勇者の回4
朝、俺は机に突っ伏していた。
理由は単純で、昨日の夜に「参謀としての今後」について考え始めたら、途中でどうでもよくなって酒を飲み、どうでもよくなったまま寝たからだ。
つまり完全に自己責任だ。
なのに――
「起きてください参謀!!」
ドアを叩く音がうるさい。
開けると、勇者パーティ全員が揃っていた。
朝だぞ。
なぜ全員いる。
「なにか緊急事態ですか」
俺がそう言うと、戦士が腕を組んだ。
「緊急かどうかは、参謀の判断次第だ」
最悪の前振りだ。
地図が広げられる。
赤い印。
丸。
でかい。
「昨日、森の奥で魔物の群れが確認されました」
魔術師が言う。
「明らかに、今までと質が違います」
僧侶が続ける。
「放置すると、町が危険です」
弓使いが頷く。
「だから参謀の意見を」
俺は一歩下がった。
「いや、なんで最初から俺なんですか」
勇者が言った。
「前に、参謀が『森の奥は嫌な感じがする』と言ったでしょう」
言った。
確かに言った。
雨降りそうだな、くらいの軽さで。
「その三日後、魔物が増えた」
知らん。
「さらに参謀が『今日は剣を研ぐのやめた方がいい』と言った日、剣が折れた」
偶然だ。
「参謀は、危険を察知する力がある」
ない。
断じてない。
俺は言った。
「……行かない、という選択肢は?」
全員、首を横に振る。
早い。
森に向かう途中、俺はずっと文句を言っていた。
「俺、武器ないですよね」
「参謀ですから」
「魔法も使えませんよね」
「参謀ですから」
「走るの遅いですよね」
「参謀ですから」
万能語か。
森の奥。
突然、地面が割れた。
出てきた。
モンスター。
でかい。
吠える。
臭い。
俺は即座に叫んだ。
「無理!! 帰ろう!!」
勇者が剣を構えたまま振り返る。
「理由は?」
理由!?
「見た目が嫌です!」
一瞬の沈黙。
だが、誰も否定しない。
戦士が呟く。
「確かに、嫌な感じだ」
魔術師が魔法を弱める。
「全力はやめます」
僧侶が距離を取る。
「様子見で」
弓使いが後退する。
「逃げ道確保」
俺のせいだ。
モンスターは怒った。
暴れた。
木が倒れる。
地面が割れる。
完全に戦闘だ。
俺は叫び続ける。
「無茶しないで!」
「前に出すぎ!」
「その位置嫌!」
「今の音やばい!」
勇者が逐一従う。
なんでだ。
結果。
倒せなかった。
だが、誰も怪我しなかった。
モンスターは森の奥へ逃げた。
町に戻ると、噂が完成していた。
「参謀、撤退を見極めた」
「被害ゼロ」
「最適解」
違う。
怖くて叫んでただけだ。
夜。
宿。
俺は勇者に詰め寄った。
「いいですか、俺は参謀じゃない」
勇者は真剣に聞いている。
嫌な予感しかしない。
「俺は、責任を取りたくないだけです」
本音だ。
勇者はしばらく黙ってから言った。
「それが、一番信用できます」
意味がわからない。
その瞬間、外が騒がしくなった。
嫌な予感が的中する。
女将が飛び込んできた。
「参謀! ギルドから!」
「聞きたくない!」
掲示板。
新しい紙。
でかい字。
【魔物対応作戦】
【作戦立案:参謀】
俺は天井を見た。
そして静かに思った。
畑なら、
虫に文句を言っても評価は上がらない。
ここでは、
文句を言うだけで、
地位が上がる。
最悪だ。




