もう腹を括るしかない
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楽しんでいただけると幸いです。
クレアとファウラー卿夫人のアグネスは首を傾げた。最近のローレッタの様子がおかしい。仕草や知識はローレッタだが、また人に好かれようと媚びを売り始め、夫のコンラッドにも媚びを売る。
これでは悪霊のようだと首を傾げていたが、なにかローレッタなりに考えたのだろうと2人は放っておくことにした。
それが決定的な違和感として現れたのは3人で刺繍をしていた時だった。ローレッタが絵が下手なことはクレアを通してアグネス夫人も知っていた。
それが刺繍用の布にローレッタは美しいバラを描いて刺繍していた。アグネスは知らないふりをしつつ、ローレッタに言った。
「あらローレッタ、とてもきれいなバラの花ね。いつからそんなに絵が上手くなったの?」
「フフ、練習しましたの。お義母様」
その時の媚びと褒められて当然というプライドの高そうな様子にアグネスは笑顔のまま椅子に戻り、用紙を取り出し、ペンで何かを書くと折りたたんでクレアに渡し、言った。
「これをアレクシスに渡しておいで、クレア。糸が足りなくなってきたからね」
「はい、お母様」
「あ、お義母様、それは私が...」
「いいのよ、あなたはこの家の次男の嫁でしょう?こういうのは娘にやらせないとね」
そういうとローレッタは満足そうな笑顔を向けて「わかりました」と椅子に座り直した。クレアは紙を持って部屋を出、アレクシスの元に向かった。
そして書斎にいたアレクシスに「お母様からよ」と紙を渡し、戻ろうとしたところでアレクシスが「クレア」と呼び止めたのでクレアは振り返った。
アレクシスは片手で髪を掴みながら歯を食いしばっている。どうしたことかとクレアも近づいて紙を見るとこう書かれていた。
『ローレッタが悪霊に完全に取り憑かれた。早急な対処を。 アグネス・ファウラー』
クレアは驚き、口元に手を当て、アレクシスはガタリと椅子から立ち上がり、部屋を歩き回った。顎に拳を当て、ブツブツと話しながら、どうするかを考えている。ローレッタが完全に取り憑かれた以上、下手な動きはできない。メイドや使用人を使ってまずは情報を共有し、悪霊を追い出す必要がある。アレクシスはクレアの方を見て言った。
「今日の刺繍はできるだけ長引かせてくれ。その間に私がコンラッドと父上に伝えてくる。もしかすれば屋敷中の人間に伝えねばならないかもしれない。それと君はセシル殿下に連絡を頼む」
「ええ、分かったわ。アレクシス」
「しばらくはアイツの好きなようにやらせてくれ。どうにか泳がせて対処しよう」
クソ、勝手なことをと頭を掻くアレクシスにクレアは1つ尋ねた。
「ねえアレクシス、あなた、ローレッタのことどう思ってる?」
「どうとは?」
「家族としてよ。どう思う?」
「ああ、最近は気に入っていた。ワガママには困るがあいつはそれなりに頭が良いしやると決めたら必ずやる女だ。先日の舞踏会や今までの悪霊への対処で分かった。そういうやつは我がファウラー家の夫人にふさわしい」
「このままだとローレッタは離婚されて修道院へ行くけど、それはどう思う?」
「物語上そうなっているのなら仕方ない。ーーだが、今の修道院が退会もできるものだと言及はされていないのだろう?修道院へ行くで終わりだと彼女は言った。離婚したが復縁することもできるとも彼女は言わなかった。完全にファウラー家に戻れはしないが別居くらいで済ませる、そういう終わり方に変えるのも可能ではないかと私は思う」
「なら安心だわ。ローレッタは性格はワガママだけど根はいい人よ。ちょっとくらい変えても大丈夫よね。ーーセシル殿下の補佐官になる程度なら」
「やはりそうだったか...まあ大丈夫だろうと思う。というより物語はともかく我々の立場ではセシル殿下は止められない。ーーこの物語の肝が分かればいいんだがな。作者が伝えたいことが分かれば対処もしやすい」
「そうね、それもそれとなく聞いてみるわ。ーーではねアレクシス」
「ああ、気を付けろよクレア」
そう言ってクレアは出て行き、アレクシスは早速セシル殿下に手紙を書き、届けさせた。第3関門もある。これはローレッタがいない以上、我々で遂行するしかない、とアレクシスは父の書斎に向かった。




