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小物冒険者の日常災害  作者: おこげ


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勇者の回6

翌朝。

空はやけに澄んでいて、腹が立った。

こういう日はだいたい、ろくなことが起きない。

経験則だ。畑で学んだ。

俺は宿の部屋で荷物をまとめていた。

といっても、大したものはない。

替えの服。

少しの保存食。

壊れかけの靴。

そして、いつの間にか増えていた「もらい物」。

誰かが勝手に置いていった干し肉。

誰かが勝手に置いていった護符。

誰かが勝手に置いていった「作戦に使えそうな地図」。

全部、要らない。

俺はそれらを一度眺めてから、全部置いていくことにした。

荷物は軽い方がいい。

逃げるときは特に。

階段を下りる途中で、話し声が聞こえた。

「参謀さん、今日はどの畑ですかね」

「いや、もう見張りは要らないんじゃないか?」

「でも参謀さんが立ってないと不安で」

知らん。

宿の扉を開けると、女将が待っていた。

腕を組んで、完全に「察している顔」だった。

「行くんだね」

「はい」

嘘をつく理由もない。

「参謀さん」

最後まで、その呼び方だった。

「この町、前はこんなに静かじゃなかったよ」

知っている。

俺が来る前から、ここは騒がしい町だった。

魔物が出た。

揉め事が起きた。

畑が荒れた。

だいたい全部、どうでもいい理由だった。

「でもね」

女将は続けた。

「最近は、みんな“最悪”を想像するようになった」

嫌な言い方だ。

「だから準備する。

 逃げ道を考える。

 畑を守る。

 無茶をしなくなった」

それ、俺のせいにするな。

「……俺は、怖がってただけです」

本音だった。

「それで助かるなら、立派だよ」

女将は笑った。

その笑顔が、いちばん厄介だった。

外に出ると、勇者がいた。

一人だった。

前と同じだ。

鎧は直してある。

剣も磨いてある。

でも、どこか疲れて見えた。

「行くんだ」

「行きます」

「止めない」

また即答。

「参謀」

やめろ。

「今回の魔物さ」

勇者は何でもないように言った。

「正面から突っ込んでたら、たぶん全滅してた」

違う。

「逃げろって言われたとき、正直、情けなかった」

やめろ。

「でも、生きてる」

勇者は剣を地面に突き立てた。

「それが一番だって、あとから分かった」

「王都から声が来てる」

聞きたくなかった言葉ランキング上位。

「でも断った」

今度は本当に驚いた。

「参謀がいないなら、俺はただの前衛だから」

ひどい自己評価だ。

「だからさ」

勇者は笑った。

「町にいなよ」

俺はしばらく黙っていた。

そして、どうでもいいことを聞いた。

「……畑は?」

「増えてる」

即答。

「でしょうね」

逃げ場がない。

結局、俺は町を出なかった。

勇者は旅立った。

拍手が起きた。

誰かが泣いた。

俺は端で立っていた。

数日後。

掲示板から、魔物討伐の依頼は消えた。

代わりに増えたのは――

【畑の見張り(南)】

【畑の見張り(北)】

【畑の見張り(増えた分)】

【倉庫の見張り(念のため)】

【橋の見張り(多分平気)】

「専門ですね」

受付嬢が言った。

「専門じゃない」

即答。

今日も俺は畑の横に立っている。

武器はない。

魔法もない。

作戦も立てていない。

カラスもどきが来る。

俺が睨む。

逃げる。

理由は分からない。

俺にも分からない。

子供が聞いてくる。

「参謀さんって、何者なの?」

俺は答える。

「何もしてない」

誰も信じない。

風が吹く。

作物が揺れる。

畑は無事だ。

今日も町は平和だった。

これは、

武器も魔法も持たず、

英雄になる気もなく、

ただ逃げ道ばかり考えていた男が、

最後まで何もしていないつもりのまま、

周囲だけを勝手に変えてしまった話。

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