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小物冒険者の日常災害  作者: おこげ


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101/107

王都の回、改改

馬車は三台あった。

無駄に黒い。

無駄に紋章が多い。

無駄に静かだ。

畑の端で俺はそれを見て、即座に目を逸らした。

見なかったことにした。

畑を見張る仕事に「王都」は含まれていない。

含まれていないはずだ。

だが馬車は止まった。

畑のど真ん中で。

「……なんで?」

俺の問いに答える者はいない。

代わりに、馬車の扉が同時に開いた。

中から降りてきたのは――

騎士。

文官。

なぜか学者。

あと、司祭が一人。

多い。

「こちらで間違いありません」

文官が頷く。

「え、何が」

「“参謀”殿」

聞き慣れない呼び方で呼ばれた。

「違います」

即答した。

「違います?」

「俺は違います」

「どこが」

「全部です」

騎士が一歩前に出る。

「ご謙遜を」

「してない」

「では否定か」

「否定です」

文官はメモを取った。

「自己評価が極端に低い、と」

「書くな」

司祭が口を開く。

「沈黙の美徳ですね」

「しゃべってる」

学者が畑を見回す。

「……なるほど」

「何が」

「ここが起点か」

「畑です」

「象徴的ですね」

「象徴にするな」

彼らは俺を囲んだまま、勝手に話を進め始めた。

「王都では、すでに議論になっております」

文官が言う。

「“参謀”とは個人か、概念か」

「概念?」

「ええ」

「個人ですらない可能性」

「俺は人間だ」

「しかし実績が個人に帰属していない」

「してないのは事実だ」

「戦果ゼロ」

「はい」

「討伐数なし」

「はい」

「にもかかわらず成果のみが存在する」

「……それは、ただの誤解です」

騎士が真顔で頷いた。

「誤解を生む状況を作れるのも、才能」

「作ってない」

「勇者はあなたをどう評していますか」

文官。

「知らない」

「過去に面会歴あり」

「あります」

「生存」

「はい?」

「勇者と面会して生きている」

「普通だろ」

司祭が目を閉じる。

「英雄に影響を与えながら、己は名を残さない……」

「やめろ」

「王都としては」

文官が咳払いをした。

「一度、正式な立場を――」

「断ります」

即答した。

空気が止まった。

騎士が剣の柄に触れる。

「拒否、ですか」

「はい」

「理由は」

「面倒だから」

文官は深く頷いた。

「やはり」

「何が」

「権力を嫌う」

「嫌いです」

「前線に出ない」

「出たくない」

「だが、必要な時だけ存在する」

「存在してない」

学者が言った。

「これ以上の参謀像があるか?」

「ありますよ」

俺は言った。

「机の前で地図広げてる人」

全員が、同時に首を振った。

「それは参謀ではありません」

「じゃあ何だ」

「役職です」

「意味がわからん」

その場は、いったん解散となった。

「検討します」

「慎重に」

「王都へ持ち帰ります」

彼らは帰っていった。

畑を荒らさず。

礼儀正しく。

完全に、何も理解せず。

翌日。

ギルドに行くと、掲示板が変だった。

【畑の見張り】

【参謀経験者歓迎】

「待て」

受付嬢が笑顔で言う。

「指名です」

「畑の?」

「はい」

「参謀の?」

「はい」

「意味がわからない」

「王都から、照会がありまして」

嫌な単語が出た。

「“参謀式運用の再現性について”」

「再現できない!」

「ですよね」

受付嬢は頷く。

「なので、本人に聞こう、と」

俺は頭を抱えた。

その頃、王都。

会議室では、新しい資料が配られていた。

「参謀、現地で勧誘拒否」

「想定内」

「だが、畑の依頼は受諾」

「重要だ」

「戦場では動かない」

「だが、生活圏では動く」

「つまり」

宰相が言う。

「彼は“戦争”ではなく“日常”を支配している」

「怖すぎませんか」

「だからこそ必要だ」

誰かが言った。

「もし彼が、王都の畑に立ったら?」

沈黙。

宰相は、静かに結論を出した。

「畑を用意しろ」

「王都に?」

「最優先で」

その頃、俺は畑に立っていた。

いつも通り。

何もせず。

ただ立って。

カラスもどきが来た。

俺を見た。

逃げた。

「……俺、何やってんだろうな」

遠くで、王都からの第二陣の馬車が見えた。

今度は、もっと多かった。

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