王都の回、改改改
第二陣の馬車は、数が多かった。
多いというか、もはや行列だった。
畑道に似合わない格式が、畑道を踏み固めながら進んでくる光景は、どう見ても間違っている。
「……畑、逃げていいかな」
逃げ場はなかった。
畑は広いが、世界は狭い。
馬車が止まる。
止まりすぎる。
止まるたびに誰かが降りてくる。
騎士。
騎士。
文官。
文官。
なぜか楽士。
あと、よく分からないが偉そうな人。
「多くない?」
誰にも届かない独り言を畑に投げる。
「“参謀”殿」
今度は合唱だった。
タイミングが揃いすぎていて、気持ち悪い。
「いや、違います」
「承知しております」
即座に返される。
「承知してるなら帰って」
楽士がリュートを鳴らした。
ぽろろん。
「なに?」
「場の空気を整えております」
「畑に?」
偉そうな人が前に出る。
「王都戦略審議会、第三分科会より参りました」
「帰って」
「まずは現状確認を」
「畑です」
「はい」
「以上です」
彼らは俺を無視して、勝手に円陣を組んだ。
「現地に立つだけで魔物が逃げる」
「視線誘導か?」
「存在圧?」
「いや、無策の策では」
「“何もしない”を徹底する高度な判断」
「聞こえてるぞ」
騎士がこちらを見る。
「安心してください」
「何が」
「戦わせません」
「最初から戦ってない」
「剣も振らせません」
「振れない」
「魔法も使わせません」
「使えない」
「……完璧だ」
誰かが感動していた。
その瞬間、畑の奥で音がした。
ばさっ。
ばさばさっ。
来た。
カラスもどきだ。
羽が黒くて、目が妙に賢そうで、どう見ても「俺たち、今から何かやらかします」って顔をしている。
「来ます!」
騎士が叫ぶ。
「来てない、まだ来てない」
俺は一歩も動かなかった。
動く理由がない。
畑の依頼は「立つ」だ。
カラスもどきは、俺を見た。
見て、止まった。
止まって、首を傾げた。
「……?」
って顔をした。
完全に。
そのまま、逃げた。
沈黙。
楽士が、震える指で弦を弾いた。
ぽろ……ん。
「見ましたか」
文官が囁く。
「ええ」
「威圧行動なし」
「殺気なし」
「にもかかわらず、退散」
偉そうな人が深く息を吐いた。
「……記録更新だ」
「何の」
「“存在するだけで退かせた”」
「してない」
「本人は否定」
「重要だ」
「否定することで、再現性を下げている」
「何言ってんだ」
その日の夕方。
畑は無事だった。
いつも通り。
俺は何もしていない。
世界だけが勝手に疲れていた。
ギルドに戻ると、掲示板が増えていた。
【畑の見張り】
【畑の見張り(参謀立会)】
【畑の見張り(参謀式)】
「増やすな」
受付嬢が真顔で言う。
「王都指定です」
「最悪だ」
「ちなみに」
彼女は声を潜めた。
「勇者パーティからも、連絡が来てます」
嫌な予感が、仕事を始めた。
「“一緒に何もしない作戦を考えたい”そうです」
俺は天井を見た。
天井は何も答えなかった。
その頃、王都。
会議室では、新しい結論が出ていた。
「彼は前に出ない」
「だが、後ろにもいない」
「中心にいるのに、関与していない」
「つまり」
「災害だ」
「自然現象寄りの」
「対処不能だが、利用可能」
誰かが静かに言った。
「畑を、増やそう」
その瞬間、遠く離れた畑で、俺はくしゃみをした。
「……風邪かな」
評価だけが、また一段、勝手に跳ね上がった。




