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小物冒険者の日常災害  作者: おこげ


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善意の回

その日、俺は金がなかった。

正確に言うと、朝はまだあった。銅貨が三枚。

だが朝という時間帯は油断を生む。

宿屋の女将が言った。

「昨日のスープ、余ってるけど飲む?」

余っている。

無料。

この二語が並んだ瞬間、人は判断力を失う。

三杯飲んだ。

満足した。

財布を見たら、なぜか銅貨が一枚減っていた。

「おかわりは一杯につき銅貨一枚ね」

聞いてない。

ギルドへ行く。

掲示板を見る。

今日は不作だ。

【討伐】高危険度

【護衛】長距離

【畑の見張り】夜間

畑はもういい。

命は惜しい。

結果、残る選択肢はない。

帰ろうとしたところで、声をかけられた。

「ちょっといいか」

商人だった。

荷車の横で、困った顔をしている。

「人手が足りなくてね」

この時点で、嫌な予感はしていた。

だが断る理由も、断る気力もなかった。

「運ぶだけだ」

この言葉を、俺は何度も聞いている。

そして一度も良い結果になったことがない。

荷物は重かった。

重さそのものより、重そうに見えないのが腹立たしい。

「軽そうだろ?」

軽そうなだけだ。

運ぶ。

汗をかく。

運び終わる。

商人は笑顔で言った。

「助かったよ!」

それだけだった。

俺は一瞬、立ち尽くした。

もしかして次に何かあるのでは、と思った。

なかった。

「……報酬は?」

「感謝だよ」

最悪の返答だ。

ギルドを出ると、今度はパン屋に呼び止められた。

「これ、余りなんだけど」

紙袋。

パンの匂い。

腹が鳴る。

受け取った瞬間、奥から怒鳴り声。

「それ、売り物!」

空気が凍る。

パン屋が俺を見る。

俺がパンを見る。

パンは何も悪くない。

結局、「誤解を招く行動」ということで、

パンは没収された。

「ごめんね」

謝られても腹は満たされない。

昼。

何も食べていない。

金もない。

歩いていると、今度は鍛冶屋に捕まった。

「試してくれ」

渡された剣。

新品。

明らかに高そう。

「武器使わないんだろ? だからちょうどいい」

理屈が雑だ。

持つ。

重い。

振る。

手が滑る。

剣、落ちる。

床、へこむ。

鍛冶屋、沈黙。

「……床代」

俺は逃げた。

夕方。

もう誰にも話しかけられたくない。

だが町というのは、そういう日に限って話しかけてくる。

井戸の前で老婆に呼び止められた。

「ちょっと水汲んでくれないかね」

断れなかった。

断れる雰囲気ではなかった。

水を汲む。

運ぶ。

腰が悲鳴を上げる。

「ありがとう」

それだけ。

今日何回目だ。

日が落ちる。

財布を見る。

銅貨:ゼロ。

今日やったことを思い返す。

・運んだ

・もらいかけた

・試した

・汲んだ

すべて善意。

すべて無償。

宿に戻ると、女将が腕を組んで待っていた。

「今日は?」

俺は正直に言った。

「善意だけで生きてました」

女将は少し考え、言った。

「じゃあ皿洗い」

報酬:宿代半額免除。

最初からこれでよかった。

夜。

布団に入る。

身体は疲れている。

腹は空いている。

財布は空だ。

今日の教訓。

この町では、

善意は最も高くつく。

目を閉じる。

翌朝。

ギルドに行くと、掲示板に新しい紙が貼られていた。

【善意活動感謝状】

対象:昨日、町内で多大な協力を行った人物

俺の名前が、あった。

報酬欄は、空白だった。

俺は思った。

せめて銅貨一枚でいいから、

善意に値段をつけてほしい。

この町では、

それが一番の贅沢らしい。

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