勇者の回
勇者が一人で町に来る時は、だいたいろくな理由じゃない。
大軍を連れてくる時は、王都の判断だし、書類も多いし、面倒だけど秩序はある。
一人で来る時は違う。
勇者個人の「思いつき」だ。
今回もそうだった。
俺がギルドで昼飯の残りを食っていると、勇者が普通に入ってきた。
護衛もいない。
使者もいない。
あるのは剣と自信だけ。
そして、俺を見るなり言った。
「暇ですか」
第一声がそれか。
「暇ではないです」
俺は即答した。
畑の見張りが控えている。
勇者は頷いた。
「なるほど、重要な仕事ですね」
やめろ。
勇者は勝手に椅子を引き、勝手に座り、勝手に話を始めた。
「実は今、仲間を集めていまして」
嫌な単語が聞こえた。
「戦士は大体決まりました」
聞いてない。
「魔術師も候補がいます」
聞いてない。
「問題は、参謀なんです」
聞いてないし、聞きたくない。
「俺、参謀じゃないです」
俺は言った。
勇者は「ああ、その話ですね」という顔をした。
その顔が一番信用できない。
「いえ、あなたは参謀です」
断定。
俺は慎重なだけだ。
「戦えません」
俺はもう一度言った。
勇者は即答した。
「それは承知しています」
承知しているなら、なぜ話を続ける。
「参謀は戦いません」
勇者は言った。
「むしろ、戦わない人間が必要なんです」
理屈がおかしい。
俺は嫌な予感がして聞いた。
「……何人で行くつもりですか」
勇者は指を折る。
「私」
嫌だ。
「戦士」
嫌だ。
「魔術師」
嫌だ。
「僧侶」
嫌だ。
「あなた」
嫌だ。
「五人ですね」
なぜそこに俺を入れる。
「断ります」
俺ははっきり言った。
勇者は、少し困った顔をした。
「それは困ります」
困るのは俺だ。
「実はもう、王都に報告してしまいました」
最悪だ。
「“有能な参謀が町にいる”と」
誰だそれ。
俺は頭を抱えた。
「俺、畑しかやってません」
勇者は少し考えてから言った。
「現場経験が豊富、ということですね」
変換するな。
「一回だけでいいんです」
勇者は軽い。
「一回、同行して、合わなければやめましょう」
その一回が命取りだ。
「参謀、初戦は後ろでいいです」
「発言は自由」
「責任は私が取ります」
信用できない言葉ランキング上位だ。
その時、ギルドの受付嬢が口を挟んだ。
「あ、勇者様、その人、参謀って呼ばれてますけど、本当に何もしませんよ」
救いだ。
と思った。
勇者は、目を輝かせた。
「何もしないのに結果が出る」
やめろ。
話は終わった。
終わったことにされた。
その日の夕方、町で噂が回り始めた。
「勇者が参謀を口説いている」
「もう決まりらしい」
「次は王都だって」
俺は宿で天井を見ていた。
女将が言った。
「勇者、あんた気に入ったみたいね」
俺は答えた。
「最悪です」
女将は笑った。
「それ、だいたい決まる前触れよ」
布団に入る。
剣もない。
魔法もない。
戦う気もない。
だが、
勇者はやる気だ。
しかも一人で。
俺は思った。
魔王より怖いのは、
準備不足の勇者だ。
そして、
なぜかその隣に、
俺の席が用意されている。
全く納得していないのに。




