王都の回、改改
馬車は三台あった。
無駄に黒い。
無駄に紋章が多い。
無駄に静かだ。
畑の端で俺はそれを見て、即座に目を逸らした。
見なかったことにした。
畑を見張る仕事に「王都」は含まれていない。
含まれていないはずだ。
だが馬車は止まった。
畑のど真ん中で。
「……なんで?」
俺の問いに答える者はいない。
代わりに、馬車の扉が同時に開いた。
中から降りてきたのは――
騎士。
文官。
なぜか学者。
あと、司祭が一人。
多い。
「こちらで間違いありません」
文官が頷く。
「え、何が」
「“参謀”殿」
聞き慣れない呼び方で呼ばれた。
「違います」
即答した。
「違います?」
「俺は違います」
「どこが」
「全部です」
騎士が一歩前に出る。
「ご謙遜を」
「してない」
「では否定か」
「否定です」
文官はメモを取った。
「自己評価が極端に低い、と」
「書くな」
司祭が口を開く。
「沈黙の美徳ですね」
「しゃべってる」
学者が畑を見回す。
「……なるほど」
「何が」
「ここが起点か」
「畑です」
「象徴的ですね」
「象徴にするな」
彼らは俺を囲んだまま、勝手に話を進め始めた。
「王都では、すでに議論になっております」
文官が言う。
「“参謀”とは個人か、概念か」
「概念?」
「ええ」
「個人ですらない可能性」
「俺は人間だ」
「しかし実績が個人に帰属していない」
「してないのは事実だ」
「戦果ゼロ」
「はい」
「討伐数なし」
「はい」
「にもかかわらず成果のみが存在する」
「……それは、ただの誤解です」
騎士が真顔で頷いた。
「誤解を生む状況を作れるのも、才能」
「作ってない」
「勇者はあなたをどう評していますか」
文官。
「知らない」
「過去に面会歴あり」
「あります」
「生存」
「はい?」
「勇者と面会して生きている」
「普通だろ」
司祭が目を閉じる。
「英雄に影響を与えながら、己は名を残さない……」
「やめろ」
「王都としては」
文官が咳払いをした。
「一度、正式な立場を――」
「断ります」
即答した。
空気が止まった。
騎士が剣の柄に触れる。
「拒否、ですか」
「はい」
「理由は」
「面倒だから」
文官は深く頷いた。
「やはり」
「何が」
「権力を嫌う」
「嫌いです」
「前線に出ない」
「出たくない」
「だが、必要な時だけ存在する」
「存在してない」
学者が言った。
「これ以上の参謀像があるか?」
「ありますよ」
俺は言った。
「机の前で地図広げてる人」
全員が、同時に首を振った。
「それは参謀ではありません」
「じゃあ何だ」
「役職です」
「意味がわからん」
その場は、いったん解散となった。
「検討します」
「慎重に」
「王都へ持ち帰ります」
彼らは帰っていった。
畑を荒らさず。
礼儀正しく。
完全に、何も理解せず。
翌日。
ギルドに行くと、掲示板が変だった。
【畑の見張り】
【参謀経験者歓迎】
「待て」
受付嬢が笑顔で言う。
「指名です」
「畑の?」
「はい」
「参謀の?」
「はい」
「意味がわからない」
「王都から、照会がありまして」
嫌な単語が出た。
「“参謀式運用の再現性について”」
「再現できない!」
「ですよね」
受付嬢は頷く。
「なので、本人に聞こう、と」
俺は頭を抱えた。
その頃、王都。
会議室では、新しい資料が配られていた。
「参謀、現地で勧誘拒否」
「想定内」
「だが、畑の依頼は受諾」
「重要だ」
「戦場では動かない」
「だが、生活圏では動く」
「つまり」
宰相が言う。
「彼は“戦争”ではなく“日常”を支配している」
「怖すぎませんか」
「だからこそ必要だ」
誰かが言った。
「もし彼が、王都の畑に立ったら?」
沈黙。
宰相は、静かに結論を出した。
「畑を用意しろ」
「王都に?」
「最優先で」
その頃、俺は畑に立っていた。
いつも通り。
何もせず。
ただ立って。
カラスもどきが来た。
俺を見た。
逃げた。
「……俺、何やってんだろうな」
遠くで、王都からの第二陣の馬車が見えた。
今度は、もっと多かった。




