そうですね。何はともあれ、彼女を庇護する人はもういないのですから」

「行くとするか、シルフィア嬢」

「はい……」


 先代の国王様が亡くなり、ロサーヌ嬢は後ろ盾を失った。これでもう、彼女が余裕そうに笑みを浮かべるということもないだろう。

 マディウスに関しても、決着をつけなければならない。モルドン伯爵家に泥を塗り、さらにロサーヌ嬢に売った彼にも、鉄槌は下されなければならない。


◇◇◇


「これは、どういうことでしょうか?」

「どういうことかは、あなたが一番よくわかっているはずだ、ロサーヌ嬢」


 私とイルファー殿下は、またロサーヌ嬢とマディウスと対峙していた。

 ただ今度は、王城でだ。王家はロサーヌ嬢を正式に呼び出し、その立ち振る舞いに警告することを決めたのである。


「……先代の国王が身罷られたと聞きましたが、そのことでしょうか?」

「いや、何のことだ?」

「……イルファー殿下、あなたは聞いたのでしょう? あの人から事実を。私がどういう存在であるかということを」

「さて、何のことだか……」


 ロサーヌ嬢は、早速先代の国王様のことを持ち出してきた。

 彼女も、馬鹿という訳ではない。彼が亡くなったことで自分がどうなるのか、それは色々と考えてきたことだろう。

 しかしイルファー殿下は、ロサーヌ嬢に対して冷たい視線を返す。彼は決して、ロサーヌ嬢の主張など認めないということだろう。


「私は、あの人の娘です。つまり、現在の国王様の妹にあたる」

「なんですって?」

「だからマディウス、あなたもモルドン伯爵家から追放されなかったのよ? 私のお父様が取り計らってくれたの」

「そ、そうだったのか……」


 ロサーヌ嬢の言葉に、マディウスは目を丸めていた。

 彼は本当に、何も知らずにここまでやって来ていたようだ。それについても、私は少し呆れてしまう。

 マディウスは本当に、変わってしまった。ロサーヌ嬢に心酔した彼は、やはり私の知る彼ではないようだ。


「あなたが何を言っているのか、俺にはまったく持って理解することができない」

「イルファー殿下、何を言っているのですか? 前国王様はお認めになったのですよ? 私が娘だと彼は確かにそう言ったのです」

「何か証拠でもあるのか? 俺はお祖父様からそのようなことは聞いていない。そうだな、せめて文書などはないのか?」

「そ、それは……」


 イルファー殿下の指摘に、ロサーヌ嬢は視線をそらした。

 その動きからして、文書などは存在していないのだろう。それは、当然のことだといえる。

 先代の国王様は、ロサーヌ嬢のことを今までひた隠しにしてきた。文書にその事実を残すなんてことは、以ての外だろう。


「わ、私が先代の国王様と話したという記録はあるはずです。誰かが必ず、それを知っているはずです。秘密裏に、私は会っていたのですよ?」

「それはそうかもしれないな。しかし、お祖父さまはこの国のことを憂いておられた。大方、奔放なあなたを秘密裏に注意したというだけだろう。父上という国王がいる手前、公にしづらかったのかもしれない」

