久しぶりの畑回
畑の依頼は今もやっている。
ギルドの掲示板を見に行くと、最初に視界に入るのがそれで、討伐や護衛の紙を自然と読み飛ばしている自分に気づいたとき、少しだけ人生について考えそうになったが、考えると腹が減るのでやめた。
【見張り】
【農地】
【昼】
【危険度:低】
低い。
相変わらず低い。
受付嬢は俺を見るなり、書類を一枚引き抜いた。
「今日も畑ですね」
「選んだ覚えはないんですけど」
「適性があるので」
適性という言葉を、そんな雑に使っていいのか。
報酬は銅貨二枚。
野菜は、気分次第。
気分次第で増減する報酬にも慣れてしまったあたり、俺はもう立派な冒険者ではない気がする。
畑に着く。
見慣れた畑だ。
土の色も、作物の並びも、だいたい覚えている。
農家のおっちゃんは、俺を見ると手を振った。
「今日も頼むな」
「はい」
説明はない。
指示もない。
もう、そういう段階は終わっているらしい。
立つ。
畑の端。
いつもの杭の横。
ここが一番、何も起きない。
経験則だ。
風が吹く。
葉が揺れる。
平和だ。
平和すぎて、
仕事をしている実感がない。
しばらくして、
杭の上に黒い影が降りた。
カラスもどきだ。
見た目はカラス。
だが鳴かない。
視線が合う。
合いすぎる。
「……今日もいるのか」
声をかけても、反応はない。
ただ、首を傾けて、畑と俺を交互に見る。
何を確認しているのかは分からない。
だが、害はない。
だから、放置だ。
一時間経過。
何も起きない。
二時間経過。
本当に何も起きない。
「……逆に怖いな」
誰に向けたわけでもない独り言が、畑に落ちる。
午後。
足元の土が、少し盛り上がった。
モグラだ。
ゆっくり顔を出し、
俺と目が合う。
「……どうも」
挨拶する意味はないが、
なんとなくしてしまった。
モグラは畑を掘る。
俺は見ている。
役割は明確だ。
数分後、モグラは別の場所へ移動し、姿を消した。
被害は、軽微。
というか、
毎回その程度だ。
夕方。
農家のおっちゃんが戻ってくる。
「どうだった?」
「いつも通りです」
「それは助かる」
助かっている理由は分からないが、
助かっているらしい。
報酬を受け取る。
銅貨二枚。
芋が四つ。
「今日は畑の調子がいいからな」
畑の調子で増える芋。
理屈は考えない。
帰り道。
俺はふと、掲示板の依頼を思い出す。
魔物討伐。
護衛。
調査。
どれも、
俺には向いていない。
畑の見張りは、
何も解決しないし、
何も倒さない。
ただ、畑のそばに立つ。
それだけだ。
それでも、
今日も畑は無事で、
俺は銅貨と芋を持って帰っている。
この町では、
それで十分らしい。
畑の依頼は今もやっている。
そして明日も、
たぶん、やる。
理由は簡単だ。
腹が、減るからだ。




