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小物冒険者の日常災害  作者: おこげ


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100/107

王都の回、改

王都。

会議室は広く、天井は高く、無駄に静かだった。

重厚な机の上に、一枚の報告書が置かれている。

紙は薄い。

内容は軽い。

だが、空気だけが重かった。

「……で?」

年老いた宰相が、ゆっくり口を開く。

「この“参謀”とは」

報告官は背筋を伸ばした。

「地方都市に滞在中の冒険者です」

「階級は?」

「ありません」

一瞬、沈黙。

「……ない?」

「はい」

「武勲は?」

「確認されていません」

「討伐数は?」

「ほぼゼロです」

会議室の空気が、わずかにざわつく。

「では、なぜ名前が上がる」

宰相の声は低い。

「はい」

報告官は紙をめくった。

「まず、魔物の襲撃予測に成功」

「次に、勇者の全滅を回避」

「町の被害を最小限に抑制」

「住民の避難行動を誘導」

「治安の安定化」

「食糧供給の確保」

「……それで“実績ほぼ畑”?」

誰かが呟いた。

「畑です」

報告官は頷いた。

「主に畑です」

別の貴族が口を挟む。

「つまり、裏で糸を引くタイプか」

「姿を見せない戦術家」

「現場に立たず、空気を動かす男」

「本人の主張は?」

宰相が聞く。

「『何もしていない』とのことです」

会議室が、どよめいた。

「出たな……」

「真の策士ほどそう言う」

「自覚なき天才か」

「あるいは、あえて能力を隠している」

「勇者は?」

宰相。

「彼はこう述べています」

報告官は読み上げた。

「『参謀がいなければ、俺は死んでいた』」

「……重いな」

誰かが呟く。

「魔王軍との関係は?」

「不明です」

「怪しいな」

「怪しくない方が怪しい」

別の書類が回される。

そこには、町の平面図。

赤い線で囲まれた区域。

「この町、要塞化していませんか?」

「していません」

「ではなぜ、防衛に穴がない?」

「偶然とのことです」

「偶然が重なりすぎだ」

宰相は椅子に深く座り直した。

「つまり」

静かに言う。

「この男は、

 王都が最も欲しがっているタイプだ」

「戦わずに勝つ」

「民を動かし」

「英雄を使い」

「責任を取らず」

「前に出ない」

「厄介だな」

宰相は苦笑した。

「勧誘は?」

「過去に、勇者個人が試みましたが失敗しています」

「では正式に」

「断られた場合は?」

宰相は、少しだけ考えた。

そして言った。

「断られる前提で行け」

「え?」

「断るという行為自体が、

 “王都を信用していない理由がある”と解釈できる」

「受けても断っても厄介ですね」

「そうだ」

宰相は言った。

「だが放置するのが一番まずい」

「彼は今、何を?」

報告官は、最後の一文を読み上げる。

「畑の見張りをしています」

沈黙。

「……畑か」

「王都の畑は、最近不作でして」

誰かが言った。

宰相は、ゆっくり立ち上がった。

「決まりだな」

「参謀待遇で迎えろ」

「肩書きは?」

少し考えて、宰相は言った。

「非常勤・戦略顧問」

その頃。

地方都市。

俺は畑の横に立っていた。

カラスもどきが来る。

俺を見る。

逃げる。

「……なんなんだよ」

誰にも聞こえないように呟く。

遠くで、馬車の音がした。

やけに立派なやつだ。

嫌な予感がした。

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