勇者の回5
朝。
俺は人生で三番目くらいに最悪な目覚めを迎えていた。
理由は簡単だ。
今日は魔物討伐の作戦会議がある。
しかも、俺が「参謀」として呼ばれているやつだ。
なんでだよ。
昨日まで畑の肥料配合について語っていた男だぞ、俺は。
宿の一階に降りた瞬間、視線が突き刺さった。
いる。
全員いる。
勇者。
戦士。
魔術師。
僧侶。
ギルドの人。
町の偉い人。
なぜか新聞っぽい紙を持っている人。
多すぎる。
「おはようございます、参謀」
勇者が爽やかに挨拶してくる。
その笑顔をやめろ。
俺の胃が縮む。
会議室に押し込まれ、俺は椅子に座らされた。
机の上には地図。
赤い印。
矢印。
完全に戦争。
「では、参謀。今回の魔物について、どうお考えですか」
ギルド職員が言う。
全員が俺を見る。
いや、知らん。
俺は深く息を吸った。
ここだ。
ここで信用を失う。
「……正直に言います」
ざわっ。
やめろ、その反応。
「怖いです」
一瞬、時が止まった。
「魔物ですよね?
噛まれたら死にますよね?
剣とか魔法とか、当たったら痛いですよね?」
誰も反論しない。
「だから――」
俺は立ち上がった。
「行きたくありません」
どよめき。
よし。
「森には入りません。
近づきません。
見ません。
できれば存在しないものとして扱いたい」
完璧だ。
ダメだこいつ。
だが。
勇者が、腕を組んで唸った。
「なるほど……」
やめろ、考えるな。
「恐怖を基準に判断する。
無理をしない。
命を優先する……」
戦士が頷く。
「悪くない」
悪いよ!
「つまり参謀は」
魔術師が眼鏡を押し上げる。
「撤退ラインを最初に決める戦略家」
違う!!
「違います!!」
俺は机を叩いた。
「何も考えてません!
ただ嫌なだけです!」
だが、僧侶が静かに言った。
「自分の弱さを認めるのは、強さです」
やめて。
その結果。
会議は「参謀の意見を尊重する形」でまとまった。
内容はこうだ。
・無理に森に入らない
・町を固める
・民間人を避難させる
・戦闘は最後の手段
全部、俺の「怖い」が原因だ。
町は大騒ぎになった。
防壁が立ち、
鐘が鳴り、
人が走り回る。
俺は端っこで震えていた。
「参謀!」
町の人が駆け寄ってくる。
「ありがとうございます!
最悪を考えてくれて!」
いや、最悪しか考えてないだけだ。
夜。
俺は宿で頭を抱えていた。
「俺は……逃げたいだけなんだ……」
その時、外が騒がしくなった。
叫び声。
鐘。
来た。
「魔物だー!!」
終わった。
ギルド長が俺を見つける。
「参謀! 指示を!」
無理だ。
俺は叫んだ。
「全員、逃げて!!
勇者も逃げて!!
命大事!!」
勇者が剣を抜き、笑った。
「了解! 逃げながら守ろう!」
どうしてそうなる。
結果。
勇者パーティは俺の「逃げる」を基準に動き、
魔物は包囲され、
なぜか倒された。
翌日。
町は俺を英雄扱いしていた。
「何もしてないのに……」
俺は布団の中で呟いた。
だが、扉の向こうで声がする。
「参謀、次の作戦会議ですが――」
俺は叫んだ。
「俺は畑がやりたいだけだぁぁぁ!!」




