バザー
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楽しんでいただけると幸いです。
バザーになると由香子の不満はもっと大きくなった。
アグネス夫人はクレアを紹介し、話し込んでいて自分を無視するし、クレアは刺繍が褒められて嬉しそうに礼を言っていた。
誰もこちらを見やしない。生前、自分から話しかけることが苦手だった由香子は生前と同じ状況に苛立ち、座り込んで機嫌悪そうに茶を飲んでいた。
そこに貴婦人が何人かやってきて由香子の方を見てヒソヒソ話していた。
「あの方よ。ファウラー家に嫁いだくせに侯爵夫人を狙う女狐」
「まあ、どうりで」
「次男のコンラッド様の妻ならわきまえればよろしいのに」
彼女たちの会話に由香子は顔を赤くした。涙目で震えていると後ろから「大丈夫ですか?」という声がして振り返った。アルドリッジ公爵家のバージルがそこにいた。
茶色の髪に碧い眼を持つ彼は端正な顔立ちで由香子を心配していた。由香子はついにチャンスがやってきたと喜んだ。
「い、いえ、なんでもございませんの...その、ご心配ありがとう」
「ならよいのですが、泣いていたようでしたので」
「そんなこと...」
由香子はここが泣くチャンスだと思ったがそこで邪魔が入った。コンラッドがやってきたのだ。
「これはバージル殿、こんにちは。うちの妻になにかありましたか?」
「ああ、彼女が君の...いや、なんだか気分が悪そうだったものでね」
「そうなのか?大丈夫か?ローレッタ?」
コンラッドは心配そうに由香子の方を見た。由香子は喜んだ。夢見た光景が今ここにある。2人の美形の男に心配される私、という構図に由香子は酔っていた。
「いえ、大丈夫ですわ。ちょっと気分が悪くて座っていただけですの」
「そうなのか?気分が優れなかったら言えよ?家まで送ろう」
「い、いえ、大丈夫!」
ここで帰ったらバージルとクレアが仲良くなってしまうと思った由香子は慌てて首を振った。コンラッドはバージルに近づき、耳元で囁いた。
「あれがローレッタに取り憑いている悪霊だ。卑屈な物言いと仕草を覚えてくれ」
「ああ分かってる。ーークレア嬢にはもう挨拶した。今度デートをするよ。文通は偽名で」
「頼んだ。早いところあいつを追い出さないと。まったくローレッタが恋しい」
「そんなに好きだったか?」
「最近はな」
コンラッドはバージルと握手すると由香子の方に向き直り、「さあ、君は気分が悪いんだろう?早く帰りなさい」と馬車のところまで連れていった。彼は精一杯努力して寂しそうな顔をして言った。
「私は社交仲間がいるから一緒に帰れないんだ。悪いが1人で帰って、部屋で寝ててくれ。食事も運ばせる。ではね、ローレッタ」
「あ、あの、」
「なんだい?」
「ありがとう、コンラッド」
彼女の卑屈な笑顔に怖気立ちながらもコンラッドは笑顔で悪霊に手を振った。馬車が見えなくなるとようやく彼は大きく息を吐いた。辛い、あまりにも辛い。
そこにアレクシスとファウラー卿がやってきて「よくやった」と褒めた。
「兄さん、父上、辛いにも程があります」
「うむ...やはりクレアの件は毒を盛るか。それをローレッタのせいにして部屋に監禁してしまおう。一気にことを進めるぞ。教会から聖水もエクソシストの派遣も了解を得たしな」
「そうしてください。もう吐きそうだ」
「大丈夫かコンラッド?」
アレクシスがコンラッドの背中を撫でて「あと少しだがんばろう」と言った。コンラッドはなんとか頷き、監禁中に悪霊へ甘い言葉を書いた手紙でも出すかと考えた。こっちのほうがまだやりやすい。
セシル殿下にも相談し、第3関門、クレアの危険に皆は備えた。