「ば、馬鹿げたことを……」

「馬鹿げたことを言っているのは、どちらだ? 先程からふざけたことを言って……」


 イルファー殿下は、ゆっくりと首を横に振った。

 それに、ロサーヌ嬢の表情が変わる。彼女もわかってきたのだろう。自分が今、どういう状況にあるのか。


「王家を騙るなど、大罪であるぞ、ロサーヌ嬢?」

「くっ……」


 ロサーヌ嬢は、イルファー殿下の言葉に唸った。

 ここに来て、彼女は重大な失敗をしたといえる。証拠もなく王家の一員だと主張したこと、それはロサーヌ嬢を一気に追い詰めるものであった。


「どうした、ロサーヌ嬢? 顔色が悪いぞ?」

「そ、それは……」

「自らのした過ちに、やっと気付いたということか? しかし、遅すぎるな。先程の主張を今更取り下げた所で、何も変わりはしない」

「うっ……」


 ロサーヌ嬢は、項垂れていた。

 彼女にとって、自身が王家の一員であるという事実は切り札だっただろう。それを逆に突かれたことは、彼女にとっては意表を突かれたということなのかもしれない。

 しかし、彼女はすぐに前を向いた。イルファー殿下を睨みつけるその形相からは、諦めないという意思が伝わってくる。


「このことを公表します。私が先代の国王様の娘であると大々的に発表すれば、情勢は変わります」

「そう思うならば、やってみればいい。だがあなたは、もう少し自分客観的に見た方がいい。社交界を悪い意味で賑わせているあなたの言葉を、誰が信じる?」

「なっ! わ、私は……」


 ロサーヌ嬢の勢いは、すぐに収まった。イルファー殿下の指摘が、また突き刺さったからだろう。

 社交界において、ロサーヌ嬢の信頼というものは低い。彼女を疎ましく思っている者の方が、基本的には多いのである。


 故にロサーヌ嬢が、自らが王家の血を引くと主張しても、賛同する者はいないだろう。

 もちろん、先代の国王様本人が主張するならば、話は別である。だが、その本人はもういない。つまり、ロサーヌ嬢の主張はかなり通りにくいのだ。


「当然、まだふざけた主張を続けるというならば、それなりの罰も覚悟してもらうことになる。それでも主張するつもりか?」

「くっ……」


 ロサーヌ嬢の額からは、汗が流れていた。

 彼女は迷っているようだ。自らが王家の一員であると主張するかどうかを。


 仮に主張が通れば、逆転することができる。しかし通らなければ、今よりももっと悲惨な末路が待っている。

 それをロサーヌ嬢は、天秤にかけているのだろう。それは、どちらに傾くものだろうか。

 ただ、どちらに傾こうとも、イルファー殿下は意に介さないのかもしれない。どうなろうとも、彼ならばロサーヌ嬢を追い詰めるだろう。


「ロサーヌ、しっかりするんだ。まだ、僕達は負けていないはずだろう」

「……」


 そんなロサーヌ嬢に、マディウスが励ましの言葉をかけた。

 彼は、状況を本当に理解しているのだろうか。その選択がどれ程茨の道となるのか、マディウスがわかっているようには、あまり思えない。


 私のその気持ちは、ロサーヌ嬢と同じであったようだ。彼女は、鋭い視線をマディウスに対して向けている。

 どうやらマディウスの言葉は、逆効果であったようだ。ロサーヌ嬢は、激情を抱いている。イルファー殿下にはぶつけることができない怒りが、マディウスに向いたようだ。


「ロサーヌ? どうしたんだい?」

「……」

「ロサーヌ……」


 ロサーヌ嬢の鋭い視線に、マディウスは怯んでいた。

 ロサーヌ嬢の気迫は、中々のものだ。流石のマディウスも、彼女の怒りが自分に向けられていることに気付いたのだろう。


「マディウス、あなたなんと言ったの?」

「いや、負けてないと……」

「負けていないですって? ふざけないで頂戴! マディウス、あなたは何もわかっていないのね? それとも、無関係のつもりなのかしら?」

「ロサーヌ、僕は……」


 ロサーヌ嬢は、マディウスに詰め寄っていた。

 イルファー殿下には、最早敵わないと彼女は悟っているのだろう。自らの負けを認めざるを得ない状況でのマディウスの発言だ。それにかなり、怒っているらしい。

 追い込まれた怒りをぶつけられる者が、他にいないということも大きいのだろうか。ロサーヌ嬢はマディウスに対して、激しい憎悪を向けていた。


「私達は、負けたのよ? ここにいるこの二人に……敗北したのよ! もう負けを認めざるを得ないわ! 私は牢屋の中よ? これ以上反抗してみなさい。どうなることか……」

「うぐっ……」

「役立たずのあなたに、何がわかるというのかしら? 結局の所、あなたは足を引っ張っていただけじゃない。私のために何一つとしてしていないあなたが……」

「なっ……!」


 ロサーヌ嬢は、マディウスのことを罵っていた。

 それは怒りに任せた暴論とも言えるが、実際の所マディウスは特に何もしていない。


 彼がやったことといえば、イルファー殿下に付け入る隙を作ったというだけだ。それは言うまでもなくに、ロサーヌ嬢に利することではない。

 マディウスという大きな荷物を抱えたことが、ロサーヌ嬢の失敗だといえるのかもしれない。

 とはいえ、それは自業自得だ。彼女はマディウスを受け入れたのだから。


「ロサーヌ、僕は……」

「軽々しく、私の名前を呼ばないで頂戴。この私を誰だと思っているの? くっ……私は、私は……」

「ロサーヌ……」


 ロサーヌ嬢は、マディウスの胸倉を掴んで呻いていた。

 先代の王の娘であるという事実に、彼女は縋ろうとしていた。しかし、それはもう許されない。これ以上その主張を続ければ、イルファー殿下も容赦しないだろう。

 やがて、ロサーヌ嬢はマディウスを離して、力なく椅子にもたれかかった。逆らう気力さえなくなったということなのだろう。


「……誰かいるか?」

「はっ、イルファー殿下……」

「ロサーヌ嬢を連れて行け。王家の血筋を騙る逆賊だ。牢屋に繋いでおけ」

「了解しました。ほら、行くぞ……」


 イルファー殿下の声に、兵士の一人が反応した。

 事前に手配されていたのだろうか。彼は素早くロサーヌ嬢に声をかけ、彼女を連れて行く。

 彼女が社交界で浮名を流すことは、もうないだろう。ロサーヌ嬢は少なくともしばらくの間――あるいは一生、冷たい牢屋の中で過ごすことになるのだから。

最後までお読みいただきありがとうございます。


よろしかったら、下にある☆☆☆☆☆から応援をお願い致します。


ブックマークもしていただけるととても嬉しいです。


よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。